細胞生物学 Cell Biology
2004 前期 応用生物学科 1年次
コア科目群A
担当 遠藤 泰久(Endo, Yasuhisa)

目次
01. 細胞とは
02. 生体膜: 真核・原核細胞の基本単位、流動モザイク説、細胞小器官の構成
03. 細胞小器官(単膜・複膜系―共生説)、核の構造と機能
04. タンパク合成にかかわる細胞小器官: リボソーム、小胞体、ゴルジ装置
05. 代謝にかかわる小器官: ライソソーム、ミトコンドリア、ペルオキシソーム
06. 細胞周期と寿命: cell cycleの制御機構、細胞の寿命、ガン細胞とは
07. 細胞骨格と運動:骨組み、かたち・接着、輸送、運動、分裂
08. 細胞はどのように結合するか: 細胞接着に関わる分子、細胞結合装置
09. 細胞間の情報伝達(細胞同士いかにして情報を伝えるか)
10. 受容体(細胞はどのように情報を受容するか)
11. 細胞内の物質輸送:仕分け、行く先指定、軸索輸送
12. ニューロンとグリア(神経系を構成する細胞)
13. 筋細胞:収縮運動のために特殊化した細胞、筋組織

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1. 細胞とは

1-1. 細胞の「発見」 
 Robert Hooke (英、1635-1703)
Robert Boyle の助手、Newton と同世代、
王立協会 Royal Society 会員
  1665 Micrographia 出版   
コルク断面の蜂の巣状構造 ― "little boxes or cells"
  ギリシャ語 kytos ドイツ語 Zell
Antoni van Leeuwenhoek (オランダ、1632-1723)
Royal Society 会員   
赤血球、精子、筋の横紋、原生動物、細菌?の記載

1-2 細胞説
Robert Brown (英1773-1856)1833 Nucleus の普遍性
J E Purkinje (チェコ1789-1869) 1840 protoplasm
M J Schleiden (ドイツ1804-1881) 1838
T Schwann (ドイツ1810-1882)  1839 細胞説 
 「生体は細胞と細胞が産生した物質によって成立する」
R Virchow (ドイツ1821-1902)
  「細胞は細胞より生じる」
日本における「細胞」の紹介――1835 宇田川 榕庵

1-3 細胞の定義、細胞の大きさ
「細胞とは、生命現象を示す最小(最も基本的)単位」  
生命現象―不確実な用語    
増殖(自己複製)、成長、分化、運動、代謝、、、、
逆は正しいか?    「細胞以下の要素は、無生命単位」?
「細胞は無生命単位から構成される」?
細胞の大きさ: ――10μm     肉眼の解像力(分解能) 70―80μm 

1-4 細胞の研究法
(1) 顕微鏡  
顕微鏡の種類(光学、蛍光、電子、位相差、共焦点レーザー、プローブ、、、)  
染色、組織化学
(2) 細胞培養  
単純化、均一化、大量化、  
初代培養系  
細胞株  
細胞融合  
(3) 細胞分画   
細胞要素(小器官など)の分画 
密度勾配遠心  構成分子の分画  
電気泳動、クロマトグラフィ
(4) 遺伝子改変制御  
外来遺伝子の導入 (機能解析、遺伝子治療、大量発現、、、)  
アンチセンス (発現抑制による機能解析、遺伝子治療、、、)

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2生体膜:
    真核・原核細胞の基本単位
    流動モザイク説
    細胞小器官の構成

2-1 細胞の構造の多くは膜によって構成される
  細胞膜
細胞内膜系
    核膜、小胞体(endoplasmic reticulum)、
    ゴルジ(Golgi)装置
   水解小体(lysosome)
    ペルオキシソーム(Peroxisome)
    小胞(vesicle)

2-2 原核細胞と真核細胞 
原核細胞 prokaryote:細菌(bacteria) ラン藻
真核細胞 eukaryote:動物、植物
   核膜の有無
   細胞内膜系の有無

2-3 生体膜は共通の構造をもつ
(1)脂質2重層 lipid bilayer
1925 Gorder and Grendel
赤血球の膜
(2)脂質の種類
リン脂質 phospholipid (60%)
phosphatidylcholine
phosphatidylserine
phosphatidylethanolamine
phosphatidylinositol
コレステロール cholesterol (30%)
糖脂質 glycolipid
(3)脂質には疎水基と親水基がある
内側に疎水基、外側に親水基が配列(疎水性のバリア)
脂質の種類は不均一   (膜には裏表がある)
コレステロールの多い領域  raft

2-4 膜にはタンパクが存在する
細胞接着因子 cell adhesion molecule
イオンチャネル ion channel
受容体   receptor
情報伝達タンパク  G protein
輸送タンパク  transporter

2-5 膜は動的  流動モザイクモデル
1972 Singer and Nicolson
膜タンパクの多様性:表在性、内在性(膜貫通性)  
2-6流動モザイク説の証明
ヒトとマウスの細胞を融合標識した膜タンパクの動態

まとめ
細胞の膜は共通の構造をもつ
脂質2重層+タンパク(表在・内在)
動的(流動性): 流動モザイク説
        Fluid mosaic model
不均一: 裏表(内外)--細胞接着、細胞認識
      ラフト--情報伝達?

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3. 細胞小器官(単膜・複膜系ー共生説)
核の構造と機能

3-1 真核細胞には1枚膜と2枚膜の
    細胞小器官がある。
1枚膜の cell organelles: 
    核膜 nuclear envelope     
   小胞体 endoplasmic reticulum
    Golgi装置 Golgi apparatus
    水解小体 lysosome  
    分泌小胞 secretory vesicle
2枚膜の cell organelles: 
    ミトコンドリア mitochondria
     葉緑体 chloroplast

3-2 ミトコンドリアや葉緑体は
真核細胞が誕生するときに侵入した別の原核細胞である
(共生説 symbiotic theory )
共生説の根拠
1) 2枚の膜
2) ミトコンドリア、葉緑体に固有のDNA(遺伝情報)
3) DNAは環状 (circular) : 細菌タイプ
4) 固有のタンパク合成系: リボソーム (細菌タイプ)

3-3 1枚膜の器官は細胞膜の 陥入(invagination)によってできた

3-4 核の構造
真核細胞には通常 1個の核 nucleus (pl. nuclei)がある
  例外: 多核の細胞: 骨格筋細胞、破骨細胞、
                胎盤絨毛上皮合胞体細胞
       時に2核: 肝細胞、心筋細胞
遺伝情報をもつ染色質(染色体)
リボソーム(ribosome)RNAをつくる核小体(仁)
核膜 (細胞質との境界)
核膜孔 (核と細胞質の通路)
核ラミナ (核膜の裏打ち)

