京都工芸繊維大学

2.大腸菌のポリアミン代謝系〜ポリアミン代謝とグルタチオン代謝の関係

 図1に示したγ-グルタミル-p-ニトロアニリド(γ-GpNA)は、GGTによって加水分解されるとp-ニトロアニリンを遊離し、黄色に呈色します。私たちは通常、この色を指標にGGTの酵素活性を測定しています。

 従って、私たちの使っているGGT遺伝子を完全に欠失した変異株はγ-GpNAの加水分解活性を持っていないはずです。ところが、高速で振とう培養したGGT欠失変異株のセルフリーの中には、γ-GpNAの加水分解活性があることを見出しました。そこで、いったいどんな酵素がこの活性を持っているのだろうかということで研究を始めました。

 γ-GpNAの加水分解活性を指標に酵素を精製し、N末アミノ酸配列を決定したところ、これはycjLという遺伝子がコードしている酵素であり、このYcjLタンパクの機能は未知であることが分かりました。YcjLタンパクにはグルタチオンの加水分解活性はありません。ycjL遺伝子は、DNA結合モチーフを持ったタンパク質をコードするycjC遺伝子とオペロンを作っており、ycjL遺伝子だけを多コピープラスミドにクローニングするとγ-GpNAの加水分解活性が高発現しましたが、ycjC遺伝子と一緒にクローニングするとそれほど活性が増大しないことから、YcjCタンパクはこのオペロンを負に制御するリプレッサーであると考えられました。このオペロン周辺を見回すといろいろな機能未知の遺伝子が並んでいることが分かりました。ycjL遺伝子のプロモーターとオーバーラップする逆方向のプロモーターを持つycjK遺伝子がすぐ隣にありました。YcjKタンパクのアミノ酸配列は、グルタミン合成酵素とよく似ていました。グルタミン合成酵素はATPのエネルギーを用いて、グルタミン酸とアンモニアの間に新しいアミド結合を生成する酵素で、機能的にもYcjKはYcjLと関連があると予想されました。また、ycjJ遺伝子はリジンまたはアミンのトランスポーターをコードしていると予想されていました。

遺伝子の下流には、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、オキシドリダクターゼ、GABAアミノトランスフェラーゼと相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子がオペロンを作っていると考えられました。

大腸菌における新規プトレッシン代謝経路