研究内容

  • 巨大旋光性

    カイラル構造は、その透過光に対して光の旋光性と円二色性からなる光学活性を示すため、光子の偏光制御への応用が期待される。特に、可視光や通信用の光に対して、その波長と同程度またはそれ以下のスケールであるナノサイズの三次元周期カイラル構造では、光学活性の効果がより顕著に現れると期待される。我々は、従来のウッドパイル構造の各層を周期的に45度回転させたパターンで積層することで、半導体を材料とした積層型三次元カイラルフォトニック結晶の作製にはじめて成功した。図はこのカイラル構造を模式的に表しており、右上に実際の試料の走査電子顕微鏡像を示す。このカイラル構造に対して、直線偏光させた近赤外光を積層方向と平行に入射したところ、主軸が回転した直線偏光が透過光として得られ、50度程度の巨大な旋光性が確認された。
    S. Takahashi, et al., Opt. Express 21, 29905 (2013)

  • 広帯域円二色性

    60度回転積層型ウッドパイル構造の作製にも成功し、左図はその模式図、右図は実際の試料の走査電子顕微鏡像である。このカイラル構造における、右回り円偏光と左回り円偏光の入射に対する透過強度のスペクトルを測定したところ、通信波長領域に広帯域な円二色性が観測され、右回り円偏光と左回り円偏光の透過強度の比は最大で6倍という実験結果を得た。これは、構造のカイラリティと同じカイララリティをもつ円偏光が選択的に反射される、円偏光ブラッグ反射によるものと考えられる。
    S. Takahashi, et al., Appl. Phys. Lett. 105, 051107 (2014)

  • 円偏光に接続する真空場の状態密度の制御

    作製した試料は、ウッドパイル構造の各層を周期的に60度回転させて積層した回転積層型ウッドパイル構造(図)で、GaAsを材料としている。発光体として、高密度なInAs自己形成量子ドットを内部に導入した。このカイラル構造内の量子ドットに対して、低温で時間分解フォトルミネッセンス測定を行い、特定の波長および円偏光の自然放出光の時間変化を調べた。その結果、左回り円偏光の局所状態密度が抑制されたことで、自然放出レートが小さく、発光寿命が長いことがわかった。さらに、左右円偏光した発光寿命を波長に対してプロットしたところ,円偏光バンドギャップ内では、一様に左回り円偏光の発光寿命が長いことがわかった。これらの結果から、確かに円偏光バンドギャップによって、一方の円偏光に接続する真空場の局所状態密度が強く抑制されていることがわかり、円偏光光源としての応用に向けた動作原理が明確に示された。現在は、これを応用して、円偏光共振器の作製を進めている。
    S. Takahashi, et al., Phys. Rev. B 96, 195404 (2017), Editors' Suggestionに選出
    Y. Kinuta, S. Takahashi, et al., EMS37 We1-11 (2018)
    Y. Kinuta, S. Takahashi, et al., CSW MoP-D-2 (2019)
    絹田雄三, 高橋駿ほか, 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 20p-E207-5 (2019)
    Y. Kinuta, S. Takahashi, et al., 4th JSAP Photonics Workshop PW-15P (2019)

  • 三次元フォトニック結晶ナノ共振器における世界最高Q値の達成

    可視、近赤外光に対する三次元フォトニック結晶は、その作製の難しさから高機能化に向けた研究が発展途上である。様々な作製手法の中で、マイクロマニピュレーション法が最高精度を実現してきた。本研究ではその作製手法をいちから見直すことで、体積を従来比5.2倍にまで増加させることに成功した。一般に、フォトニック結晶共振器の性能は、構造全体を大きくすることで向上可能である。左図に本研究で作製した三次元フォトニック結晶の模式図を示す。構造中央にはナノ共振器を配置し、内部に発光体として量子ドットを導入した。この量子ドットを低温で光励起したところ、共振器モードに由来する鋭いピークが観測され、その線幅からQ値93,000を得た(右図)。この値は従来の2.4倍に相当し、世界最高の値となった。すなわち、共振器エネルギーが1/eに減衰するまでに、このナノ領域で光が93,000回も振動する間、閉じ込められていることを示す。この高機能共振器を用いることで、レーザ発振も観測することに成功した。この結果は、低閾値レーザや光回路素子としての応用が期待できる。現在も、さらなる高Q値化を目指して研究を進めている。
    S. Takahashi, et al., Electronic Letters 54, 305 (2018), Featured paperに選出
    Y. Arimitsu, S. Takahashi, et al., EMS37 We1-13 (2018)
    有光 佑紀哉, 高橋駿ほか, 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 19p-PA5-3 (2019)
    E. Kimura, S. Takahashi, et al., EMS38 Fr1-7 (2019)
    E. Kimura, S. Takahashi, et al., 4th JSAP Photonics Workshop PW-14P (2019)