3-5 染色体の構造
 (DNAとタンパクの複合体)

3-6 核膜
細胞質側: 小胞体と共通の構造(リボソームが付着)
核質側:   核ラミナ(繊維タンパクによる裏打ち)
        染色質の付着
核膜孔:   通路(細胞質⇔核質)
核に移動するタンパクには特別な印
(核移行シグナル、nuclear localization signal, nuclear import signal)

3-7 核膜の消失・再出現
(裏打ちタンパクの構造変化) 
裏打ちの繊維性タンパク lamin
リン酸化・脱リン酸化により
核膜が小胞化したり、再凝集する

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4. タンパク合成にかかわる細胞小器官
Ribosome (polysome) リボソーム
Endoplasmic reticulum 小胞体
Golgi apparatus ゴルジ装置
 

4-1 ribosome
mRNA (messenger ribonucleic acid) の翻訳 translation に関わる小器官
 (暗号codonに基づき、ペプチドを合成する) 
ribosomal RNA とタンパクの複合体
2 subunits 構成
 真核細胞では分子量 (molecular weight)
4,500 k Dalton (80S)
Large subunit
3,000kDa (60S)
Small subunit
1,500kDa (40S)
原核細胞では、若干小さい
分子量 2,500 k Da (70 S)
Large subunit 1,600 kDa (50S)
Small subunit 900 kDa (30S)
電顕で見るとRibosome は電子密度の高い(黒い)ダルマ型粒子
単独
輪(ring)状: 1本の mRNA を翻訳中 Polysome
小胞体に付着
生成されたタンパクの行く先 
細胞内で働く−核質
          細胞質
          ミトコンドリアの基質タンパク
細胞外に分泌される
細胞の膜系となるー細胞膜
             核膜、小胞体、
          ゴルジ装置、ライソソーム
生成されるペプチドの一部の配列が行く先を決定する
分泌タンパク(ホルモン・消化酵素)
膜タンパク(膜受容体・細胞接着因子)
        N末端にシグナルペプチド
核質のタンパク(ヒストン・DNA複製酵素)   核移行シグナル

4-2 小胞体 endoplasmic reticulum (ER)
1枚膜でできた袋状の細胞小器官
核膜・ゴルジ装置・ライソソームと共通構造
リボソームが付着ー粗面小胞体
          rough-surfaced ER, rough ER
  付着していないー滑面小胞体
         smooth-surfaced ER, smooth ER
粗面小胞体 rough ER:
分泌タンパク、膜タンパク、細胞表層系の生成, 糖鎖の付加
シグナルペプチドにより小胞体膜を通過する
滑面小胞体 smooth ER: 脂質代謝 (ステロイド生成)

4-3 Golgi apparatus
分泌(膜)タンパクの修飾 modification
  splicing (酵素による切断)
  糖鎖の付加 glycosilation
  濃縮 condensation
構造  輸送小胞 transfer vesicle
     ゴルジ層板 Golgi cistern 形成面 cis
      成熟面trans
     ゴルジ小胞・分泌小胞 secretory vesicle
極性(polarity)、方向性がある。
糖鎖の付加は小胞体,ゴルジ層板を移動しながらおこる
付加酵素が局在する

4-4 exocytosis (開口放出)
ゴルジ装置由来の膜で包まれた分泌小胞は、
細胞膜と融合し、内容物を細胞外に放出する。
この形式を「開口放出」exocytosis と呼ぶ。
調節的分泌 regulated pathway
生成された分泌小胞は、何らかの刺激により
 細胞膜と融合し、内容物が放出される。
  タンパク性ホルモン、神経伝達物質
  消化酵素など
構成的分泌 constitutive pathway
 生成された分泌小胞は、すぐに細胞膜と
 融合し、細胞外に分泌される。
  細胞外基質、細胞表層系、、、
小胞膜と細胞膜複雑なタンパク同士の相互作用

4-5 膜の回収・再利用  endocytosis
ゴルジ装置由来の小胞が細胞膜と融合
細胞膜の表面積が拡大?
過剰な膜はすぐに回収され、再利用
膜の飲み込みの過程を「endocytosis」とよぶ
小胞体ーGolgi層板の輸送小胞と同じ仕組み
膜に特別のタンパク(クラスリン)が付着
      膜が陥入(小胞体の場合、budding)
くびるタンパク(ダイナミン)により、小胞として回収
クラスリンが離れ、膜の再利用
 
まとめ
タンパク合成にかかわる構造
 ribosome, rER, Golgi apparatus
タンパク−細胞内ではたらくもの
       細胞膜系・分泌されるもの
開口放出ー調節/構成
細胞膜の回収・再利用
来週: 代謝に関わる小器官 ミトコンドリア,,,

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5. 代謝にかかわる小器官:
  ライソソーム(細胞の消化器官)
  ミトコンドリア(エネルギー生産器官)
  ペルオキシソーム(活性酸素・解毒)

5-1 lysosome
細胞質に存在する1枚膜に包まれた袋状構造
細胞内の消化器官(水解小体)
構造:直径0.2-0.5μm
Golgi 装置由来の小胞(1次ライソソーム)が
飲み込み小胞(endosome,phagosome)や他の細胞小器官と融合してできる。
(2次ライソソーム)
機能:食作用でとりこんだ異物の分解・消化(免疫系)
    細胞小器官の分解
   
内部に
酸性の加水分解酵素
 (acid phosphatase,
protease, nuclease,,,)
膜のプロトンポンプ(ATPによりH+を輸送)
酸性化
ゴルジからの輸送(マンノース6リン酸の識別)

5-2 ミトコンドリア 
mitochondrion (pl. mitochondria)
糸粒体
1細胞あたり数百-数千個
クリステ
環状DNA
基本粒子
ミトコンドリア顆粒
基質(マトリックス)
外膜
内膜
リボソーム
機能
1) ATP生産
   クエン酸(TCA, Krebs)回路ーマトリックス
   電子伝達系ー内膜・クリステ
2) ステロイド代謝
   コレステロールからステロイド生成に関する酵素群
              ーマトリックス
ステロイド合成が活発な細胞では、管状クリステを持つミトコンドリアが多い
 ミトコンドリアのDNAはわずか13のタンパクしかコードしていない。
 ほとんどのタンパクは核に依存しており、細胞質で合成され、ミトコンドリア内に移動する。
ミトコンドリアのゲノムサイズ 1600,000 nucleotides
(核のゲノムの10万分の1)
ミトコンドリア移行シグナル:
細胞質で生成されたタンパク
N末の20-80アミノ酸残基がミトコンドリア膜を通過するために必要である
  1) 膜に留まるタンパク:
   膜貫通停止シグナルを途中にもつので
   外膜を通過できない
  2) 基質のタンパク:
   膜貫通停止シグナルをもたない

