Jfly に柔らかく書いた後に、ちょっと少し厳しめのメールを個人的に書いたのですが、 公表しておくべきと考え、ワタシのメールをいくらか加工したものを下に付けます。

元々は、karyotype の和訳である核型は「かくがた」と読むべき、 というところから始まっています。 でも、核型よりも遺伝子型のほうがある意味深刻と思いますので、 表題は「いでんしがた」を前に持ってきました。

間違いは仕方ないし、誰でも気付かず使い続けてしまうこともあるでしょう。 恥ずかしながら、ワタシも間違いは沢山しているのは自覚があります。 間違えているのがわかったら、次からは直したいと思います (それでも直らなかったら、ごめんなさい)。

漢字は、どちらにも読めるのだから、どちらでもいいじゃないか、 と反論する人もいると思います。 場合によってはその通りですが、そうではない場合、 「自分の無知を自慢している」ように感じますが、 ぼくの感覚がずれているんでしょうか。

遺伝子型の読み

西洋起源の専門用語は、日本語に、一対一に訳すような努力がされていると思いますが (完璧ではないことは知っています。なので標準化が必要とされている)、 その際、元の用語の起源を尊重した和訳がなされていると思います*1

遺伝子型は、genotye(英、仏[アクサン記号あり])、Genotyp(独)などですが、 Oxford Dictionary によると以下のような起源の説明があります (単語を見ればわかるかもしれません)。

genotype
http://www.oxforddictionaries.com/us/definition/american_english/genotype

Origin
early 20th century: from German Genotypus, from Greek genos 'race, offspring' + -tupos 'type'.

gene
http://www.oxforddictionaries.com/us/definition/american_english/gene

Origin
early 20th century: from German Gen, from Pangen, a supposed ultimate unit of heredity (from Greek pan- 'all' + genos 'race, kind, offspring').

つまり、Genotyp(独)、Genotype(英)は「genos の tupos」に由来。 genos は Gen(独)、gene(英)と同じとみなせるので (微妙に飛躍があるかもしれないけれども)、「遺伝子『の』型」 (イデンシ『の』カタ)との用語*2

そこで、遺伝子型は「イデンシガタ」と読む。
このように作られた用語では「ケイ」と読む余地なし。

genotype は、遺伝子の型ではなく、 個体などの遺伝に関わる型を表すのだからとの理由で、 日本語として遺伝型(「子」なし)を当てる人も時々いますが、 語源との一致を考えると、これもどうかな、よくないのではと思います。

核型の読み

karyotype (n.)
http://www.etymonline.com/index.php?search=karyotype

1929, ultimately from Russian kariotip (1922); see karyo- + type.

karyo-
http://www.etymonline.com/index.php?term=karyo-

before vowels kary-, word-forming element used since c.1874 in biological terms referring to cell nuclei, from Greek karyon "nut, kernel," possibly from PIE root *kar- "hard" (see hard (adj.)).

type (n.)
http://www.etymonline.com/index.php?term=type

late 15c., "symbol, emblem," from Latin typus "figure, image, form, kind," from Greek typos "a blow, dent, impression, mark, effect of a blow; figure in relief, image, statue; anything wrought of metal or stone; general form, character; outline, sketch," from root of typtein "to strike, beat," from PIE *tup-, variant of root *(s)teu- (1) "to push, stick, knock, beat" (see steep (adj.)).

Extended 1713 to printing blocks with letters carved on them in relief. The meaning "general form or character of some kind, class" is attested in English from 1843, though it had that sense in Latin and Greek. To be (someone's) type "be the sort of person that person is attracted to" is recorded from 1934.

ということで用語の成り立ちも「核の型」なので、カクガタと読むほかはない、 と思います。

「ケイ」との読みはどうして出てきたのでしょうか(私論)

「型」については、 はじめは「カタ(ガタ)」と読むことで一致していたにも拘わらず、 教わる機会を逃した人たちが「ケイ」と読みはじめたに過ぎないと思います (漢字の読みを知らなかったのではないと思います)。 元々は用語の読みについては「多型状態」ではなかったはずです。

典型や多型はケイですよね、「の」が入れられないから。
「の」が入るのは「カタ」でしょ。「これこれ」の「カタ」だから。

または、最近はあまり使われないかもしれないけれども、 典形や多形との「形」を使うものも併存していたことを知っていれば、 ケイとなるのはわかると思います。 意味を考えると、典型や多型は、カタについての用語ではなかった (今でもそうだけど)ので、 ケイと読むのが自然で(テンもタもケイも音読み)、 漢字に形を使っても意味が間違いではない、とも言えると思います。 なお、大型、小型はともに訓読みで自然ですが、 なぜ新型(シンガタ)が重箱読みなのかはわかりません。 新しいカタの意味なので、ガタと読むべきですが、 「新」の読み方はどうして「シン」になったんでしょうか。

起源が複合語(compound)ではない、 ふつたつ以上の単語からなる新しい専門用語も、 「ガタ」と読むので(例えば、データ型 data type)、 わざわざ遺伝子型などで「ケイ」と読むのはいかがなものか、と思います。 将来の辞書に、生物学では「ケイ」と読むことが多い、 と記述されるのを目指すのなら別ですが。

ほかの用語の読みのバラつき

「伴性」の「ハンセイ」か「バンセイ」かは議論があったと思いますが、 どこでその議論を読んだのかは忘れました(動物が「バ」で濁音ありだっかな)。 これは、(濁音か清音かの選択に見えるけれども) 複数の音読みのどちらにするかの問題で、 対合のタイもツイも音読で同様と思います。 カタ(訓読み)とケイ(音読み)の問題とは別なレベルの話と思います。

学術用語の読みが知りたいとき

読みについては、権力におもねるつもりはありませんが、 先人の合意(理由は今はわからないかもしれないけれども)が いちばんよく反映されている

文部省の学術用語集
https://dbr.nii.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000120Sciterm

遺伝学編(増訂版) 1993、植物学編(増訂版) 1992、動物学編(増訂版) 1991、 遺伝学編 1974 などなど

が最も適切で、ほかの辞書は参考と思うべきと、ぼくは思います。

学術用語集を適切と考える理由

学術用語集の編纂にあたっては、文部省から各学会に依頼があって、 学会員の中から担当者を複数選出し、合議制で決めたようです。 用語によっては、担当者だけではなく、もう少し広く学会で話し合ったようです。 遺伝学編(増訂版) 1993 が刊行されるときだったか、 された後だったかに、都立大の布山先生に伺ったような記憶があります。

文部省の学術用語集は意味は規定せず、 日本語と外国語(生物学関係なら主に英語)の専門用語の対応を明確にし、 読みを統一するとの標準化を目的にしているようです。

https://dbr.nii.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000120Sciterm にも 「各学問分野で標準化した学術用語は,『学術用語集』として刊行されています。」 とあります。

Today:1Yesterday:2Total:1408 since 11 January 2015

*1 一対一対応と語源の尊重は大前提と考えていますので、この前提を認めない方にはこのページの内容は受け入れ難いと思います。また、上手く一対一にできいない学術用語が浸透している場合もあることは知っています。例えば、「小胞体 endoplasmic reticulum」
*2 ここで、型を「カタ」と読むのは学術用語の世界の話ではありません

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 11 Jan 2015 (日) 14:02:33 (1838d)