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尼君 #FFC0CB
をかし #98FB98
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この源氏物語は、高千穂大学教養部教授 渋谷栄一 さんによるものの抜粋です。

著作権表示は以下です。
First updated 9/20/1996(ver.1-1)
Last updated 3/7/2009(ver.2-1)
渋谷栄一校訂(C)

高千穂大学教養部教授 渋谷栄一 さんのページは http://www.sainet.or.jp/~eshibuya/ です

そもそも原文の源氏物語の著作権は既にありませんが、校訂したものには著作権 あります。しかし、渋谷栄一 さんは利用に関して「私の作成したテキストを元 に二次的著作物として公表する場合には、必ず当webによった旨を明記してくだ さい。」との条件を付け、自由としてくださっています。そこで、利用させてい ただきました。「わたしの作成したコンテンツからさらにより優れたコンテンツ が生まれ出てくることを期待しています。」にはあまり応えられていないかもし れませんが。(渋谷栄一さんのメッセージをこのファイルの一番下に付けました)

ダウンロードは、2009年5月23日(土)に行いました。


[第三段 源氏、若紫の君を発見す]

 人なくて、つれづれなれば、夕暮のいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のほ どに立ち出でたまふ。人びとは帰したまひて、惟光朝臣と覗きたまへば、ただこ の西面にしも、仏据ゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。簾すこし上げて、花たて まつるめり。中の柱に寄りゐて、脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読み ゐたる 尼君 、ただ人と見えず。四十余ばかりにて、いと白うあてに、痩せたれど、 つらつきふくらかに、まみのほど、のうつくしげにそがれたる末も、なかなか 長きよりもこよなう今めかしきものかなと、あはれに見たまふ。

 清げなる大人二人ばかり、さては童女ぞ出で入り遊ぶ。中に十ばかりやあらむ と見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て、走り来たる女、あまた見えつる どもに似るべうもあらず、いみじく生ひさき見えて、うつくしげなる容貌なり。 は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。

 「何ごとぞや。童女と腹立ちたまへるか」

 とて、 尼君 の見上げたるに、すこしおぼえたるところあれば、「なめり」と 見たまふ。

 「を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを」

 とて、いと口惜しと思へり。このゐたる大人、

 「例の、心なしの、かかるわざをして、さいなまるるこそ、いと心づきなけれ。 いづ方へかまかりぬる。いと をかし う、やうやうなりつるものを。烏などもこそ 見つくれ」

 とて、立ちて行く。ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。少納言の乳母 とこそ人言ふめるは、このの後見なるべし。

  尼君
 「いで、あな幼や。言ふかひなうものしたまふかな。おのが、かく、今日明日 におぼゆる命をば、何とも思したらで、慕ひたまふほどよ。罪得ることぞと、 常に聞こゆるを、心憂く」とて、「こちや」と言へば、ついゐたり。

 つらつきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなくかいやりたる 額つき、ざし、いみじううつくし。「ねびゆかむさまゆかしき人かな」と、目 とまりたまふ。さるは、「限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてま つれるが、まもらるるなりけり」と、思ふにも涙ぞ落つる。


渋谷栄一さんのメッセージ
http://www.sainet.or.jp/~eshibuya/ より

【ご利用の皆様へ】
わたしは、インターネットの最大限の利点を活かして、日本の代表的古典文学作 品である「源氏物語」を、誰でもが、何時でも、何処からでも、自由に、読むこ とができて、しかも、使い易く、信頼できる、内容のあるコンテンツを提供した いと念じています。併せて、メールによって利用者との相互交流を大切にしてい きたいとも思っています。したがって、わたしはweb上に公開したわたしの著作 物に対して、著作権や知的財産権などを主張しようとは考えません。利用者の良 識によって、広くいろいろと利用されさまざまに活用されることを願っています ので、わたしの著作物に関するダウンロードや加工なども自由です。生物が一つ の生命から発生してさまざまな形態に進化を遂げていったように、わたしの作成 したコンテンツからさらにより優れたコンテンツが生まれ出てくることを期待し ています。一人の人間の力、一個の個体にはおのずと限界があります。このコン テンツがもしこの世に有益なものであれば、これを時空を超えて次の世代へと受 け継いで永遠に発展していってもらいたいと願っているのです。(2001年1月1 日)
1 どなたもリンクはご自由です。わざわざのご一報には及びません。
2 私の作成したテキストに関してはダウンロード及び加工等もご自由です。ど うぞご学習やご研究等にお役立てください。知的公共財産として、皆様によって 愛されさらに優れたものに進化されることを願っています。ただし、私の著作・ 所有に関わらない画像やリンク先等についてはこれに含まれません。
3 私の作成したテキストを元に二次的著作物として公表する場合には、必ず当 webによった旨を明記してください。
4 もし、当データに誤入力や内容に不審な箇所を発見されましたら、お知らせ ください。また、ご感想やご質問等ございましたら、遠慮なくお寄せください。 誠意をもってお答えいたします。
5 「源氏物語」が世界中の人々から広く読まれ、少しでも日本文化の理解と学 術の振興に役立つことを願っています。
6 ご利用になる際には最新のversionのものをご利用ください。常によりよいも のへと更新していくことを心掛けておりますので、時々は「来歴(最新情報)」 をご確認ください。
作成者 渋谷栄一記す(2000年1月19日、4月26日補訂、2002年8月7日追加)