記 事: 第16回実験力学国際会議(ICEM16)参加記録
学生との国際会議
Anak先生との再会
Northwetern大学
四方山話
米国流賢いやり方
SPring-8の一日

学生と参加した第16回実験力学国際会議



【初めに】 2014年7月7日(月)〜7月11日(金)に開催されたICEM16に,修士学生3名と参加しました.会場はロンドン・キングスクロス駅から快速で50分(普通列車だと90分)のケンブリッジ大学ロビンソンカレッジでした.

複数人の学生を連れての国際会議への参加は,私としても初めてだったので少々不安がありました.しかし,実際には実り多き学会参加となりました.その印象を忘れる前に,ここに記載します(研究ノートみたいなものです).当然,会議内容が最も大切なのは理解していますが,ここではあまり書かないことにします(学生諸君は,あまり興味ないでしょ?).

【出発前1】 国際会議で発表するためには,まず会議録用の英文原稿を作成する必要があります.学生諸君が作成した原稿は,念のため,英文校閲業者に修正してもらった後に提出しました.それはそれで大変だったと思いますが,彼らが最も大変だったのは講演発表の練習だったと思います.

秋山教授にネイティブスピーカー(同志社大学のWever先生)をご紹介願い,彼らの発表を聞いてもらうとともに,発表原稿の修正をお願いしました.さらに,修正原稿を音読してもらい,その録音に基づいて学生諸君は練習しました.W先生が人格的にも素晴らしい「Teacher」であったことは,私たちにとって大変に幸運でした.

【出発前2】 当然,出発前には正式な参加申込み(参加費の支払)だけでなく,航空チケット購入や宿泊の手配をしなければなりません.会議中の宿泊は,会場であるロビンソンカレッジの宿泊施設(学生寮)が推奨されていました.しかし,宿泊できる人数に限りがあるため,早めに申し込む必要がありました.その際に一つ目の問題が発生しました.

予め学生諸君には,立替払いのためにクレジットカードを準備するように伝えましたので,彼らはその準備をしていました.しかし,参加費,バンケット(会議のパーティ)費用,宿泊費用を併せると,彼らの学生用カードの支払い限界を超えていました.その上,昨年にC国へ行った関係からか,私のカードが不正使用された疑いがあり,私のカードも止められていました.私はカードをほとんど使わないので,海外で通用するカードを1枚しかもっておらず,その上カードを止められていることに気づきませんでした.カード会社から警告はあったのですが,それこそ詐欺だと思っていました.

学会参加費等の銀行振込みを試みましたが,手続きが大変面倒な上にレートで大幅に損をすることがわかりました.結局,ケンブリッジの先生にご配慮を願い,なんとか切り抜けました(学生諸君は支払い限度を上げ,私はカードの再発行+もう1枚発行).

【出発前3】 出発1か月前,学生諸君が発表準備でバタバタしている時に,二つ目の問題が発生しました.イギリス到着日(7月6日夕刻)にロンドン・ヒースロー空港からケンブリッジまで長距離バスで移動する予定だったのですが,翌日にツール・ド・フランスがケンブリッジを通過するために利用者が多く,バスの予約が取れませんでした.予め学会運営者から,その影響を連絡されていたのですが,そこまで影響があるとは予測できませんでした.

結局,日本で車を手配しました.割高ではあったのですが,今は良かったと思っています.理由は,1.重い荷物を持って右往左往することなく,バスの所要時間の半分以下でロビンソンに到着できたこと※,2.割高であったとは言え,電車利用の場合と比べると,一人あたりであれば+5000円程度であったこと(4名参加が功を奏しました),3.その車がきれいで大きなバンタイプでサービスも良かったこと,4.その車の運転手が「みのもんた」などの日本人の芸能人を乗せたことがあり,帰国後の話題を作れたことです.

※会場到着後,前日到着のインド人学生と話したところ,ケンブリッジのセントレにあるバス停からロビンソンへ来る際に道に迷い,40分くらい重い荷物を引いてやっと到着したとの話を聞きました.本来,徒歩15分程度の距離です.

【出発1】 以前,当研究室に所属していた中国人留学生J君に「関空までは乗合タクシーの方が良い(安い)」と聞き,彼と中国での国際会議に参加した際などでは,それを利用しました.当然,今回もそうしました.家まで迎えに来てくれる上に,学生は学割がきくので往復6千円程度です(私も往復6.5千円).安い,安すぎる.ヒースローからケンブリッジへのタクシーは今回,4人乗車で一人片道16千円です.高い,高すぎる!

