京都工芸繊維大学

2.大腸菌のポリアミン代謝系〜ポリアミン代謝とグルタチオン代謝の関係

 私たちはこの遺伝子群は図2に示した代謝系を構成しているのではないかと予想しました。つまり、菌体外の何らかのアミンを取り込みγ-グルタミル化させて後、異化していき、その後γ-グルタミル基を切り離し、さらに異化していくのではないかと考えました。

図2

 大腸菌をつぶして菌体内のアミノ酸分析をすると、野性型の場合は特に目立ったピークはありません。ところが図3に示すようにpuuDからpuuEまでの遺伝子をつぶすと大きなピークが現れました。予想した代謝経路からこれはγ-グルタミル-Xと考えられました。そこで、この物質を精製して機器分析したところ、γ-グルタミルプトレッシンであることが分かりました。従って、菌体外から取り込まれるcompound Xはプトレッシンです。私たちは、この代謝系をputrescine utilization pathwayからPuu pathway (Puu代謝系)と命名しました。

図3

 Puu代謝系は図4に示したようなものだと考えられます。菌体外のプトレッシンをPuuPが取り込み、PuuAがATPのエネルギーを用いて、プトレッシンの一方のアミノ基をγ-グルタミル化して、γ-グルタミルプトレッシンを作ります。PuuB, Cがもう一方のアミノ基を酸化していき、γ-グルタミル-GABAにします。PuuDがγ-グルタミル結合を切断します。フリーになったアミノ基側をPuuE以下の酵素が脱アミノ化・酸化してコハク酸にし、TCAサイクルに送ります。つまり、この系は菌体外のプトレッシンを取り込み、N源、C源として利用する異化経路であると考えられます。

このようにプトレッシンの代謝の途中で、ポリアミンのアミノ基のように反応性に富む官能基をγ-グルタミル化することにより保護し、その後脱保護するという、有機合成するときと同じようなことを菌体内で行っており、γ-グルタミル基が保護基として使われているということが分かりました。

図4