京都工芸繊維大学 繊維学系 / 大学院工芸科学研究科(バイオベースマテリアル学専攻) バイオベースマテリアル化学研究室(青木隆史 研究室)

Research

廃棄物となっている海洋中の天然ポリマーを利用した機能性材料の開発

 私たちは、古くから海産物を食材として利用してきました。魚や貝、そして海藻などから、私たちが食べられる部位を選んで食材として利用しています。食べられないと判断した部位は廃棄されます。廃棄された部位の中にも、食料以外に利用できる素材が含まれているはずです。非可食部分も、海からの恵みとして最大限利用することを目指して、機能性材料の研究を行なっています。
 鮭の身やイクラ(卵)は食用として魚から取り出されますが、鮭の白子は食用として活用されることはありません。この精巣組織には、DNAが含まれています。このDNAも自然が作り出している天然高分子素材です。DNAにはタンパク質や多糖類には無い構造上の特徴があり、その構造上の特徴を利用した機能性材料の研究を行なっています。

 また、人間が作り出し大気に放出される二酸化炭素(CO2)のうち、海が吸収する二酸化炭素(ブルーカーボン(Blue Carbon))の割合のほうが、森林が吸収するそれ(グリーンカーボン(Green Carbon))の割合より多いと言われています。海が造り出す地球環境の炭素循環の中に含まれる海の生物を利用するという観点からも、有用な研究課題であると考えています。
 ブルーカーボンにおける炭素循環に含まれる海藻から得られる多糖類も、今まで以上に重要な研究対象となる天然素材です。この海藻由来多糖類も、機能性材料として利用するために研究を進めています。

プラスチック(薄膜)表面の分解過程の分光学的解析

 「ものづくり」という言葉が表すように、これまでの科学技術は「作る」ことに重きを置いて進歩してきました。光分解や酵素分解などの分解する研究も行われてきましたが、「作る」ための知見に比べると「分解する」ための知見は多くありません。「作る」要素には、素材である化合物を合成(調製)することとそれをフィルム(ボトルなども含む)や繊維に成形加工することの両方が含まれ、それぞれ独立した研究分野で、技術が進化してきました。これに対して、「分解する」ことを理解するためには、成形加工されたフィルムや繊維などの状態で、”分解”の化学反応を考える必要があります。つまり、フィルムや繊維などの表面という特殊な反応場で起こる反応を解析することが求められます。表面(もしくは界面)での状態の変化を追跡するための分析装置や手法が限られています。また、特に、分解についてはプラスチックの非晶質領域から進むと考えられています。したがって、その領域を分析してその分解反応現象を理解することは、必ずしも容易なことではありません。しかしながら、フィルムや繊維などの表面での分解メカニズムを理解することが、海洋などに残存する成形加工品を処理する解決策にも役立ち、今後のものづくりの成形加工を設計するための一助になるものと考えています。

血液凝固を抑制する新規機能性界面の創製

 2022年1月、アメリカでブタの心臓がヒトに移植されました。このニュースは、私たちに衝撃を与えましたが、臓器移植を望まれている方とその医療従事者にとっては、とても重要な挑戦です。この初めての異種移植は、一方で、これまで研究開発が行われてきた人工臓器の研究の重要性を改めて示していると感じます。臓器移植を待つまでの手段として、そして、さらには健常者と同じ生活ができる手段としての人工臓器の研究は、これからの社会においても必要不可欠であるといえます。人工臓器材料においては、血液が固まらない性質や免疫反応などを惹起しない性質が求められますが、幸いなことに、これらの性質を備えたポリマーがいくつか開発され、実際に、医療用器材に活用されています。
 本研究室では、この血液が固まらない性質や免疫反応などを惹起しない性質を発現する新しいバイオメディカル界面を実現するために、独自のコンセプトに基づいて、そのポリマーの合成とその機能評価をしています。

 人工臓器材料で使用される素材は固体ですので、その固体とヒトの身体の中の成分との間には固ー液界面ができます。この界面の存在が、生体成分の接着や吸着を引き起こしています。私たちは、水溶性のポリマーの中で、液ー液相分離するポリマーを利用して、基材表面にこのポリマーを修飾し、ポリマーが作り出す液ー液界面の生体成分との相互作用について調べています。

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