繊維高分子材料研究室

繊維高分子材料研究室について

『高分子を始めとしたソフトマターの構造形成』

 我々の研究室では、X線回折、電子顕微鏡、光学顕微鏡、赤外線吸収、誘電測定、光散乱、熱分析、コンピュータ・シミュレーションなどの手法を主に用いて実験を行い、高分子を始めとしたソフトマターの構造と物性(力学的、熱的、電気的、光学的性質)の関係構造形成過程、相転移現象などを物理学的に解明していくことを目的とした基礎的研究を進めています。

各教員の研究紹介

・ 藤原 進 教授

『高分子・生体分子の分子シミュレーション』

高分子構造形成

高分子や両親媒性分子などのソフトマターと呼ばれる物質に共通する特徴の一つとして、メゾスコピックな空間スケールでの秩序構造形成を挙げることができます。ソフトマターは内部自由度が大きいため階層構造を有することが多く、圧力や温度、濃度などを変えることにより容易にその構造を変化させることができます。そのため、構造制御の工夫により多種多様な物性を発現する新規材料として期待されています。

私のグループでは、ソフトマター系における構造形成機構を分子レベルで解明し新規材料の創出に寄与するため、高分子や両親媒性分子の分子シミュレーション研究に取り組んでいます。また、ソフトマター系における構造形成機構の解明を通して、様々な系に普遍的に存在する非線形法則を探求するという基礎科学研究も行っています。

高分子構造形成に関する分子シミュレーション研究では、ポリエチレンの結晶化(左図)やイソタクチックポリプロピレン(iPP)などのらせん高分子の結晶化のメカニズムの解明に取り組んでいます。また、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン材料との複合化(右図)に関する研究にも取り組んでいます。

CNT複合体中のiPPの結晶化

最近では、DNAに対する放射線の影響評価を分子シミュレーションで行っています。電離放射線の生物学的影響に関する従来の研究により、DNAが電離放射線障害の重要な標的分子であることが明らかになっています。DNAは放射線による直接作用に加え、放射線誘起フリーラジカルなどによる間接作用、あるいは、DNA中の置換トリチウムがβ壊変により脱離する壊変効果によっても損傷を受けます。DNA上には様々なタイプの損傷(塩基損傷、塩基脱落、一本鎖切断、二本鎖切断など)が生じますが、そのような損傷DNAの構造を、「クラスターDNA損傷」をキーワードとして全原子分子動力学(MD)シミュレーションにより調べています。また、DNAが損傷を受ける過程を明らかにするため、反応力場MDシミュレーションも行っています。

私のグループは、現象の背後にある「物理」の解明にワクワクする学生に向いているのではないかと思います。また、他の先生方同様、様々な大学や研究所、企業の研究者と共同研究を進めています。詳しい話を聞きたい学生は是非、研究室に足を運んでみてください。

・ 橋本 雅人 准教授

『高分子の結晶成長とパターン形成』

高分子の結晶成長においての融解記憶

上の写真はイソタクチックポリスチレンを途中まで190℃で、途中から180℃で結晶化させた二重構造をもった球晶(a)、その球晶を融点より少し上で融解させ、再結晶化させると右の写真のように小さな球晶が数多く発生します(b)。これは融解しても結晶のときの構造が残っていることがあるという高分子特有の現象を示しています。

熱処理を行った薄膜内に形成したキャビティ

アタックチックポリスチレンをスライドグラスに挟んで一旦250℃に加熱後、ガラス転移温度以下に急冷、再び180℃で加熱して数秒たって生成したキャビティを示しています。ご覧のようにヴィスコスフィンガリングを起こしています。(キャビテーション

結晶性高分子は階層構造(ヒエラルキー)をとり、圧力や温度、濃度などを変えることにより容易にその構造を変化させることができます。X線回折、電子顕微鏡、光学顕微鏡、赤外線吸収、誘電測定、光散乱、熱分析などの手法に用いて実験を行い、高分子の構造と物性(力学的、熱的、電気的、光学的性質)との関係や構造形成過程、相転移現象などを中心として、実験を通して物理学的に解明していくことを目的とした基礎的研究をしています。

橋本は本研究室では唯一実験系のスタッフです。その中でも高分子の結晶成長とパターン形成を中心にして研究を進めています。

左の写真は高分子の結晶成長においての融解記憶を示しており、高分子が長い分子であるために完全に融けることが難しいことから起きる現象です。また、右の写真は熱処理を行った薄膜内に形成したキャビティ(泡)です。こんな面白いパターンが割と簡単に形成します。他には混合物からの結晶化、Axialite、電場をかけた高分子の結晶成長、誘電分散の計測などもやっています。

現在できればやっていきたいと思っているのは、トランスクリスタルの形成機構、球晶成長における一次核の形成機構について、二次元と三次元の球晶の違いとか、球晶の詳細な内部構造についてです。

・ 水口 朋子 准教授

『分子シミュレーションによる物質の構造と機能の理解』

高分子の結晶成長においての融解記憶

計算機を用いた分子シミュレーションにより、様々な研究を行なっています。研究テーマは多岐に渡りますが、大まかに分類すると次のようになります。

◆ガラス転移関連
・単純ガラスの構造エントロピー計算
◆生体分子関連
・脂質膜へのイオン分配
・DNAの塩基配列の違いによる構造安定性の差
◆材料系
・水分含有量の違いによる逆ミセルの構造変化と水の分配
・有機フッ素ポリマーの凝集構造

上に書いたのは、これまでの研究テーマ(進行中含む)の一部です。その他に、今後やっていきたいテーマとして「エアロゾル中のイオン分布と分子の取り込み」などがあります。ほとんどの研究テーマは、学内外の様々な研究者と共同で行っています。その範囲は、物理・化学・生物、および理学・工学・医学と幅広い分野に渡り、学際的な研究を推進しています。分子シミュレーションの利点は、原子・分子レベルで現象を議論できることですが、その一方でマクロな性質を扱うのは苦手です。実験研究者と連携することでその欠点を補い、さらに異分野からの視点を取り入れることができます。幅広い視点とアプローチにより、自然現象の解明と、その社会利用を目指しています。

非イオン性界面活性剤SPAN80

非イオン性界面活性剤SPAN80

球状の逆ミセル

球状の逆ミセル。
内部に水を包含している。

ここでは、現在取り組んでいる「水分含有量の違いによる逆ミセルの構造変化と水の分配」について簡単に紹介します。洗剤や化粧品などに含まれる界面活性剤は、分子中に親水性の部分と疎水性の部分を持っています。逆ミセルとは、油中で界面活性剤が疎水性の部分を外側にして集まった状態で、内部に親水性の物質を取り込み、輸送することができます(右図)。特定の物質を選択的に抽出するためには、分子レベルでの物質分配の機構を明らかにすることが重要です。分子シミュレーションによって、実験では扱いにくいナノサイズの逆ミセルについて、内部の水分子数を変えた時の構造変化と、それに応じた水の分配速度について調べています。