  • ワイル点とトポロジカルエッジ状態

    トポロジカル現象は、数学の1分野であるトポロジーの概念を物性物理に適用したことで、2016年のノーベル物理学賞の受賞に代表される研究が盛んに行われている。代表的な例として、1985年にノーベル物理学賞となった(整数)量子ホール効果が挙げられ、半導体内部の不純物の位置や濃度によらず、試料のエッジ部分に一定の量子化コンダクタンスをもつ伝導チャネルが得られることから、電気抵抗標準にもなっている。このように、トポロジカルエッジ状態は、バンドトポロジーの異なる物質の界面において、無散逸で構造揺らぎに強い伝導チャネルとなるため、電子や電磁波に対する効率的な伝送応用が期待されている。我々は、三次元カイラルフォトニック結晶においても、この現象が現れることを数値的に示した。三次元カイラルフォトニック結晶では、ディラック点の三次元拡張版とも言えるワイル点が存在することを示し、その縮退を解くことで、光のトポロジカルエッジ状態が得られることが判明した。最近では、マイクロ波領域において実験実証にも成功し、ワイル点における単一モード性に起因した平面波出射を観測した。これは三次元カイラルフォトニック結晶の内部に散乱体を置いても、同じ平面波が透過することから、透明マントへの応用が期待できる。
    S. Takahashi, et al., J. Phys. Spc. Jpn. 87, 123401 (2018)
    S. Takahashi, S. Tamaki, et al., Opt. Express, 29, 27127-27136 (2021)
    玉置爽真, 高橋駿ほか, 第66回応用物理学会春季学術講演会, 11a-W631-10 (2019)
    玉置爽真, 高橋駿ほか, 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 20p-E207-8 (2019)   
    今西惟登, 高橋駿ほか, CRESTトポロジー領域合同セミナー, 14 (2023)

  •  
  • 三次元フォトニック結晶への電気的接続

    これまで半導体三次元フォトニック結晶は高い精度で作製されてきたが、いずれも光の入射に対する応答(フォトルミネッセンス測定など)でその性能を評価していた。現在の成熟した半導体エレクトロニクスへの融合に向けて、我々は半導体を材料とする強みを活かして、三次元フォトニック結晶への電気的接続にも取り組んでいる。その第一歩として、積層型三次元フォトニック結晶を形成するGaAs薄膜をマイクロマニピュレーション法によって電極上に配置し、薄膜内部のInAs量子ドットにおける量子閉じ込めシュタルクシフトの観測を行った(図)。
    五十野誠生, 高橋駿ほか, 第6回フォトニクスワークショップ(応用物理学会フォトニクス分科会), 5-E-9 (2021)

  • 高次トポロジカル状態

    一般に、d次元系におけるトポロジカル絶縁体において、d-1次元系のトポロジカルエッジ状態が形成される(バルク-エッジ対応)。実際、我々は三次元カイラルフォトニック結晶では、表面を伝播する二次元的なトポロジカル表面状態が形成されることを示してきた。しかし、外乱に強い三次元光回路の実現に向けた光伝送では、このような表面状態ではなく、一次元的な伝送路が望ましい。そこで、d次元トポロジカル絶縁体に対して(d-2)または(d-3)次元のトポロジカルエッジ状態を形成する、高次トポロジカル絶縁体が注目されている。我々は、単純立方格子からなるジャングルジム型の三次元フォトニック結晶において、その一部を二方向に半周期だけシフトさせた構造を作製した(図)。シフトさせた構造では、トポロジカル普遍量であるZak位相がπ変化する。この二方向での変化が境界のコーナー部分で一次元的なトポロジカル状態(ヒンジ状態)を形成する。実際、マイクロ波測定にてコーナー部分に光が局在することを観測し、数値計算と良い一致を示した。
    芦田侑也, 高橋駿ほか, 第82回応用物理学会秋季学術講演会, 12a-N321-8 (2021)   
    Y. Ashida, S. Takahashi, et al., CLEO-PR 2022, CFA8H-03 (2022)