5-3 peroxisome
カタラーゼ catalaseを含む1枚膜で包まれた小胞
0.15-0.5μm
Peroxisome の機能
過酸化水素の生成
  RH2 + O2 → R + H2O2
有害物質の酸化(解毒)
R’H2 + H2O2 → R’ + 2H2O
過剰な過酸化水素(活性酸素)の除去
2 H2O2  → 2H2O + O2
ゴルジ由来ではない?
  (生成過程がよくわかっていない)
カタラーゼは細胞質で生成され
 膜を通過してペルオキシーム内に入る
  (C端に膜通過シグナルが存在する)

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6. 細胞周期と寿命:
  cell cycleの制御機構、
  細胞の寿命、
  ガン細胞とは

6-1 細胞分裂と細胞周期
形態学(顕微鏡)中心の時代:
      細胞分裂期 と 間期
      mitotic stage    gap stage
間期に様々な現象が起こっている(休止期ではない)

6-2 細胞周期を解析する意義
1) 多細胞生物は発生の過程で細胞分裂をくりかえすが、一部の細胞は分裂を停止し
 分化(differentiation)する。しかし、ある細胞は一生 分裂能力を持続する。
2) 細胞の分裂を制御するメカニズムの解析は、生物体の構成機構を解明するために重要な課題である。
3) 医療:癌の抑制 
      組織・器官の再生・修復
      老化の制御
      免疫系の制御
4) 細胞の大量培養系
  特定の遺伝子の大量発現系
5) 体細胞クローンの作製
    
  細胞分裂(細胞周期)の促進・抑制
  分化の制御
  

6-3 遺伝子(DNA)の複製は間期に行われる
分裂期(M)が終わっても、すぐにS期に入れない
DNA合成期(S期)が終わっても, すぐにM期に入れない
M → Gap1 → S → Gap2 → M
  
Gap1と2の時期に、DNA合成や核分裂に必要な準備がなされる   

6-4 細胞周期はどのようにして調べるのか?
1細胞周期 cell cycle time の長さ=倍加時間 doubling time  
均一な細胞群(培養細胞)であれば、細胞数を計測し、2倍になる時間

     癌細胞(培養細胞)の例 
           20-30時間
6-5 細胞周期の各ステージの時間はどのようにして測定できるか?
(1)DNAの前駆体に標識したものを投与
   (3H-thymidine, bromo-deoxyuridine)
(2)DNA合成(S)期の細胞のみがDNAに取り込む(DNAが標識される)
(3)定期的に分裂(M)期の細胞のうち、標識された細胞の割合(標識率)をしらべる
3H-thymidineが取り込まれた細胞
写真乳剤の薄い膜
暗室で露光
現像
(Autoradiography)
S期に標識された細胞はある時間後にM期に入り
M期の全細胞中の標識細胞の割合が増加
標識細胞がM期を通過する時間=S期の時間
標識細胞を追跡することで、細胞の分化や
組織の更新を調べる  細胞動態 Cell Kinetics

6-6 細胞のDNA量を測れば細胞周期を換算できる(cell sorter)

6-7 細胞周期は2種類のタンパクで制御される
サイクリン
サイクリン依存性キナーゼ

6-8 細胞の増殖には2つのチェックポイントがある
1) 遺伝子の複製を開始するか否か?
  (G1 checkpoint, start point)
2) 核の分裂を開始するか否か?
  (G2 checkpoint)

6-8 チェックポイントを超えるには何が必要か?
1) サイクリンの合成が必要である 
  (細胞周期 cell cycle を制御するので
  サイクリン cyclin と呼ばれる)
2) サイクリン依存性キナーゼの活性化
(サイクリンの量があるレベルを超えると
DNA複製や核分裂に必要な酵素が活性化する) 

6-9 脊椎動物ではサイクリン・CDKの種類が少し多いが、共通の機構
  酵母      哺乳類    
G1サイクリン   サイクリンD Cdk4, Cdk6
           サイクリンE Cdk2
           サイクリンA Cdk2
Mサイクリン    サイクリンB Cdk1
3番目のチェックポイント: 分裂中期チェックポイント
(染色体に紡錘糸が付着)

6-10 サイクリン依存性キナーゼ(cdk)はサイクリン以外の制御もうける
Cdkはサイクリンと結合すると
他のリン酸化酵素や脱リン酸化酵素の基質となる
   (cdkの活性化と抑制)
Cdkの基質は?
G1チェックポイント: DNA複製酵素
G2チェックポイント: ヒストン(染色体の凝集)
             核膜ラミン(核膜の消失)
Mチェックポイント: 微小管関連タンパク
               (紡錘糸の付着)

6-11 サイクリンの分解
Cdkと結合し活性化すると速やかに分解される
細胞質のタンパク分解系ーユビキチンubiquitin と結合し、
プロテオソーム proteosome で分解

6-12 サイクリンの合成を制御するのは?
Growth factor 成長因子: 
         繊維芽細胞増殖因子 FGF
         上皮細胞増殖因子 EGF
         インシュリン insulin
         肝細胞増殖因子 HGF
成長因子の受容体は細胞膜に存在し、細胞内に信号を伝える

6-13 癌細胞とは
腫瘍 Tumor 異常に増殖した細胞の集団
・良性腫瘍 benign tumor :
ほくろ、脂肪腫、、、、
・悪性腫瘍 malignant tumor
   上皮性ー癌腫 cancer 
             (皮膚、肺、胃、肝、、)
間葉性ー肉腫 sarcoma(骨、腹水、、、)
血球 ー白血病 leukemia, lymphoma,,,
悪性腫瘍とは
    浸潤・転移する metastasis
染色体異常
   細胞接着異常
   細胞増殖がとまらない (細胞周期異常)
正常な細胞は、お互いに接触すると増殖しない
(接触阻害 contact inhibition)
良性腫瘍はある程度のところで増殖を停止

6-14 ヒトの培養細胞にも寿命がある  
Hayflickたちの1960年代の研究
1) 様々な年齢のヒトから摘出した肺の組織
2) タンパク分解酵素(トリプシン)で解離
3) 培養皿で培養 (繊維芽細胞)
4) 増殖して密度が高くなったら、別の培養皿に移す(継代)
  *正常細胞の特徴:高密度⇒分裂停止(接触阻害)
(癌細胞の場合は接触阻害がなく、異常増殖、浸潤、転移)
5) ある継代数に達すると分裂が停止する
  
