研究の概要

 当研究室では、主に次の2つのテーマ、「ガラス・アモルファス材料」と「固体の表面・ナノ構造」に関する研究を行っています。主に扱う対象は無機化合物です。両者の共通点は、どちらも「高いエネルギー状態にある」ということです。詳しい説明は後で述べますが、この「高いエネルギー状態にある」物質が、異なる状態に移ろうという性質をうまく利用して、新規な機能を有する材料を創製したり、「高いエネルギーの状態」のゆえに発現する特異な現象や構造をナノレベルで解明したりすることが、研究室の大きな目標です。
 それでは、それぞれの研究内容についてもう少し詳しく説明していきましょう。

ガラス・アモルファス材料の研究

 アモルファス(amorphous)という言葉は、a(非、無の接頭語)+ morphous(形、形態を意味する)からなり、もともとは、「形をもたない」という意味です。日本語では非晶質(の)と訳されています。結晶とは異なり、原子やイオンが規則的に配列していない物質をアモルファスと言い、その中でも、特にガラス転移現象を示す物質を “ガラス”と呼んでいます。日常私たちが目にする窓ガラスやびんガラスは、もちろんアモルファスでガラス転移を示すので、“ガラス”ですが、それ以外にも、有機高分子や合金などでも、原子の並びが不規則でガラス転移現象を示すものがたくさんあります。これらも“ガラス”に分類されます。
 当研究室では、SiO2、B2O3などからなる酸化物ガラスや、Ga2S3などの硫化物を主成分としたガラスを中心に研究しています。これら無機系ガラスの材料としての特徴と応用例を図に示します。私たちは、これらの特徴を更に際だたせ、また、新たな特徴を賦与することによって、これまでになかった新しい機能をもったガラス材料を開発し、それを応用するための基礎的研究に取り組んでいます。

 そのための基本となる考え方の一つは、「ガラスは非平衡状態で、結晶に比べ、エネルギー的に高い状態にある。」ということです。すなわち、ガラスは、熱力学的に不安定であり、常に異なった状態(例えば結晶相)に変化している(しようとしている)ということです。この変化をうまくコントロールすれば、高い機能を持った材料を開発することが可能になると期待されます。
具体的な研究テーマとしては、
 ・新規カルコゲン化物ガラスの創製
 ・シリカガラスのマグネシウム還元
 ・ガラスへのイオンの導入と高機能化
等があげられます。

             図.1 ガラスの材料としての特徴とその応用

固体表面・ナノ構造の研究

表面やナノサイズの物質では、バルクに対してエネルギーが高い表面の割合が大きく、しばしばバルクと異なる構造や物性が現れることが知られています。例えば、ケイ素の結晶を一つ取っても、その表面はバルクと異なる原子配列をしていることがわかっています。

 ここでは、「分子ナノ構造の作製と応用」と、「酸化物表面ナノ構造の作製と高分解能観察」を主なテーマとして研究を進めています。前者では金属結晶の表面に分子を吸着・反応させて幾何学構造を作り、それらをもとにして先進的な低次元物質を創製することを目指しています。後者では、酸化物結晶表面を使って、III-V族半導体のナノ構造を作製し、それらの構造と物性の関連を解明することを目指しています。いずれの物質も近年重要になってきていて、これからも世界中で活発に研究されて行くと考えられます。

 ナノレベルで構造や物性を研究するには表面に敏感な方法が欠かせません。ここでは、表面分析技術の中でも走査プローブ顕微鏡(SPM)を主力として用います。このSPMは、探針-試料間の相互作用の取り方によって、いくつかの種類の顕微鏡に分類されます。ここで行う研究では、「走査トンネル顕微鏡(STM)」と「非接触原子間力顕微鏡(nc-AFM)」を主に使います。図2は当研究室で得られた像の一例です。分子が配列している様子がよくわかります。図3は、結晶成長や高分解能観察に用いるβ-Ga2O3(201)面の構造モデルです。この表面について、原子の並び方とその変化を原子レベルで追って行きます。

 上記のいずれの研究テーマでも、表面構造を制御し、原子・分子レベルで観測できるようになるには、ある程度の工夫と熟練が必要です。必要に応じて、実験条件の試行錯誤を行ったり、手段の改良を行ったりすることになります。


図.2 Au(111)面上に破裂したテレフタルアルデヒド分子, 個々のドットが分子に対応します。

図.3 β-Ga2O3(201)の積層