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1.行きの機体(関空→仁川),2.関空ロビーにて出発を待つ学生

【出発2】 費用を抑えるため,今回,アシアナ航空を利用しました.私の専門柄,機体整備に関して心配はあったのですが,学生諸君の同意を得た上でアシアナを選択しました.毎回そうしているのですが,全員10千円の保険を掛けました.これにより,UKでの急病等にも対応できます.

今回の経験から,アシアナは好きになりました(ANAの影響下にもありますし).仁川での2〜3時間の乗り継ぎ時間は必要ですが,なぜか関空からUKへの直行便が1便もないので,成田を経由するくらいなら仁川経由の方が良いと思います.仁川空港はサービスでも世界的に有名です.

ただし,関空で酒類やジャムなどを買わないように気を付ける必要があります.乗継時のセキュリティチェックで,手荷物に液体関係の物品があるとすべて没収されます.そこには沢山の酒類が関空お土産店の袋ごとぶら下がっていました.ロンドンでジャムを買った学生は,復路の乗継時に没収されました.

仁川では,李王朝の王族衣装を着た人がいたり,カルテットが音楽を奏でていたりします.また,Duty Freeショップも沢山あります.さらに帰りに立ち寄った際に気づいたのですが,アシアナを使えば無料でシャワーも浴びられます.日本の国際空港も同じようにすれば,かなり評判は上がるのではないでしょうか?良いことは真似しましょう!ただし,食事は安い(800〜1000円)一方,ビール(1本400円),キムチ(1箱18ドル)は高かったのが気になりました.

 

 
仁川空港にて

【会場到着】 ヒースローでの入国審査後,予約したおいた車で,スムーズにロビンソンに到着しました.途中,虹が見え,あたかもUKが私たちの到着を祝福してくれているようでした.

ロビンソンの宿泊施設は,本来学生向けなのですが,6月末までに卒業生がいなくなるので,その後8月末までその分の部屋が空いています.今回の国際会議では,そこを利用していました.学生寮と言っても決して汚いわけでなく,ちゃんとベッドメイキングもしてくれました.その上,チップも取りませんでした(最後に5ポンドほど置いてきましたが).

今回,女子学生が参加したため,彼女はバスルーム付の部屋を予約しました.私を含めて残りの男3人は,おもしろそうでもあり,複数部屋の住人がバスルームを共用する部屋を予約しました.ありがたいことに,私は安い料金でバスルーム付の部屋が割り当てられ,その上,エレベーターもついていました.女子学生は1階の部屋であったため,荷物運びに問題なかったのですが,他の男子学生2名は4〜5階まで荷物を運んでいました.

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1.Tさんの部屋(学生寮なのだがどの部屋もきれい),
2.ロビンソン入口,3.ロビンソン遠景,
4.ロビンソン庭(大学とは思えない),
5.私の喫煙所(周りに花が一杯,喫煙所と思えない),
6.10分ほど歩いたところにある有名な数学橋

【朝食・昼食】 会議の会場は2つでしたが,それぞれ宿泊施設から歩いて1分ないし5分で到着できました.宿泊施設のダイニングルームで朝食および昼食をとりましたが,近くてとても便利でした.

しばしば,「UKは食事がまずい」と言いますが,私はそうは思いません.確かにパンは日本のものの方が好きです.それでも米国のパンよりずっとおいしかったです.その他の食事も,悪名高いサンドウイッチを含め,全く問題ありませんでした.高級レストランで毎日食事している人にとってはそう感じるのかもしれませんが,これってガセネタなのではないのでしょうか?学生たちも同じ意見のようでした.

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1.朝食会場(学生食堂),2.朝食メニュー,
3.昼食会場(時間になると満杯,ここも学生食堂),
4.昼食メニュー(まずそうですか?)

【会議1】 今回の国際会議は,とても有意義でした.理由は,毎日朝一で基調講演があり,それらが素晴らしかったことです(1件を除き,全部聞きました).確かに,最終日の「マウスの脳に向けて超音波を照射し,脳の弾性振動を測定する技術」につては,なぜそれが必要なのか疑問がありましたが,それはそれで面白かったです.

一般講演等で興味深かったのは,1.広範囲の情報取得方法:例えばDIC(本部門田中(洋)先生が研究に使用)や赤外線応力測定など,2.爆発時の材料に対するダメージ:例えばテロのあった際の窓ガラスの割れ方と防止方法などです.2などは,危機管理が不得意な日本人も考えるべき内容を含んでいました.ただし,「ガン細胞の弾性率測定」など「?」な内容も含まれていました.

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1.基調講演開始前のホール,2.基調講演会場入口

【会議2】 学生諸君は,最後の2日間に発表が割り当てられていたため,ロビンソン到着後,緊張が続いたと思います.発表については,私が言うのはどうかとも思いますが,ほぼ満点でした.しかし,やはり質問に対する回答はかなり手こずっていました(私も最初に国際会議で発表した時には,ほぼ立ちんぼでした).それでも,学生諸君は「未経験(すなわち,レベル0)」を「経験済み(レベル1)」へと飛躍したのだと思います.後はレベルを上げるだけです.

