京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 物質工学部門
アモルファス工学研究室・無機材料物理化学研究室
Kyoto Institute of Technology, Department of Chemistry and Materials Technology,
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研究の概要

 ガラスは、成形や加工が容易である、広い波長範囲で透明である、化学的にもまた、環境に対しても非常に安定であるなど、材料として優れた特徴を持っています。このため、窓ガラスやガラスびんなどとして、日常生活で広く使われています。また、直接目に触れることはあまりないのですが、光ファイバやデジタル家電などにおける精密な光学系の部品として最先端の分野でも活躍しています。
私たちは、ガラスのこのような特徴を発展させ、新たな機能をガラスに附与するための研究を行っています。また、ガラス融液の物理化学やガラスの構造解析といった基礎的な研究や、新しいガラス材料の開発にも取り組んでいます。
これらの研究を通してガラス・アモルファス材料についての理解を深め、さらに、これらの研究をシーズとして、環境に優しい材料や技術の開発、光情報通信分野などでも応用可能な光機能材料とそれを用いたデバイスの開発を目指しています。また、ガラスにかかわる伝統的な工芸分野における基礎科学にも大変興味を持っております。

(用語の説明:アモルファス)
 アモルファス(amorphous)という言葉は、a(非、無の接頭語)+ morphous(形、形態を意味する)からなり、もともとは、「形をもたない」という意味です。日本語では非晶質(の)と訳されています。結晶とは異なり、原子やイオンが規則的に配列していない物質をアモルファスと言い、その中でも、特にガラス転移現象を示す物質を “ガラス”と呼んでいます。日常私たちが目にする窓ガラスやびんガラスは、もちろんアモルファスでガラス転移を示すので、“ガラス”ですが、それ以外にも、有機高分子や合金などでも、原子の並びが不規則でガラス転移現象を示すものがたくさんあります。これらも“ガラス”に分類されます。ちなみにアモルファスではあるがガラス転移を示さないものとして、アモルファスシリコンがあります。(参考:アモルファス 作花済夫)



1.機能性ガラスの創製

 「ガラスの材料としての特徴を活かしながら、新たな機能を賦与する。」そのための基本となる考え方の一つは、「ガラスは非平衡状態である。」ということです。すなわち、ガラスは、熱力学的に不安定であり、常に異なった状態、異なった構造(例えば結晶相)に変化している(しようとしている)と言うことです。
 このような変化は、ガラスに外部から熱を加えたり、レーザ光のような強い光を照射したりすることによって、より顕著に現れますが、このダイナミックな変化を詳しく解析し、うまくコントロールすれば、普通の方法では生成し得ない特異な性質をもった構造体をガラス中に出現させることができると考えられます。これにより、高い機能を持った材料を開発することが可能になると期待されます。

@ガラスへのイオンの導入と構造・物性の制御

 ガラスは固体ですが、イオンが移動することができます。このため、ガラスに含まれるイオンを選択的に別のイオンに置き換えることが可能です。これをイオン交換といいます。イオン交換は、通常、ガラスを硝酸銀(AgNO3)などの溶融塩に浸漬することによって行います。このようなイオン交換は、これまで、強化ガラスの作製やガラスを基板とした光導波路などの作製に用いられてきました。しかし、これ以外にもイオン交換による様々な物性・構造の変化を利用すれば、新規なガラス材料の創製につなげることができると期待されます。




Aステイン法の新展開
 ガラスの着色技術の一つにステイン法という手法があります。ステイン法によるガラス着色プロセスでは、ステインに含まれるイオンとガラスに含まれるイオンが交換する反応が起こっていると考えられています。我々はステイン法を単なるガラスの着色技術ではなく、イオンの導入技術としてとらえ、これを利用した新たなガラス材料の創製を目指しています。ステイン法の特徴はステインを塗布した部分にのみイオンが導入されるということです。従って、印刷技術を用いれば、高精細にイオンを局所的に導入することができます。この技術を用いて、簡便なマイクロ光学素子の作製、ガラスの描画・マーキング技術の開発研究に取り組んでいます。

(用語の説明:ステイン法)  ステイン法は、ガラスにステインと呼ばれる銀や銅の無機塩、有機樹脂、有機溶媒からなる混合物を塗布し熱処理することによってガラスそのものを着色する技術です。熱処理の過程でステイン中に含まれる銀や銅イオンがガラス中の1価の陽イオン(アルカリイオン)と交換する「イオン交換反応」が起こっていると考えられています。ガラスが着色するのは導入された銀や銅イオンが還元され金属ナノ微粒子を生成するためです。






Bディフェクトの生成と応用
 ガラスにX線や紫外線を照射すると様々なディフェクト(欠陥・カラーセンタ)が生成されます。これらのディフェクトは、多くの場合は光吸収をともなうため、これまであまり好ましいものとは考えられていませんでした。しかし、近年、ディフェクト生成による屈折率の変化を利用した光学デバイスの開発や、可視域での吸収を、ガラスの着色に応用する研究がなされています。
 私たちは、特に多成分ガラスについて、ディフェクトの生成とその応用、更にはディフェクトをトリガーとするガラス中での様々な反応について研究しています。

Cガラスの結晶化解析と結晶化制御
ガラスの結晶化挙動の解明を目的とした研究を行っています。特に、組成や熱処理条件などの要因がガラスの結晶化に及ぼす影響を測定し、評価する方法の確立を目指しています。これらの知見を応用し、ナノオーダーで結晶を制御した透明結晶化ガラスの作製や、その光学特性に関する研究も行っています。




2.ガラスおよび融液の物理化学

@ガラス融液における化学平衡
ガラス融液中の酸化還元反応は、清澄反応、金属との接合、イオンの価数制御などにおいて非常に重要となります。この研究では、Ag、Ni、Fe、Co、S等の酸化還元平衡を測定し、その酸化還元反応や金属の溶解などに及ぼすガラス組成の影響の解明を目指しています。

Aガラスと金属の接着
ガラスと金属との接着強度の正確な評価方法の確立と、それに及ぼすガラス組成など諸条件の影響について研究しています。


3.新しいガラス材料の創製
非酸化物ガラス発光材料
カルコゲン化物ガラスを中心とした非酸化物ガラス材料の研究を行っています。これらのガラスに希土類イオンや遷移金属イオンをドーパントとして導入することによって発光材料への応用を目指しています。

(用語の説明:非酸化物ガラス)
 ハロゲン化物やカルコゲン化物を主成分とするガラスを非酸化物ガラスといいます。非酸化物ガラスは、高い赤外透過性を有するなど酸化物ガラスにはない多くの特徴を持っています。また、ガラスを構成する原子間の結合は、イオン結合的なものから共有結合、あるいは金属結合的なものまでバラエティに富み、構造的にも興味深いものが数多くあります。





4. ガラス関連技術に関する基礎的研究
ガラス釉の色調や質感と、ドーパント、結晶化等との関連について研究を行っています。