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米国流賢いやり方

 私は平成10年5月より1年間,米国イリノイ州シカゴ近郊の街エバンストンにあるノースウエスタン大学に文部省在外研究員として派遣して頂きました.米国での長期滞在生活を通じ,種々の貴重な経験をしました.そこでこの機会に,ユニークな米国人の物事のやり方について少々書かせて頂きます.




米国の大学の芝生は,異常にきれい.
これは,職業を供給するためのようです.

 まず,あるジーンズメーカが教会で催したチャリティの話です.そのチャリティでは,箪笥の肥やしになっているジーンズをメーカーが数ドルで買い取り,収益を教会へ寄付するというものでした.

 これだけでは米国でよくある話なのですが,買い取ったジーンズをさらに日本やアジア諸国へ安価で転売したそうです.日本では一時,古着が流行しており,特に古い(ビンテージ)ジーンズが人気の的でした.また,最近まで続いたアジア諸国の好景気は,米国への憧れからかジーンズブームを巻き起こしていました.こういったわけで,転売したジーンズは飛ぶように売れたそうです.


 では,これのどこがユニークだったのでしょう?まず,古着を売った人たちはいらないジーンズを処分できて,お金がもらえた上に教会へ貢献できました.教会は,メーカーが買い取った際の収益+転売で得た代金を寄付されたので,1着のジーンズで2度寄付を受けました.ジーンズを買った人達は,安価でジーンズを手に入れましたし,一部の日本人マニアは二束三文でビンテージものを手に入れたことになります.ではメーカーは...

 実はちゃっかり得をしていたのです.まず,教会での催し物ですから場所代は不要です.チャリティを催して購買者への印象を良くしましたし,古着は転売したので処分費用もかかっていません.また,古着を手放した人たちが新しいジーンズを買ったため,売り上げも伸ばしました.さらに,面白い話だったのでニュースになり,ただで宣伝できたことになります.

 上の例では教会を出しに使っているわけですから,悪く言えばクレバーな(ずる賢い)やり方です.しかし,皆が得をしたので文句はでません.やり方としては完璧だったのです.


 大学でも感心したことがあります.米国で奨学金制度が発達していることは日本でも良く知られています.私が所属した学科はお金持ちでしたので,ほとんどの大学院生が奨学金をもらっていました.具体的には,学費(年間約300万円)+生活費(確か月20万円程度)が支給されていました.



 日本人の感覚で奨学金と言えば優秀な学生にご褒美としてくれるように感じますが,米国では違います.教授が獲得した研究費から奨学金が支給されるので,教授が学生を雇っていることになります.このような雇用関係のため,教授が「この学生はだめだ」と思えば奨学金を打ち切ることもできます.いちいち「ちゃんと研究しろ」と学生に言う必要は無いのです.

 教授は奨学金支給を通じ,優秀な学生という研究労働力を確保することで多数の論文を執筆します.これにより次の研究費獲得が容易になります.また,米国では学生が奨学金を求めて大学間を渡り歩くので,教授が奨学金を支給することは優秀な学生獲得という大学への貢献でもあります.そのため,教授は大学内での研究室面積を増やすことができます.

 逆に,このような貢献を疎かにすると研究室が削られます.一方,学生達は高い学費が免除される上に一応の生活基盤を得ることができます.さらに論文執筆を通じて身につけた知識や学位など,一種のキャリアを得ることで就職が容易になります.以上のように,米国では教授と院生が奨学金を通じて相補的に結びついています.

 米国人はしばしば皆が得をする方法を考え出します.このような利口なやり方は,物事をスムーズに進める上で重要ですから,頭のどこかに止め置くべきだと思いました.

(以前京都工大会誌に掲載していただいた内容に一部修正を加えました.)

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