ヒトの培養細胞の継代限界は50回
 成人からの細胞ほど継代数は少ない

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7. 細胞骨格と運動

7-1 細胞骨格(Cytoskeleton)とは
繊維性のタンパクによる骨組み
細胞のかたち・接着
細胞内の物の輸送
細胞の運動
細胞分裂
骨格タンパクの種類により構造がことなる
   アクチン・フィラメント (直径6-8nm)
   微小管 (24nm)
   中間径フィラメント (10nm)

7-2 アメーバの動きは、アクチン繊維による細胞運動の基本原理   
(1) アクチン繊維
  伸張する(新たにのばす)
  解離する(縮む)
  たばねる (硬くなる:ゲル化)
  1本ずつにする(軟らかくなる、流動化:ゾル化)
(2) アクチン繊維は球状のタンパク(Gアクチン:分子量 41,872)が重合してできる。
(Fアクチン:2重らせん構造)MgイオンとATPのエネルギーが必要
直径6-8nm
Actin: もともとは筋肉から精製されたタンパクで、
「筋収縮のためのタンパク」と考えられた。しかしすべての真核細胞に存在。
アクチン繊維はいろいろな束をつくり、細胞のかたちや硬さをかえる。
アクチン繊維をたばねるタンパクの種類により硬さや働きがかわる。
細胞は瞬時に流動的(sol)になったり、硬化(gel)したりできる。
(3) アクチン調節タンパク
 a.重合阻害因子: profilin
 b.ゲル化因子: αactinin, filamin
 c.束形成因子 : fascin, vinculin, fimblin
 d.末端因子: β actinin, villin
    (cappingタンパク)
 e.切断因子: gelsolin
(4) アクチンフィラメントの重合・脱重合を阻害する薬物
  a.重合阻害:  サイトカラシン Cytochalasin
   菌 Helminthosporiumから分離  
   サイト(細胞)カラシス(弛緩)
 b. 脱重合阻害: ファロイジン Phalloidin
   菌 タマゴテングタケ Amanita から分離
   

7-3 精子の動きのメカニズムは、ミドリムシやゾウリムシと同じ:微小管の運動! 
(1) 精子の構造
  頭部
   先体(消化酵素)
   核(染色体)
  中部
   ミトコンドリア(エネルギー生産)
   中心小体(鞭毛の基部)
  尾
   鞭毛(軸糸)
(2) 鞭毛と繊毛
  1本のときは、鞭毛Flagellum と呼ぶ  (精子、ミドリムシ、、、)
  たくさんのときは、繊毛 Cilia と呼ぶ (ゾウリムシ、卵管や気管の上皮)
  内部には共通の構造
(3) 繊毛の内部構造
  細い管の束が整列(微小管)
   外側に2本組み 9対
   中央に 2本
               9+2 構造
(4) 微小管 Microtubule
すべての動物・植物細胞に存在
  構成タンパク
    チュブリン Tubulin
(2個のサブユニット)
    αtubulin (56kDa) 
βtubulin (53kDa)
  ヘテロ2量体 (heterodimer)
  CaイオンとGTP(グアノシン3リン酸)の存在下で重合
  13本の原繊維(protofilament)が束になって管を形成
  外径24 nm (内径14nm)
(5) 繊毛の動き
  鞭がしなるような平面的な運動
  (細菌の鞭毛は回転する)
  ダイニン腕が繊毛運動のモーターである
  ダイニン腕はエネルギー(ATP)をつかってとなりの微小管を動かす

7-4 細胞小器官の移動は微小管のレールを通る
(1) 運送屋のタンパク:ダイニン・キネシンの仲間
 魚、カエル、イカなどの皮膚の体色変化:色素細胞内で色素が微小管に沿って移動する
 微小管には方向性がある(− +)
 運送タンパクはATPのエネルギーを使い目的の方向にモノを運ぶ。
(2) 微小管を調節するタンパク:微小管関連(結合)タンパク  
              Microtubule associated proteins(MAPs)
  微小管同士や微小管と他の構造を架橋する
   a. MAP1 : 神経細胞の細胞体や突起
   b. tau: 神経細胞の軸索
   c. MAP2:神経細胞の細胞体と樹状突起
   d. MAP4: 非神経細胞
(3) 微小管の形成を阻害する薬物
 a. 重合阻害: コルヒチン colchicine コルセミド colcemide
(イヌサフラン Colchicumの種子・鱗茎より分離)
 b. 脱重合阻害: ノコダゾール nocodazol
タキソール taxol
 c. 重合促進・結晶化: ヴィンブラスチン vinblastine

7-5 筋細胞は運動のために特殊化した骨組みをもつ
 ミオシン繊維(太い繊維)
 アクチン繊維(細い繊維)
 デスミン繊維(中間径繊維:アクチン繊維をたばねる)
 収縮の動き:太い繊維が細い繊維の中にすべりこむ
   (1) 太い繊維のミオシンタンパクの頭の部分
    カルシウムイオンがあると細い繊維(アクチン繊維)と結合
   (2) ATPのエネルギーで頭のかたちが変化
(3) 太い繊維がアクチン繊維の束の中にすべりこむ
                「すべり説」 Sliding theory

7-6 中間径フィラメント
(1) 直径が10nmのタンパク性繊維
(2) 組織・細胞によって構成タンパクが異なる
  皮膚・表皮細胞:  keratin
  神経細胞:  neurofliament proteins(70, 150, 200kDa)
  グリア細胞: GFAP
  筋細胞: desmin
  結合組織などの細胞: vimentin
(3) 機能はよくわからない。 構造的強化?

まとめ
1 生物の動きは、細胞骨格が基礎
2 アクチン繊維: アメーバ状の運動
  微小管: 繊毛、精子
        細胞内のモノの移動、細胞分裂
          (染色体、ミトコンドリア、色素)
  中間径繊維
  ミオシン繊維・アクチン繊維: 筋収縮
3 タンパクの重合・解離
  ATP(エネルギー)によるタンパクの構造変化

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8. 細胞はどのように結合するか
   細胞接着に関わる分子
   細胞結合装置

8-1 細胞の結合には表面の糖タンパクが関与する
細胞は表面の糖タンパクの構造を特殊化
  お互いの認識
  情報伝達
  移動・定着・結合
細胞の親和性: 組織を形成する細胞は親和性を持っている。
  同じ胚葉由来、同じ組織由来の細胞は、
  バラバラになっても、またお互いを認識し集合できる

