京都工芸繊維大学

2.大腸菌のポリアミン代謝系〜ポリアミン代謝とグルタチオン代謝の関係

 次にPuu代謝系のプトレッシンインポーターであるPuuPについて見てみます。

 Puu遺伝子クラスター内にコードされているトランスポーターはPuuPです。PuuP以外のプトレッシンインポーターとしては、オレンジ色で示したものが知られています。PotFGHIは以前から知られているプトレッシンを取り込むABCトランスポーターです。PotABCDはスペルミジンのインポーターですが、基質認識が甘く、プトレッシンも取り込むことが知られています。PotEは、大腸菌が中性条件にある時はプトレスシンを取り込みますが、酸性条件下ではオルニチンとプトレッシンのアンチポーターとして働きます。YdcSTUVについてはアミノ酸配列の類似性からプトレッシントランスポーターの可能性が考えられています。

図12

 プトレッシンインポーターを比較しました(図13)。いずれか1つのプトレッシントランスポーターのみを持つ株の対数増殖期と定常期におけるプトレッシンの取り込み能を比較したところ、対数増殖期ではPuuPが主として働くのに対して、定常期ではPotFGHIが働くことが分かりました。

 PuuPのプトレッシンに対するKm値がPotFGHIに比べて少し大きいものの、Vmax値には違いがなく、菌対外に十分量のプトレッシンが存在する場合は、同程度の取り込み能があるものと考えられます。

図13

 Puu代謝系の基質であるプトレッシンを培地に添加するとpuuP遺伝子の転写が活性化され、Puu代謝系の最終産物であるコハク酸を添加すると転写が抑制されており、合目的な調節を受けていることが分かりました。(図14)

 DNA結合タンパク質であるPuuRの遺伝子欠損株では、puuP遺伝子の転写が著しく活性化されたことから、PuuRはpuuP遺伝子のリプレッサーとして働いていることが分かりました。

 一方、菌体のプトレッシン取り込み活性も同様な傾向を示したことから、トランスポーターの量自体が培地中のプトレッシンとコハク酸の量によって増減していると考えられました。

図14

 図15に示したプトレッシンのトランスポーターを1つだけ持つ株を作成し、プトレッシンを唯一N源あるいはC源とする培地に植えたところ、PuuPを持つ株だけがこれらの培地で生育できることが分かりました。

 このことから、菌が増殖する段階において、PuuPが主として菌体外のプトレッシンを取り込みPuu代謝系で異化し、栄養源として利用することが分かりました。

図15