研究内容の紹介


研究背景:メタマテリアルとは?

メタマテリアルというのは,材料そのものではなく, 従来の材料特性にはない特異な電磁波伝搬特性を実現する人工媒質・構造体のことです. 例えば,実効屈折率の値を負にすることもできます.また,このメタマテリアルに基づいて クローキング(透明マント)の原理が提案されていて実用化を検討している研究グループもたくさんあります.

通常の材料では,原子/分子から構成されていて,それらの平均的な性質として, 材料特性,例えば構成関係として誘電率,透磁率が決まります. それに対して,メタマテリアルでは,伝搬する波長に比べて十分小さな単位セルと呼ばれる 既存の金属や誘電体からなる微小構成要素の集合体で構成されていて, 単位セルの形状,配置などの構造設計により,電磁波の伝搬特性を人為的に操作することができます. 例えば,実効誘電率や透磁率の値を0にしたり負の値を持たせたりすることができるようになります. このとき,物理現象を簡単化して捉えるために,古い学問と思われがちですが, 回路理論,伝送線路理論を用いて考えることが重要となります.

私たちの研究室では,現在主にマイクロ波領域でメタマテリアルを扱っていますが, この概念はスケーラブルなので,マイクロ波領域に留まらず,テラヘルツ,光領域に亘って 適用することができ,現在世界各国の電気・電子工学,応用物理の分野の多くの研究者・技術者たちが このテーマに取り組んでいます.


現在取り組んでいる課題
現在私たちの研究グループでは,主にマイクロ波・ミリ波帯においてメタマテリアルによる電磁波制御と 無線通信システムへの応用を検討しています.

研究課題その1:表から見た場合と、裏から見た場合とで性質の異なる非相反メタマテリアルとビーム走査アンテナへの応用

【従来技術】
従来のビーム走査アンテナには、多くのアンテナ素子を1次元もしくは2次元的に配列したフェーズドアレーアンテナが用いられています. このとき,ビーム走査を行うために、各アンテナ素子には位相制御のために移相器が接続され、構造が複雑となります.

これに対して、簡素な構造のビーム走査アンテナとして、一本の伝送線路からなる漏れ波アンテナが知られています. 漏れ波アンテナにおいては、伝送線路の一端から電磁波を入力し、進行波を形成させるのですが、放射に寄与しない信号成分が終端で反射すると 伝送線路を逆方向に伝搬し、好ましくない方向にビームを形成してしまいます.そのため、終端には反射を防ぐためにインピーダンス整合が取られていますが アンテナサイズが小さいと,どうしても終端での消費電力が大きくなりがちで,効率も下がってしまいます. また、動作周波数が変わるとビーム方向も変わってしまうビームスクイントの問題があります. もし大容量の情報伝送を行う場合には、送信信号は広帯域を必要とするため,周波数によりビーム方向が変わることは好ましくありません.


【新しい動作原理に基づく漏れ波アンテナ】
非相反メタマテリアルからなる擬似進行波共振器とアンテナ応用
そこで我々の研究グループでは,従来にない新しい動作原理に基づく漏れ波ビーム走査アンテナを提案しています. 非相反メタマテリアルを漏れ波アンテナを構成する伝送線路に適用することにより, 順方向伝搬は正屈折率,逆方向伝搬は負屈折率をもつ非相反メタマテリアル線路の両端に一対の反射器を挿入し, 電磁波が多重反射するような共振構造を採用しています. この共振器が面白いのは、一端から入った信号が一往復するとき,元の信号と必ず同相となることです. その結果,線路の長さによらず共振条件を満足します. (共振器サイズが波長に比べて短い場合でも、逆に長い場合でも共振します) もう一つの特徴は,その共振器内の電磁界分布にあります. 通常の共振器では,定在波が形成されることから,腹・節が空間的に分布しますが, この共振器では,電磁界分布の大きさは場所に因らず一様分布となり,位相勾配が一定で,進行波の電磁界分布と全く同じになります. この電磁界分布の位相勾配を制御することにより,漏れ波ビーム走査アンテナとして動作します. またこの共振タイプのアンテナからの漏れ波放射では,順方向伝搬する信号成分からの漏れ波放射と,逆方向伝搬する信号成分からの 漏れ波放射の重ね合わせによりビームが形成されることから,動作周波数の変動に対して,ビーム方向の変動が抑制される特徴があります.


その他のテーマ
 2) 低姿勢/小型アンテナの広帯域化と多周波化
 3) メタサーフェスと電磁環境制御