8-2 細胞接着因子 Cell Adhesion Molecules (CAM)
細胞と細胞を接着させるタンパクは、Caイオンが結合に必要か否か
の違いから、2 groups にわけられる。
(1) Cadherin superfamily (Caイオン依存性)
(2) Immunoglobulin superfamily CAM (Caイオン非依存性)
(1) カドヘリン 
 胚発生の過程で細胞の集合や移動に重要な役割を果たすタンパクとして発見。
  (1986年 竹市雅俊)
 組織ごとにタイプがことなる  
   Eカドヘリン (上皮組織) 
   Nカドヘリン (神経組織、心臓、骨格筋、水晶体、繊維芽細胞)
   Pカドヘリン (胎盤、皮膚、肺)
   VEカドヘリン(血管内皮)
   desmocollin (皮膚)
   desmoglein (皮膚)
   Tカドヘリン (神経、筋)
   ・・・
 カドヘリンはCaイオンの存在下で、同じタイプのカドヘリン同士が結合する。
  同じタイプのカドヘリンを発現している細胞同士が集合し、結合する。
  胚発生: compaction (外側の栄養芽細胞層と内部細胞塊)
        神経誘導(神経管と皮膚外胚葉)
        ・・・
  Caイオンを除去すると(EDTAのようなキレート剤を注入すると)
  多くの組織は解離する。
 カドヘリンは膜貫通タンパク
  細胞外に突き出した領域:Caイオンが結合し、構造変化--結合
  細胞内の領域: カテニンというタンパクを介し、アクチン繊維と結合
              (細胞膜の内側から細胞間結合を支える、裏打ち構造)
(2) Caイオン非依存性細胞接着因子は免疫グロブリンの仲間
  免疫系(Immune system)とは、自己と非自己の認識機構であり、
 細胞の接着も、他の細胞や細胞外基質の認識を基礎とすることから、
 広い意味での免疫機構の一つといえる。
  組織、細胞の種類により、種々のCAM分子が知られる。
     N-CAM (神経)

8-3 細胞結合装置
 細胞-細胞の間には構造と機能が異なる様々な結合装置がある
(1)閉鎖のための結合---閉鎖帯 Tight junction
    ・消化管や膀胱の上皮細胞の間などにみられる線状(網目状)の結合
    ・物質は細胞の隙間を通過できない
    ・claudin, occluidinという膜貫通タンパクによる弱い結合
(2)接着のための結合
   _接着帯 Adherens junction
(Adhesion belt, Intermediate junction)
    ・上皮細胞の閉鎖帯と接着斑の中間に形成される帯状の結合
    ・カドヘリンによる弱い接着
    ・細胞内ではアクチン繊維による裏打ち
_接着斑 Desmosome
    ・上皮細胞、心筋細胞などで見られる斑点状の結合
    ・カドヘリンによる強固な結合
    ・細胞内では中間径繊維による裏打ち
   *半接着斑 Hemidesmosome
           基底膜との間にできる。インテグリンによる結合
(3) 情報伝達のための結合
   _ギャップ結合 Gap junction
    ・低分子(分子量1000以下)が通過可能なチャネル
    ・6個のサブユニット(conexin)が集合し、片側のチャネル(connexon)を形成
    ・connexon同士が向かい合って、ギャップ結合を形成
    ・イオンやcAMPなどの情報因子の伝達 (電気シナプス)
    ・電顕(わずかの隙間 2-3nm)---gap
_シナプス  chemical synapse
・神経細胞の間、神経細胞と標的細胞の間に形成される
・前シナプス(presynapse), シナプス間隙(synaptic cleft),
     後シナプス(postsynapse)から構成される。
    ・情報の流れに方向性がある。
  

8-4 細胞外基質と細胞の接着
細胞は、細胞同士だけでなく、細胞外基質(Extracellular matrix)とも
特殊な接着をし、細胞の移動・定着や細胞分裂・細胞分化の情報を得ている。
(1) 基底膜 basal lamina
上皮細胞などと結合組織の境界に形成される非細胞性の薄い層
  _型コラーゲン、ラミニン、ファイブロネクチンなどで構成
  細胞膜の貫通タンパクであるインテグリンと結合
  
 (2) 細胞間質の一般的構成
  繊維: 膠原繊維(I型コラーゲン)---機械的強度
          弾性繊維(エラスチン)---弾力性
ファイブロネクチン ---細胞と細胞間質の接着を仲介
  多糖類F ヒアルロン酸
        コンドロイチン硫酸
---タンパクと結合し、プロテオグリカンとして存在
      細胞が分泌した種々のタンパクが結合し、その機能発現を調節
       (細胞増殖因子、細胞分化因子、炎症性因子・・・)
 (3) コラーゲン:からだの中で最も大量に存在するタンパク
    総タンパクの約25%
    現在 25種類のコラーゲン遺伝子が同定
    繊維を構成するタイプ (I, II,_,V,XI)
    繊維に付着するタイプ (IX, XII)
    網目状のタイプ(_,VII)
    膜結合タイプ  (XVII)

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9. 細胞どうしはいかにして情報を伝えるか (細胞間の情報伝達)
Intercellular signaling (chemical messengers)

9-1 細胞は種々の化学因子を使って情報伝達をしている
 情報因子が作用するシステムによって異なる名称で呼ばれてきた
  1) ホルモン ---内分泌系(endocrine system)
  2) 神経伝達物質---神経系(nervous system)
  3) サイトカイン---免疫系(Immune system)
  4) 成長因子・局所的制御因子 ---傍分泌系(paracrine system)
 情報因子を化学的性質により分類すると
  1) ペプチド・タンパク
  アミン(アミノ酸誘導体)
    アミノ酸
  2) ステロイド
   プロスタグランジン(脂肪酸誘導体)
  3) アセチルコリン
   ATP(プリン)
    NO, CO 

9-2 ペプチド・タンパク性の情報因子は
神経・内分泌・免疫系のすべてのシステムで使われる
神経調節因子 neuromodulator
ホルモン
サイトカイン(インタロイキン)
生合成系
 1) mRNAの情報
  2) リボソーム(粗面小胞体)で翻訳
  3) ゴルジ装置で修飾
  4) 分泌小胞に蓄積 (直径100nm以上、電顕でみると 
   小胞内に黒い芯がある。有芯小胞 large dense core vesicle)
  5)刺激に応答して、開口放出(調節的分泌)

9-3 アミンは神経系・内分泌系で情報因子として使われる
生合成系
1)細胞質中のアミノ酸(tyrosine, tryptophan)
2)酵素により修飾(水酸化・脱炭酸_)
3)小胞内に輸送(小胞膜にtransporter)・濃縮
4)刺激に応答し、調節的分泌
生体アミンの種類:カテコラミンとインドラミン
1)catecholamine :tyrosine からつくられるアミン
(dopamine, noradrenaline, adrenaline)
2)indolamine :tryptophan からつくられるアミン
(serotonin, melatonin, octopamine)

