
研究内容
元素化学×有機合成 = 新機能物質創製
これまでに知られている有機物は、炭素・水素・酸素・窒素などの限られた元素を使って分子が構成されていました。私たちは、多彩な元素を取り入れることによって、従来の炭化水素系物質では達成できなかった物性や現象を実現しようと取り組んでいます。
これまでに見向きもされてこなかった元素や、使われていてもそのポテンシャルを活かしきれていなかった元素に着目し、その能力を幅広い分野に活用します。私たちは、自ら開発した物質の力で多岐にわたる分野にインパクトを与えています。
テーマ1.元素は有機分子の中でどのような振る舞いをするのか?
周期表が誕生して150年が経ち、各元素の性質が系統立てて理解されているように感じるかもしれません。しかし、有機分子に元素を組み込むためには高度な合成技術と緻密な分子設計が必要であり、有機分子において元素がもたらす性質は未だ十分に理解されていません。私たちは、独自の合成技術を駆使して周期表を縦横無尽に調査し、元素のもつ様々な性質や元素間での差異について解明してきました。例えば、15族元素の窒素・リン・ヒ素・アンチモン・ビスマスをそれぞれ導入した分子の電子物性は、コンピュータシミュレーションで予測されてきました。これに対して、私たちは実際に分子を合成し、その理論予測を実験的に確かめることができました。さらに、これまで知られていなかった反応性や発光特性を明らかにしています。
テーマ2. 嫌われ者元素「ヒ素」を使いこなせないか?
「ヒ素」は周期表のp-ブロック元素でほぼ中央(15族/第4周期)に位置しており、元素の性質を網羅的に理解する上では必要不可欠です。しかし、有機ヒ素化合物を合成するためには、揮発性のある(毒ガスを生じる)原料を用いた合成が必要とされ、これまで実験研究は何十年間も避けられてきました。私たちは、揮発性原料を用いない実用的な合成ルートを多数開発し、世界に先駆けて「機能性有機ヒ素化学」を開拓しました。これまで使えなかった元素が新たに加わったことで、有機・高分子・錯体といった幅広い分野でパライムシフトを起こしています。
テーマ3. 無機物を有機反応で重合した高分子は、有機物か?無機物か?
無機元素からなる分子に有機官能基を修飾し、有機反応によって重合した高分子は、有機にも無機にも分類されない全く新しい材料だと言えます。例えば、汎用ポリマーであるポリウレタン・ポリアクリレートと無機成分であるシロキサンを融合した高分子は、耐久性・透明性・柔軟性を兼ね備えた新素材として産官学を問わず注目されています。