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近年、バイオセンサ、車載用センサ/ディスプレイなどの先進センシング分野において、様々な光の利用が進んでいます。バイオセンサにおいては、レーザ光をタンパク質や高分子、DNAなどの微小な生体物質に照射し、蛍光や散乱などから、情報を検出しています。また、車載用センサ/ディスプレイにおいては、レーザ光を前方の広範囲に照射し、衝突可能性のある物体からの反射から、情報を検出し、その結果を運転者の前方に投影する技術が開発されています。このような分野において、より高感度、高精度、小型、高速な検出技術の開発が重要です。この研究室では、このような先進センシング分野に対して、光源開発の立場から貢献することを目指しています。
バイオセンサにおける分解能・感度・精度の限界は、焦点の大きさ(光強度)や、焦点での光と物質の相互作用で決まります。通常のガウシアンビームと呼ばれる、単峰状のレーザビームを用いると、この時の集光の限界は、1波長程度になります。「回折限界」と呼ばれるこのような限界に対して、私たちは、径偏光ビームと呼ばれるドーナッツ形状を有するビームに注目してきました。" 径偏光ビームとは、ビーム断面内で偏光が中心から放射上に揃ったビームです。ビームの中心が偏光の特異点となるために、ドーナッツ形状のビームになります。このビームが開口数の高いレンズで集光されるときの偏光に注目すると、通常の直線偏光では光軸上に得ることのできない、ビームの進行する方向に偏光した成分が、光軸上に強く生成します。
私たちは、このビーム進行(z)方向成分の有する波長以下の強度に着目し、この成分を選択的に焦点近傍に形成させることで、半波長以下という従来よりも小さな集光点が実現できることを示してきました。また、この時、焦点近傍での位相整合状態も制御できるので、数波長に亘ってビーム幅が拡がらない、長焦点深度特性をも有することを、理論と実験の双方から示し、幸いにも多くの学術論文に引用される成果となっています(K. Kitamura et al., Opt. Express, 18, 4518 (2010))。
また、このような長焦点深度・微小集光特性を有する、径偏光・狭リング形状ビームを1 mm角以下の小さな半導体レーザで生成することにも成功してきました(K. Kitamura et al., APL, 101, 221103(2012))。これは、フォトニック結晶レーザと呼ばれる、光の波長程度の周期的な屈折率分布を有する半導体ナノ構造(フォトニック結晶)を共振器とする新たな半導体レーザによって実現しています。
さて、このような微小な光場を生成できる径偏光ビームですが、その集光点は、通常のビームでは得られないビーム進行方向 (z方向)に偏光しています。センシング用光源としての応用を考えたとき、このような光場における光と物質との相互作用は明らかにされるべき大変重要な課題です。私たちは、これまでにこのビームの集光点にサブ波長大の金属ナノ構造を挿入しても、光エネルギーが遮蔽されずに伝搬する、自己修復効果を持つこと(K. Kitamura et al., Opt. Express, 19, 13750 (2011))や、光軸上の光強度の強い領域に、複数並べた金属間で、次々と電場増強効果を誘引する(K. Kitamura et al., Opt. Express 21, 32217(2013))といった、新奇な光と物質の相互作用を明らかにしています。
以上のような、微小な集光点の形成や、観察対象からの信号を増強する相互作用性は、バイオセンサの高分解能化、高感度化、高精度化に繋がると考えられます。さらに、観察対象の捕捉等に有用なドーナッツ形状のビームについても、フォトニック結晶レーザによる高次ベクトルビームの発生 (S. Iwahashi et al., Opt. Express, 19, 11963 (2011))や、集光特性の評価 (K. Kitamura et al., Opt. Lett., 37, 2121 (2012)) を実施してきています。
車載用センサ/ディスプレイといった応用においては、レーザビームを走査する技術が必要とされています。従来、このような応用においては、MEMSミラーなど出射ビームに対して、鏡を機械的に動かすことで、広範囲からの情報収集と投影が行われてきました。これに対して、もし、半導体レーザのスイッチング一つで、2次元的なビーム走査が可能になれば、高速化・小型化を導くことができると考えられます。最近、光の波長程度の周期で規則正しく並べたフォトニック結晶の空気孔を、あえて乱す(別の周期でサンプリングする)ことによって、一見ランダムにも見えるフォトニック結晶を用いて、2次元的にビームの出射方向を制御することに成功しています。このように、機械的なビーム出射方向制御から電子的な制御に変わることで、数百k Hzの走査速度が、究極的には数百MHzにまで高速化できると予測されます。