Research/研究テーマ

新素材の合成と設計
—— 高分子に金属を組み込んだ新しい材料の創製 ——

高分子と金属は、本質的に性質の異なる材料です。高分子は柔らかく、分子鎖が絡み合った独自の構造をもち、軽量で加工しやすいという特長があります。一方、金属は電気や熱をよく通し、化学反応を加速する触媒としても働くため、エネルギー、電子デバイス、環境技術など、現代の技術社会を支える基盤材料の一つといえます。しかし、金属は「硬くて重い固体」であり、加工が難しいという大きな制約があります。また、金属と高分子では加工方法(プロセスや環境)そのものが大きく異なり、両者は本来、組み合わせられる材料ではありません。そのため、高分子に金属を組み込む(複合する)という発想自体が、これまでほとんど存在していませんでした。

私たちの研究は、この常識をナノスケールの視点から覆すところから始まります。金属をナノサイズまで小さくすると、私たちが日常的に知っている金属とはまったく異なる性質が現れます。私たちは、常温・常圧という穏やかな条件下で、固体の金属が液体のような状態へと転移する現象を見つけました。現在は、金属がまるで流体のように振る舞うナノ結晶(ナノ粒子)を独自に開発し、その振る舞いの起源と材料としての可能性を探究しています。大きさが数ナノメートルまで小さくなった金属では、原子が活発に動くことで、硬い固体とは異なるダイナミックな性質が現れます。本研究は、固体や液体といった従来の分類を超えた、新しい金属の姿を引き出す研究でもあります。

新素材の創出:研究イメージ

この「流れる金属」の性質を利用することで、従来は不可能と考えられてきた高分子と金属の複合が可能になります。高分子材料の内部で金属原子を流動させ、組み込むことで、電気伝導性や熱伝導性、さらには触媒活性といった金属特有の機能を高分子材料に付与することができます。これは単なる高分子材料の改良にとどまらず、材料のあり方そのものを拡張する試みです。ナノの視点から材料の常識を書き換えることで、新しい素材の可能性が大きく広がります。

本研究は、ナノスケールで現れる金属の新しい振る舞いを材料設計へと結びつけることで、軽くて柔らかいにもかかわらず電気が流れるといった、高分子と金属それぞれの長所を1つに統合した、これまでにない材料の創製を目指しています。金属的な機能をもちながら、軽量で、曲げたり伸ばしたりできるソフトマテリアルは、エネルギー・環境分野、電気電子工学、ソフトロボティクス、人間医工学など、幅広い学術分野・産業分野への波及効果が期待されます。既存の材料技術や産業基盤との親和性が高い点も、この研究の大きな魅力です。実際に研究室で行っている具体的な研究のテーマ群は、基礎から応用まで多岐にわたり、用途は多方面に広がりを見せています。

混ざらないはずのものを組み込む——その発想の転換こそが、この研究の出発点です。ナノの世界を理解し、材料が示す振る舞いの本質に迫り、自分の手で材料の常識を書き換え、それを社会に役立つ形へとつなげていく。そんな研究に、あなたも挑戦してみませんか。

機能性光硬化樹脂の開拓
—— 不均一な重合反応による新しいパターニング方法の開発 ——

私たちの研究室では、「光」という身近な刺激を巧みに利用し、金属や半導体のナノ結晶を自ら動かし、並ばせ、機能を引き出す新しい材料創製法を研究しています。従来、ナノ結晶を決まった場所に配置するには、微細加工や印刷などの複雑な工程が必要でしたが、私たちのアプローチは驚くほどシンプルです。ナノ結晶を高分子前駆体溶液(溶液のモノマー)に分散させ、そこにパターン光を当てるだけで、材料自身が移動し、パターンを形成します。「光を当てるだけで、ナノ結晶が自分で動いて並ぶ」——そんな一見ふしぎな現象を利用して、金属・半導体ナノ結晶を高分子フィルムの中に“描く”技術を開発しています。

この現象の鍵は、光によって引き起こされる「高分子の濃度のムラ」にあります。強い光が当たった場所では重合反応が速く進み、当たらない場所との間に一時的な濃度差が生じます。すると、ナノ結晶はこの差を駆動力として、エネルギー的に安定な方向へと自発的に移動します。私たちはこの拡散現象を精密に制御することで、ナノ結晶を狙った場所に集めることに成功しました。これは、削ったりして「作り込む」のではなく、「材料に動いてもらう」という考え方をもとにしています。

ナノ結晶として銀ナノワイヤーを用いた研究では、形成されたパターンに沿って電気が流れやすくなることを示し、透明電極やフレキシブル電子デバイスへの応用可能性を明らかにしました。さらに、近年注目されているペロブスカイト量子ドットのように、発光性能は優れるものの加工が難しい材料にも、この手法を展開しています。溶液に混ぜて光を当てるだけで、発光パターンを高分子フィルム内に直接書き込むことができ、次世代ディスプレイや偽造防止材料への応用が期待されます。

研究室では、「なぜ動くのか」「どこまで制御できるのか」を詳しく調べています。光の強さや照射方法を精密に変え、顕微鏡でナノ結晶の動きをその場観察することで、拡散を支配する平衡論(熱力学)と反応速度論のせめぎ合いを明らかにしてきました。こうした基礎理解があるからこそ、狙い通りの構造と機能をもつ材料設計が可能になります。