少々違うことを学んだのは,Tさんの講演からでした.日本女性の力は凄いですね.彼女が回答できずにいることを見た外国人研究者が,一度に4名ほど手助けのための発言をしてくれました.会場全体が彼女の友達のようでした.ちょっとずるい気もします.

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1.緊張感漂うID君(発表前),
2.「かわいく」発表するTさん(失礼ながら,声がとてもかわいかった),
3.写真の都合で良く見えないIN君
(彼の発表には,座長からお褒めの言葉がありました),
4.みんなで記念撮影


【会議3】 今回,東工大の井上先生から喫煙所で英国の先生をご紹介してもらいました.スモーカーの利点は,会議の合間に必ず喫煙所で出会うことです.その英国の先生に今まで持っていた質問を幾つかしました.1.EU圏では英語で話すが,どの国の人も英語が上手なのか,2.EUで英語を通じたコミュニケーションができるから統一的な方向でうまくやれるのか,3.日本人の英語はどのように聞こえているのか,などです.要約すると,1については「昔のフランス人は英語が苦手だった.でも,会議に参加する今の若い人はどの国の人も英語が上手」,2については「必ずしもそう思わない.英語は手段に過ぎない」,3については「発音がクリアーだ」(悪口言えないですし)でした.

私は英語が得意ではないのであまり言えないのですが,今回の会議に参加して思ったことは「もっと英語がうまくなりたい!」でした.米国での留学体験から,生活レベルでは何とかできます.また,論文に使用する英語は時間を掛けて完成度を上げることができます.しかし,その場でしゃべる場合,即座に応答しなければなりません.その意味で,日本人学生が海外へ行かないことは,政府も危惧しているように中長期的に問題だと痛感しました.

【バンケット】 バンケットは,ケンブリッジから少し離れたダックスフォードで,全員学会が手配したバスで移動しました.そこには航空博物館があり,バンケット開催前には手にシャンパンやビールなどを持ちながら見学しました.参加者に楽しんでもらいたいという主催者の気持ちがジンジン伝わりました.経験から言えば,こんな国際会議ばかりではありません.

私は十分に楽しませてもらいました.特に,金属疲労に係る事故事例で有名なComet機(ただし,Mark IV)もありましたし,コンコルドのプロトタイプなどもありました.これだけでも,私は今回の会議を十分に満喫しました.

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Duxfordにて:1.Comet Mark IV(材料強度学で説明した機体),
2.そのコックピット(初めて見た),3.コンコルド・プロトタイプ,
4.1stクラス料金でこの狭さ!,
5・6.プロトタイプなので各種測定機器がある

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7.バンケット会場,8.みんなで食事

【ケンブリッジ】 よく日本は街にごみがないと言われますが,ケンブリッジも同じでした.また,自転車も簡易なカギを掛けただけでその辺にありましたから,安全な街だと思いました(米国では直ぐに盗まれる.私は$350の自転車を,買ってから3日目に盗まれた.その話を聞いた日本人は,がんじがらめに鍵を3つ掛けいていたがサドルと付属品が盗まれた).

会議初日,基調講演後にツール・ド・フランスを見に行きました(下参照).


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スーパーマーケットの方が安いので,夕食用の食事は街へ買い出しに出ました(下参照).街は本当にきれいでした(まるでUSJのよう).

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1.スーパーマーケットへの買出し(後ろはCam川とKing's College裏側,私はワインの買出しにもう一度行きました),2.ロビンソンから街までの道

3日目,私が講演を聞いている間に,学生たちはケンブリッジ見学をしていました(下参照).

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1・2.私が講演を聞いている間に学生が行ったパブ
(DNAらせん構造が発案された所),
3.そこで大いに食べるIN君,4.ちょっとだけ食べるTさん,
5.とりあえず飲むID君とIN君(キルケニーか?),
6.DNAらせん構造を考えていた際に作製された原子模型
(ロンドン・科学博物館)

【ロンドンの地下鉄】 ロンドンの地下鉄は有名です.ID君に言われてオイスターカード(日本のピタパみたいなもの)を入手しましたが,これは大正解でした.イギリスの地下鉄初乗り料金は5ポンド(900円)です.しかし,オイスターカードを使えば半額であり,また1日の使用料金は最高8ポンドで打ち切りになります.

会議参加前,学生たちは研究室で「ロンドン地下鉄ゲーム」をやっていたようで,駅名などを結構知っていました.そのゲームの中で「路線閉鎖」などのルールがあるようなのですが,実際,予告なしに駅が閉鎖されていました.私も,降りたい駅が閉鎖され,気づいたら次の駅だったというのを経験しました(結構びっくりした).