9-4 アミノ酸やアセチルコリンは神経系で使用される情報因子
脳や脊髄のような中枢神経系、骨格筋を支配する末梢神経系の神経終末では、
 アミノ酸(グルタミン酸・γアミノ酪酸 GABA)やアセチルコリンのような
 低分子因子が伝達物質として働く。
  1)acetylcholine
(1)神経終末の細胞質に存在する酵素
   (コリン・アセチル転位酵素 choline acetyl transferase)により
   合成される。
  (2)アセチルコリントランスポーターにより、小胞内に輸送・蓄積。
   電顕で見ると、直系30-50nmのシナプス小胞に濃縮されていると
   信じられている
  (3)神経の興奮(活動電位)が神経終末に到達すると、
   Caイオンが増加し、小胞と前シナプス膜が融合し、開口放出。
  (4)後シナプスのアセチルコリン受容体と結合し、興奮を伝える。
  (5)シナプス間隙で、コリン加水分解酵素(choline esterase)により、
   アセチル基を除去されたコリンは、前シナプスに取り込まれ、再利用。
  2)グルタミン酸・GABA
  (1)神経終末の細胞質中で、シナプス小胞にトランスポーターにより
   輸送・蓄積される、と信じられている。
  (2)神経の興奮(活動電位)が神経終末に到達すると、
   Caイオンが増加し、小胞と前シナプス膜が融合し、開口放出。
  (3)後シナプスの受容体と結合し、一般にグルタミン酸は脱分極(興奮)
   GABAは過分極(抑制)をおこす。
  (4)細胞間隙のアミノ酸は、周囲のグリア細胞(アストロサイト)により
   吸収される、と考えられている。

9-5 ステロイドは主に内分泌系
生合成系
  1) コレステロールより、滑面小胞体、ミトコンドリアに局在する酵素群が合成。
  2) 細胞質に蓄積することは不可能なので、
   合成後、ただちに拡散により細胞外へ分泌される、と考えられている。
 ステロイドホルモンをつくる内分泌器官
  1)副腎皮質 adrenal cortex
(1) 糖質コルチコイド(corticosteron, cortisone, cortisol) 糖の分解・抗ストレス
     (2) 鉱質コルチコイド(aldosetron)  抗利尿 (Na・水の再吸収)
  2) 生殖腺
    (1)男性ホルモン(testosteron) 精巣
(2) 女性ホルモン(esterogen) 卵巣
      黄体ホルモン(progesteron)
*昆虫や甲殻類の脱皮ホルモン (ecdysone, ecdysteroid)
前胸腺, Y器官
  * 最近、神経系でもステロイドホルモン様因子がつくられ機能している、と
  言われ始めている(神経ステロイド)

9-6 脂肪酸(アラキドン酸)からつくられる情報因子:
prostaglandin, leukotrien : 全身の細胞が使う情報因子(痛み・炎症・発熱....)
  生合成系
   1) 細胞膜を構成する脂肪酸のひとつであるアラキドン酸から、
    細胞質中で酵素群によりツくられる。
   2) 蓄積することは不可能なので、合成後ただちに細胞外へ拡散
    傍分泌、局所的な情報伝達に関与する、と考えられている。
  プロスタグランジン A〜J 様々な生理作用
    収縮・弛緩・活性化・抑制......    . (アスピリン:PGの合成阻害)

9-7 NOのようなgasも情報因子として機能する
 生合成系:
 1) 細胞質中のアルギニンから、NO合成酵素(NO synthase)により、NO産生。
 2) ただちに拡散して機能する。
 よく知られている作用部位
  血管内皮細胞がNO生産(アセチルコリンが刺激)
  血管周囲の平滑筋が弛緩(平滑筋細胞内のcGMPが増加)

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10. 受容体 (receptor)
細胞はどのように情報を受容するか

10‐1 受容体の種類
細胞間の情報因子(神経伝達物質、ホルモン、サイトカインなど)を
受け取る受容体は、存在する部位で2つに大別できる。
 1) 細胞内---核レセプター(ステロイドホルモンなど)
     細胞膜を通過して細胞質に入った因子と結合し、
    核に移行するタンパク。DNAに結合し、遺伝子発現を調節する。
 2) 細胞膜---膜レセプター(ペプチド/タンパク、アミン、アミノ酸など)
     細胞膜を貫通するタンパクで、外側で因子と結合すると、
    受容体の構造が変化し、細胞内部に情報を伝える。

10‐2 核レセプター(ステロイドホルモン受容体)
1) 細胞質に存在するタンパク
2) 細胞膜を通過したステロイドと結合する
3) 共通構造 3つのドメイン
  N端  遺伝子転写調節部位
  中央  DNA結合部位
  C端  ホルモン結合部位
4)ステロイドホルモンが結合すると、構造変化
核内に移動
特定のDNAに結合
遺伝子の転写を活性化
(阻害タンパクがDNA結合部位に結合すると、不活性化)
5) 核レセプターを用いる情報因子
   ステロイドホルモン
   チロキシン(甲状腺ホルモン)
    ビタミンD, レチノイン酸(ビタミンB)

10‐3 膜受容体 (神経伝達物質、ペプチド・タンパク性ホルモン受容体)
   細胞膜で情報因子を受容するレセプターは
  細胞内に情報を送る方法で3つに分類できる
  1) イオンチャネル型: 神経伝達物質などが結合すると
   細胞内にイオンを流入させて、情報を伝える。
2) Gタンパク型: 細胞内に2次的な情報因子を生成して
   情報を伝える。 cyclicAMP, inositol triphosphate ? Ca
3) キナーゼ型: 膜受容体の細胞質側の領域が酵素として
   機能し、細胞質の特定のタンパクをリン酸化することにより
   情報を伝える。

10‐4 イオンチャネル型レセプター
        (神経伝達物質受容体)
  1) 後シナプスに存在する。
   膜貫通タンパクで構成されるイオンチャネル。
   前シナプスで放出されたアセチルコリン、グルタミン酸、
   GABAなどの神経伝達物質と結合。
   チャネルが開き、特定のイオンが流入(選択的イオン透過性)
   化学的情報をイオンの流れ(電気的興奮)に変換。
  2) イオンチャネル型レセプターは共通構造をもつ
    4‐5個のサブユニット(50−60kDa)
       GABAレセプター(Clイオンを細胞内に流入、膜電位をより−にする)
  3)ひとつの神経伝達物質に対して複数の受容体が存在する
    グルタミン酸 :  NMDA型、 カイニン酸型、AMPA、、、
    アセチルコリン : ニコチン型、ムスカリン型、、、
  4)神経毒や特異的薬剤によって研究が進む
     チャネルを開く: agonist
   閉じる: antagonist
     ニコチン ムスカリン ブンガロトキシン アトロピン