Functional photocurable resin patterns

光、化学反応、ナノ結晶の動きがつながるこの研究は、化学・物理・材料科学が交差する分野です。反応途中に生まれる“場の不均一さ”を設計し、ナノ結晶を自律的に組織化するこの技術は、ナノ結晶が有する様々な機能をポリマーフィルムに付与するものであり、新しい機能を持った光硬化樹脂の開拓につながります。光を当てるだけで材料が自ら動き、形と機能を生み出す。そんな研究に、あなたも挑戦してみませんか。

これまでの研究例

金属ナノ粒子の機能化

金属ナノ粒子は、粒の大きさ(粒径)や表面の電気的な性質、表面に結合した分子(配位子)を細かく設計できる点が大きな特徴です。これらを調整することで、私たちはバルク材料では見られない新しい機能や物性を引き出すことができます。本研究室では、金ナノ粒子をモデル材料として用い、表面修飾や周囲の環境を工夫することで、ナノ粒子の振る舞いを自在に設計し、その仕組みを理解する研究に取り組んでいます。

例として、表面にプラスまたはマイナスの電荷をもつ金ナノ粒子を合成し、粒の大きさや電荷状態が、ナノ粒子同士の引き合いや集まり方にどのような影響を与えるのかを詳しく調べました。その結果、正と負の電荷をもつナノ粒子は、単に電気的に中性になったときに沈殿するだけでなく、粒子の濃度やサイズによって「集まりやすい条件の範囲」が存在することが分かりました。これは、ナノ粒子がイオンに似た性質を示しながらも、ナノ粒子ならではの集団的な振る舞いをもつことを意味しています。

Metal nanoparticle image

さらに、pHの変化や化学反応が進行する「反応フロント」といった動的な環境を利用することで、ナノ粒子が分散したり集まったりする様子を、時間や場所を選んで制御できることを示しました。これにより、自己集合の過程を自律的にコントロールし、目に見える大きさでの模様形成や、一時的に現れて消える構造を作り出すことが可能になります。

また、生体との関わりに注目した研究では、表面電荷やサイズを精密に制御した金ナノ粒子が細胞にどのように取り込まれるのかをリアルタイムで観察しました。その結果、細胞表面を覆う糖鎖構造が、ナノ粒子の取り込みを選択的に制御していることが明らかになりました。

これらの研究成果は、金属ナノ粒子を「自分たちで設計できる小さな機能ユニット」として扱い、化学や物理の基本原理から生体応答までを一つの流れとして理解・制御するための指針を与えてくれます。本研究室では、ナノの世界を実際に「作って・見て・考える」ことを通して、将来の材料開発や医療応用につながる研究に挑戦しています。

電極触媒(不均一触媒)

Electrocatalyst figure 本研究では、「ナノポーラスパラジウム」という、スポンジのように無数の孔をもつ金属材料を、非常にシンプルな方法で作り出すことに成功しました。出発材料は、直径わずか数ナノメートルのパラジウムナノ結晶です。通常、このようなナノ結晶の表面は不動態化しており、反応物分子が触媒表面に吸着できないため、高い触媒活性を発揮できません。

本研究では、これらのナノ結晶を溶媒に浸すだけで、表面金属の活性が高まり、原子が動いて自発的に再配置されることで、大小2種類の孔をもつ三次元的な多孔構造へと変化させました。この構造により表面積が非常に大きくなり、電気化学反応に利用できる「活性な表面」が飛躍的に増加します。その結果、エタノールを電気化学的に酸化する反応において、市販の高性能触媒であるPdブラックを大きく上回る触媒活性を示しました。

さらに、作製時の温度や溶媒を変えるだけで、原子レベルの表面構造が変化し、触媒性能を調整できることも明らかになりました。簡単な操作で高性能材料を生み出せる点は、将来の燃料電池などのエネルギー変換材料への応用を強く期待させる、非常に魅力的な研究です。本研究室では、「原子の動き」から「材料の機能」までをつなぐ材料設計を通して、次世代のエネルギー変換材料(化学から電気エネルギーへの変換材料)の創出を目指しています。

エネルギー貯蔵材料

スーパーキャパシタ電極の設計概念図

本研究では、超高速充放電と高エネルギー密度を両立する次世代スーパーキャパシタ用の電極の設計指針を確立することを目的としています。第一に、欠陥のない陽極酸化アルミナ(鋳型)を用いて作製した金属ナノワイヤ垂直配向電極により、イオンおよび電子の輸送経路を一次元的に短縮し、内部抵抗を大幅に低減できることを示しました。特に、基板とナノワイヤが一体化したモノリシックな構造の設計により、300 V s⁻¹という極めて高速な充放電においても高い容量性の性質が保持できることを明らかにしました。

さらにこの設計思想を発展させ、金属ナノワイヤを高導電性コア、導電性高分子(ポリピロール)を擬似キャパシタ層とする金属–有機コアシェル型ナノワイヤ電極を開発しました。このコアシェル構造により、擬似キャパシタ反応を伴いながらも電子・イオン輸送が阻害されず、従来の擬似キャパシタの速度限界を大きく超える高レート特性を達成しました。得られたエネルギー密度は理論的最大値に近く、エネルギー密度と電力密度を同時に向上できることが示されました。

これらの成果は、ナノ構造設計と界面抵抗制御がエネルギー貯蔵デバイスの性能を根本的に向上させることを示しており、高性能スーパーキャパシタおよび擬似キャパシタ開発における重要な基盤技術を提供するものです。