ショウジョウバエの複眼の色には多数の遺伝子が関わっている。 色素は視細胞(photoreceptor cell)ではなく、 色素細胞(pigment cell:視細胞などとともに個眼を構成する)にある色素胞 (pigment granule:脂質二重層に囲まれる)に蓄積する。 グアノシン三リン酸(GTP)を前駆体とする赤色系の色素(ドロソプテリン類)と トリプトファンを前駆体とする褐色系の色素(オモクロム類)の2種類があり、 両方とも欠くと複眼は白くなる。 cinnabar(cn)遺伝子がコードするタンパク質 (cn 遺伝子産物)は褐色系色素の代謝に関わる酵素 (キヌレニン-3-ヒドロキシラーゼ)で、 キヌレニンから3-ヒドロキシキヌレニンを合成する過程に関わる。 cn 突然変異体では、褐色系色素が作られなくなるため、 複眼が明るい赤色となる。 brown(bw)遺伝子は、 ABC(ATP-binding cassette)輸送体の一種をコードし、 赤色系色素の前駆体の輸送に関与する。 bw 突然変異体では、前駆体が運び込まれないため赤色系色素を欠き、 複眼が茶色くなる。 cn bw 二重突然変異体は、褐色系色素と赤色系色素を共に欠くため、複眼が白い。 なお、white(w)遺伝子の産物もABC輸送体の一種であり、 bw 遺伝子産物または scarlet(st)遺伝子産物 (ABC輸送体の一種)とヘテロダイマーを形成し、 赤色系色素(w と bw のヘテロダイマー)または褐色系色素 (w と st のヘテロダイマー)の輸送に関わる。 ABC輸送体は脂質二重層貫通型のATP依存輸送タンパク質で、 膜の内外の物質の輸送(外側から内側に、またはその逆)に関わる。 ABC輸送体は多種多様な種類があり、事実上全ての生物が持つ。
テキスト最終修正:2013年7月16日
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