研究紹介
<研究1>宇宙環境での植物の応答
コケ植物である「ヒメツリガネゴケ」を実験材料として、重力の変化に対して植物がどのように応答するのかを調べています。遠心装置を改良した「過重力実験装置」で地球上の10倍までの重力をつくり、栽培実験を行っていました。地球上の6倍、10倍の重力では、葉緑体が大きくなり、植物体の数が増加し、植物体内の二酸化炭素拡散が活発になることで、光合成速度が増加しました(Hanba et al. 2025, Science Advances)。また、宇宙での微小重力がどのようにヒメツリガネゴケに影響するのかを調べるため、国際宇宙ステーション(International Space Station)の「きぼう実験棟」での実験を、2019〜2020年に行いました。微小重力を模擬した装置である「クリノスタット」を使った実験も行っています。
<研究2>都市温暖化対策として樹木を有効利用する
都市の樹木には、木陰をつくることで夏の暑さをやわらげる、二酸化炭素を吸収して温暖化の抑止に役立つなど、多くのはたらきがあります。しかし、都市の樹木は植栽から数十年が経過しているものが多く、近年の夏の著しい高温化などの気候変動に対応できなくなってきている心配があります。今の都市環境で、都市の樹木はどのように光合成を行っているのかを調べ、これから予想される気候変動に強い樹木種は何かを明らかにする研究を行っています。
高木の街路樹として日本で最もよく使われている「イチョウ」は、大気汚染や塩ストレスに強く、街路樹としての適性が高いことが分かりました(Matsuura et al. 2025, Frontiers in Plant Science)。また、2005年〜2023年に京都市で街路樹の炭素安定同位体と光合成機能を調査したところ、長期的な大気汚染の改善により、光合成機能が改善してきていること、また、2020年〜2023年のCOVID19パンデミックは、京都市の街路樹の光合成機能には影響しなかったことが明らかになりました(Matsuura et al. 2025, Scientific Reports)。
<研究3>シダ植物の進化と葉の内部構造・光合成機能
光合成能力の進化史を調べるため、幅広い分岐年代をもつ「シダ植物」に着目しました。自然生息地から採取した66種のシダ植物と、温室で栽培した8種のシダ植物で調査を行いました。葉面積ベースでの葉の光合成能力には、分岐時間との相関はありませんでした。一方で、分岐時間が新しいシダ種ほど、葉肉が厚く、細胞間隙に面する葉緑体の表面積(Sc)が大きく、細胞壁が厚く、光吸収率が高くなっていました。葉の内部構造や光吸収率を高める方向に、シダ植物が進化してきていることを示唆しています(Hanba et al. 2023, Annals of Botany)。
<研究4>シダ植物の葉肉コンダクタンスと光合成機能
日本、スペイン、エストニア、チリの4カ国の共同研究により、シダ35種の光合成機能と葉肉コンダクタンスを調査しました。高等植物と同じように、シダ植物でも、葉肉コンダクタンスは光合成速度を決定する主な要因の1つであることが明らかになりました(Tosens et al. 2016, New Phytologist)。
<研究5>水輸送体タンパク質「アクアポリン」と葉の光合成機能
水輸送を担う膜タンパク質であるアクアポリンの中には、二酸化炭素を透過するものがあります。このようなアクアポリンは、二酸化炭素に対する拡散抵抗を減少させ、光合成速度の増加に貢献する可能性があります。
ハツカダイコンのアクアポリンRsPIP2を過剰発現させたユーカリ(Tsuchihira et al. 2010, Tree Physiology)、アイスプラントのアクアポリンMIPBを過剰発現させたタバコ(Kawase et al. 2013, Journal of Plant Research)、オオムギのアクアポリンHcPIP2;1を過剰発現させたイネ(Hanba et al. 2004, Plant Cell Physiology)で、アクアポリンの過剰発現が、二酸化炭素に対する拡散抵抗の減少と光合成速度の増加をもたらすことが分かりました。
京都工芸繊維大学