10‐5 Gタンパク型レセプター:細胞内に2次的な信号を生成
  (ペプチド・タンパク性ホルモン受容体)
  
  1)細胞膜を貫通する(7回貫通)
    3つのドメイン 
      細胞外ドメイン (ホルモン結合部位)
      膜貫通ドメイン
      細胞質ドメイン(Gタンパク結合部位)
  2)Gタンパク:  グアノシン3リン酸(GTP)結合タンパク
      GTPによりリン酸化されると構造を変化し活性化する膜タンパク
      αβγの3つのサブユニットの複合体
  3)レセプターの細胞外ドメインにホルモンが結合
    細胞質ドメインの構造変化
    Gタンパクと結合
    リン酸化
    βγとGTP-αが解離
    GTP-αが膜の他の酵素を活性化
    セカンドメッセンジャーを生成

10-6 Gタンパク型レセプターは2種類の2nd messengers を生成する
   1) サイクリックAMP
      cyclic adonosine monophospahte (cAMP)
   2) イノシトール3リン酸
       inositol triphosphates (IP3)
  GTP-αが細胞膜のアデニル酸環状化酵素(adenylate cyclase)を活性化
  ATPをcAMPに変換
  細胞質に遊離
    ⇒ 細胞質の cAMP依存性kinase (A kinase)を活性化し情報が伝わる
  GTP-αが細胞膜の phospholipase C を活性化
  膜の脂質から イノシトール3リン酸(IP3)を生成
  細胞質に遊離
  IP3は細胞質に存在するCaイオン貯蔵部位に結合(小胞体?)
  Caイオンを細胞質に遊離
    ⇒ Caイオン依存性 kinase
      (Ca-Calmodulin dependent kinase; CaM kinase)
を活性化し、情報が伝わる

10-7 Kinase 型膜レセプター:細胞増殖因子・成長因子の受容体  
  1)膜1回貫通型のタンパクで共通構造
    N端---細胞外ドメイン(因子と結合する部位)
    中央---膜貫通ドメイン
    C端---酵素活性ドメイン
     (特定の標的タンパクのチロシンのCOOH基を
      ATPのリン酸基に置き換える---リン酸化)
  2)細胞増殖因子 (FGF, EGF)
    インスリン
    神経成長因子 (NGF, BDNF, ニューロトロフィン)

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11. 細胞内の物質輸送
細胞内の適切な部位への仕分け (Sorting)
行く先指定の輸送機構  (Trafficking)
いかにして神経繊維の先端まで輸送されるか
(軸索輸送: Axonal transport)

11-1 細胞内輸送の種類
1) タンパクの輸送
    リボソームで合成(細胞質)
       ⇒細胞内で機能するもの
           ・細胞質
           ・核
           ・ミトコンドリア/葉緑体
           ・ペルオキシソーム
       ⇒膜や細胞外に分泌されるもの
           ・小胞体
           ・ゴルジ装置
           ・ライソソーム
           ・細胞膜/細胞表層系
         ・分泌タンパク(細胞外基質、ホルモン、酵素、、、)
 2) 細胞小器官などの輸送
    ・細胞分裂中期の染色体移動(紡錘糸=微小管)
    ・小胞輸送 (小胞体−ゴルジ装置−細胞膜)
    ・膜系小器官(ミトコンドリア、分泌小胞、ライソソーム、、、)

11-2 タンパクの仕分けは種々のシグナルペプチドによって制御される
 1) シグナルペプチド: 小胞体膜を貫通するシグナル
 2)ミトコンドリア・シグナルペプチド
 3)ペルオキシソーム・シグナルペプチド
 4)核移行シグナル: 核膜孔を通過するシグナル
 1-3はいずれも脂質2重層からなる疎水性の膜を貫通するための
 アミノ末端側に数個から数10個のアミノ酸からなる疎水性配列をもつ。
 膜を貫通し内腔に入ると、シグナルペプチドが解離する。
 膜タンパクはシグナルペプチドの後方(カルボキシル基側)に
 停止シグナルペプチドがあり、膜にとどまる。
 核移行シグナルは、4-8個のアミノ酸からなり、位置に規則性がない。
 

11-3 紡錘糸:染色体の輸送
 1)細胞分裂前期: 中心体が複製され両極に移動し星状体になる
  (中心体は微小管による細胞骨格の中心で、−端が付着し、+端が伸張する)
 2)細胞分裂中期: 星状体からは2種類の微小管が伸びる
     (1) 極微小管 polar microtubule (星状体どうしを遠ざける)
(2) 動原体微小管 kinetocore microtubule (染色体と結合し移動させる)
 3)分裂後期:
     (1) 2個の星状体からのびる極微小管どうしは中央部(+端)で
       お互いに反対方向にすべる (+端にむかうモータータンパク)
     (2) 動原体微小管が短縮し、染色体が移動する
       (−端、すなわち星状体にむかうモータータンパク)
        

11-4 軸索輸送
 神経細胞は数10cmにおよぶ細長い突起をのばし、情報を効果器に伝える。
 突起の構成要素、細胞小器官、伝達物質や調節因子、酵素など
 種々のものが先端まで輸送される。
 1)軸索輸送は方向性と速さが異なる
   (1)順行性 (anterograde) と逆行性 (reterograde)
細胞体から先端へむかう
      先端から細胞体へむかう
   (2)早い輸送  数10cm/日  
      遅い輸送  数 mm/日
2)早い輸送は微小管にそって移動するモータータンパクによる。
   (キネシンkinesin とダイニン dynein)
モータータンパクは種類によって特定の小器官と結合し、
   微小管に沿ってATPのエネルギーのより移動する。
   方向は微小管の極性(+と−)を認識して決まる。
   通常、細胞の中心部側に−端、遠位部側が+端。
     キネシン: +端に向かうモーター
     ダイニン: −端に向かうモーター
 3)遅い軸索輸送により、細胞骨格タンパクなどが移動する。

11-5 小胞の輸送と開口放出
 1) 輸送小胞
   小胞体から生成されたタンパクをゴルジ装置におくる。 
   ゴルジ装置の形成面から成熟面に層板間を輸送する。
   ともに細胞質側に膜が膨らんで、小胞としてとびだす。
   細胞質側に飲み込みのためのしるし、クラスリンというタンパクが付着する。
 2) 分泌小胞
   ゴルジ装置で形成された分泌物(酵素、ホルモン、細胞外基質)を蓄積した小胞
    構成的分泌: 刺激応答性がなく、生成されたものから分泌される。
    調節的分泌: 適当な刺激に応じて、分泌がおこる。
               細胞内のCaイオンの増加によって始まる。
 3) 開口放出 
   小胞膜と細胞膜が融合し、内容物が細胞外に放出される
 4) 膜の回収 
   開口放出がおこると、ただちに細胞膜の回収、すなわち飲みこみが始まる。
   その機構は、飲み込みのしるしであるクラスリンの付着、細胞質側への陥入、
   飲みこみとつづくもので、輸送小胞と共通である。