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1・2.比較的古い地下鉄の列車は天井が丸い.
気を付けないと頭を挟まれる(私は挟まれた),
3.ロンドンの地下鉄駅は深い,4.予告なしに閉鎖される駅
(気を付けないと目的の駅を通過する)

【ロンドン】 ただただ楽しかったです.今回学生諸君と国際会議に参加した大きな理由は,確かに学生から言われたことです.しかし,個人的な伏線として,前回までの国際会議への学生との参加時に,誰かとその時間を共有することの素晴らしさを知ったことがあります.それまでは,自由に美術館周りをするのが好きだったのですが...

個別に説明するより,画像を見てもらった方が理解は容易です.まずは,バッキンガム宮殿前で撮影した映像から.

 
画像をクリック

次に写真を示します.

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1.ケンブリッジからキングスクロスへ,2.ロンドン・キングスクロス駅,
3.ハリー・ポッターのグッズを売っている店,
4.すぐ横に9-3/4プラットフォームがある(混んでる)

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5.ベーカー街221B
(Sir.ドイルが小説を執筆した際には存在しなかった番地),
6.ワトスンとホームズ,7.アビーロードにて,8.ビッグベン前

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9.IMechE本部(IMechEを訳すと「機械学会」,世界で最初なので
頭に「英国」はつかない,秋山先生,澤田先生,私は会員),
10.本部中央階段(歴史を感じる),11.大英博物館,
12.チェス盤(ハリーポッターで有名),
13.ナショナルギャラリー(今回2度行った),14.浮く人

ロンドンの有名なミュージアムは,ただで入館できます.それは,英国が「大英帝国」であることの証しなのかもしれません.日本にも沢山,素晴らしいところはありますが,国家的側面からすると残念です.

英国人は外人にやさしいと思います.しかし,3年間英国で暮らした秋山先生は,そうは言いませんでした.英国人が優しいのは,同等と見なしてない人に対してなのかもしれません.

【英国の国鉄】 英国の国鉄料金は複雑です.On-Off time,往復割引,グループ割引(3名以上),事前購入等の兼ね合いで簡単に料金が変わります.例えば,On timeにロンドンからケンブリッジまでのチケットを買ったところ,往復割引なのに40ポンドでした.しかし,最終日の片道チケットでは,Off time,グループ割引で15ポンドでした.

ロンドンからケンブリッジへの帰りには,日本にない風景を見ました.平日のラッシュアワー(On time)だったこともあり,かなりの人が掲示板の前に集まっていました.その後,掲示板にケンブリッジ行快速の出発ホームが掲示された途端,全員がそのホームに向けて走り始め,私たちはその人の渦に巻き込まれました.その時,何が起こったのか理解できなかったのですが,後で聞いたところ,出発ホームが結構頻繁に変わるので,ホームが確定するまで待っていたようです.

その日,私も学生もへとへとだったので,座席を求めて普通列車のホームへ移動しました.ケンブリッジまで時間はかかりましたが,列車内でショーンコネリーみたいな人と話ができ,それはそれでよかったと思います(なんで快速に乗らなかったのかと笑われました).

その時,日本人が思っているほど,英国人は日本のことを知らないのを痛感しました.「Kyoto」は世界ブランドだと思っていたのですが,その人が言ったのは「ああ,環境会議が開催された都市だね」でした.そのため,最初,私は彼が何を言っているのか理解できませんでした.

【最終日前日】 ロンドン・パディントンで1泊し,ヒースローから帰りました.最終日前日の宿泊時,学生の部屋ではドアの故障のため,バスルームに閉じ込められそうになるというアクシデントもありました.パディントンからヒースローへは,ヒースローエクスプレス(特急,25ポンド)ではなく,ヒースローコネクト(急行,10ポンド)で行きました.

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1.最後に泊まったパディントン駅近くのホテル,
2.学生はバスルームに閉じ込められそうになったがドアをこじ開けた,
3.ホテルのバーでID君,UK最後の物思い,
4.IN君,UK最後の晩餐

【帰 国】 ヒースロー→仁川→関空byアシアナで帰りました.滞りなく業務を全うし,各人,十分な経験を積んで帰ってきました.

【最後に】 学生が国際会議に参加することの意義を言葉で説明できません.彼らには多くの努力を要求しました.しかし,年寄りができることは,彼らを国際会議へ誘うことで,多くの経験を積んでもらうことだと思います.


ほとんど写真を撮らない私のベストショット(King's College前にて)

※このページでは,ICEM16に参加した学生諸君の許可の下で,彼らが撮影した画像を使用しています.

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