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12. ニューロンとグリア
 (神経系を構成する細胞)

12-1 ニューロンとは?
 神経機能をはたす単位。
 (刺激を受容し、情報を統合し、新たな興奮を効果器に伝える)
 1)ニューロンの基本構造
    細胞体と2種類の突起(樹状突起、軸索)
     cell body (perikaryon) dendrite axon  
2) ニューロンの種類
   (1)単極性 Unipolar
   (2)双極性 Bipolar
   (3)偽単極性 Pseudouniplar
   (4)多極性 Multipolar
 3)樹状突起の構造と機能
 4)細胞体の構造と機能
 5)軸索の構造と機能
 6)神経終末とシナプスの構造と機能
 7)神経伝達物質・神経調節因子および受容体
 

12-2 グリアとは?
  ニューロンを栄養的、機械的に支持する細胞
 1)脊椎動物のグリアの種類
   中枢神経系: アストロサイト
             オリゴデンドロサイト
             ミクログリア
            上衣細胞 
末梢神経系: サテライトセル(外套細胞)
             シュワンセル
2)血液−脳関門 (Blood brain barrier)
3)有髄繊維、無髄繊維
 

12-3 神経系の発生
 1) 脊椎動物では
   神経管と神経稜 (中空か、塊か)
   neural tube neural crest
 2) 無脊椎動物では

12-4 神経の再生とは

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13. 筋細胞 muscle cell
 (収縮運動のために特殊化した細胞、筋組織を構成する)

13-1 筋細胞の種類
 筋細胞は収縮運動のために、細胞質内に特殊化した細胞骨格(筋原繊維)をもつ。
(1) 筋原繊維のパターンによって、筋細胞が分類される。
 平滑筋細胞  smooth muscle cell
  細胞質の筋原繊維の配列に、光学顕微鏡でみえるような規則性がない
   細胞質は「一様になめらかにみえる」
 横紋筋細胞  striated muscle cell
筋原繊維の規則的配列により、細胞質に明暗(光を屈折させる)の模様がある
 (*斜紋筋細胞 obliquely striated muscle cell  無脊椎動物に多くみられる)
(2) 動きの性質による分類
 随意筋:   骨格筋(横紋筋)
 不随意筋: 心筋 (横紋筋)
         平滑筋
(3) 筋の構成
  筋組織(筋細胞)
  結合組織(筋細胞の周囲を埋めたり、骨に結合する)
  血管
  神経組織(運動神経、感覚神経)
 

13-2 平滑筋細胞  smooth muscle cell
脊椎動物では内臓の筋組織を構成する
   消化管:食道(上部は横紋筋)、胃、小腸、大腸)
   血管(中膜)、瞳孔、立毛筋、子宮、膀胱
 細長い紡錘形  直径約5μm 長さ 20-200μm
 楕円形の核
 細胞表面にタコツボ状の凹み(カベオラ caveolla)
平滑筋細胞どうしはギャップ結合で連絡(興奮の伝達)
 神経繊維は直接、接していない
  (自律神経繊維が離れたところから非シナプス的に支配)
 特殊な平滑筋細胞---腎臓の糸球体傍細胞
               (血圧上昇因子 renin を分泌)

13-3 心筋細胞 cardiac muscle cell
心臓の筋
 横紋筋
 竹の節のように、多数の細胞が結合:介在板
              (デスモソーム、ギャップ結合)
 細胞内の構造は骨格筋とほぼ同じ
 神経繊維の直接の支配はない
 *刺激伝導系: 心臓の心房や心室は一定の順序で動く
    ペースメーカーは右心房の特殊な網目状の心筋組織(洞房結節)
    そこから伸びるプルキニェ繊維やヒス束(特殊な心筋の束)により
    興奮が順序正しく、心房-心室におくられる
    心臓の動きは、心筋細胞自身の自発的な収縮リズムが基本
 交感神経や副腎髄質からでるノルアドレナリン・アドレナリンによって亢進
 副交感神経によって抑制
    

13-4 横紋筋細胞 striated muscle cell
脊椎動物では 骨格筋細胞 skeletal muscle cell)
 骨を動かす、顔の表情をつくる(皮筋)、舌筋、食道の上部
(1) 多くの細胞が融合してできた多核細胞
 胎児期に筋芽細胞が集合して融合する
 直径 20-100μm 長さ 数cmから10cm
 肉眼で見える大きさ 「筋繊維」と呼ばれることもある
(2) 細胞内に規則的な横紋
 暗  A帯 (anisotropisch: 副屈折性)
 明  I 帯 (isotoroisch: 屈折性)
    Z盤 (zweischenscheibe : 介在)
(3) 収縮のための構造 (3つ組)
  細胞膜の管状の陥入 (T管)---脱分極を細胞内部まで伝える
  滑面小胞体(L系)---Caイオンの貯蔵部位、T管の両側に並ぶ
(4) 神経支配: 運動終板 motor endplateによる直接支配
  骨格筋細胞は1本1本、すべて神経終末がシナプスを形成する
  特徴: 前シナプスに多数のシナプス小胞(アセチルコリン)
       シナプス間隙に基底膜(basal lamina) が介在
       後シナプスはひだ状の凹凸、多数のアセチルコリン受容体が局在
(5) 収縮機構 (すべり説 sliding theory)
 _ 神経繊維の興奮が運動終板まで到達
    電位依存性のCaイオンチャネルが開き、前シナプス内にCaイオンが流入
 _ シナプス小胞が前シナプスの膜と融合、アセチルコリンが放出
 _ 後シナプスの受容体に結合、筋細胞膜が脱分極
 _ T管により、筋細胞内部に脱分極が伝播
 _ L系(小胞体)からCaイオンが放出
 _ ミオシン頭部とアクチン繊維が結合
 _ ATPのエネルギーでミオシン頭部の構造変化
   アクチン繊維の隙間にすべりこむ       
 
* 心筋細胞の収縮機構は基本的におなじ
* 平滑筋細胞の収縮機構はまだ不明な点が残っている
   細胞膜や細胞内部のところどころにアクチン繊維の付着部位(dense body)
短いミオシン繊維がアクチン繊維の間をつないですべるのではないか?

13-5 筋の発生
* 筋組織は中胚葉性
  骨格筋     --- 体節 somite
心筋 平滑筋 --- 側板 lateral plate  
* 骨格筋細胞や心筋細胞は、おとなでは新たにできない。(増殖しない)
 平滑筋細胞は増殖することがある。

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