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背景
高分子材料は、金属・ガラス・セラミックス材料に比べれば歴史は浅い反面、近年になって高分子そのものの改良や高分子と無機物などのハイブリッド化の技術も進み大発展を続けています。自動車関連はもちろんのこと、宇宙・航空機、家電、コンピューター、携帯電話、衣料、医療、土木建築材料、包装材料などハイテク製品から日用品に至るまで高分子関連材料の無い生活は考えられません。今後、高分子関連材料にかかる期待はますます大きくなっていくでしょう。
近年、高分子鎖の一次構造(化学構造、立体構造、分子量と分布、末端基、ブロック・グラフト、シーケンスなど)の制御が飛躍的に発展しています。このような高分子鎖自体の制御が高分子材料の様々な物性(例えば、力学物性、電気特性、熱的性質など)と直結してれば話は簡単なのですが、現実には必ずしもそうとも言えないのです。この理由は、高分子材料内に相分離構造、結晶・球晶構造、非晶構造などの高次構造が存在し、これらの不均一構造が諸物性に大きな影響を与えるからです。この不均一構造の存在と(後述する)階層性こそが、単なる構成成分の足し合わせでは説明できない(つまり“1+1=2”ではなく“1+1≧2”となるような)特異な物性を(時として)生む原因であり、だからこそ、高分子材料は興味深く奥が深いとも言えます。このことを言い換えると、不均一構造を精密に制御できれば、あるいは、不均一構造と諸物性との関係が分かっていれば、現在のものよりもずっと高機能・高性能な新しい高分子機能材料を作り出す事も夢ではありません。
しかし、現実に目を向けてみると、世間で一流と言われる企業の最先端材料開発においてさえ、「作っては物性を評価し、また、作っては…」の繰り返し、つまり、試行錯誤による経験的なアプローチが未だに主流を占めているようです。これは、上で述べた「不均一構造と諸物性との相関関係」が明らかではないためと考えています。高分子材料設計におけるこのような“ジレンマ”は、古典的な高分子ブレンド材料(何種類かの高分子を“ブレンドした”比較的シンプルな材料)だけではなく、無機物や金属を高分子に分散させた“有機/無機(金属)ナノハイブリッド”材料、固体高分子形燃料電池など、高分子関連の最先端材料においても等しく見られる傾向と言えます。
このような材料設計における明確な指針の欠如は、材料の物性を測定することが比較的容易であるのに対して、不均一構造を正確に評価・解析することが困難であることに原因があると思われます。つまり、材料開発には材料評価技術の基盤技術の先鋭化は欠かせないということです。これまで不均一構造の観察・解析のために様々な手法が提案されてきており、大きな成果を挙げています。しかし、例えば材料内の不均一構造を目で“観る”ことを可能とする顕微鏡法においてすら、つい最近まで本来3次元である構造を2次元投影像としてしか観察できかったことなど、評価・観察法として制約が多かったことも事実です。本研究室では、不均一構造は本来3次元構造であるから、これらを“3次元のまま”実像で観察するのが一番手っ取り早い、という立場を取ってきました。高分子材料の不均一構造では、小さな構造要素が相互作用によりさらに大きな構造体を作る(すなわち、階層的な構造を作る)ことが多いので、このような階層的材料の開発にはナノメートルからミリメートルまでの広範な空間スケールでシームレスに3次元観察・解析を可能とする最新の顕微鏡法(ここでは総称して“3次元イメージング法”としましょう)の開発が必要です。このことが、本研究室でにおいて世界に先駆けて3次元イメージング法の開発を精力的に進めてきた理由であり、その先駆的な成果は、ドイツ顕微鏡学会国際賞「Ernst-Ruska-Prize 2007」の日本人初めての受賞(2007年)、「第6回産学官連携功労者表彰文部科学大臣賞」の受賞(2008年)など、国内外で広く認知されるところとなっています。
| 「Ernst-Ruska-Prize」は、「電子顕微鏡の基礎研究と開発の業績」で1986年ノーベル物理学賞を受けたエルンスト・ルスカ博士の名を冠しドイツ顕微鏡学会から授与される国際賞です。電子顕微鏡分野で顕著な業績をあげた若手研究者に与えられます。1981年以降 2007年までの受賞者は20人で、日本人で初めての受賞となります。 |
私たちの研究の目的は、あくまでも高機能な高分子複合材料の開発であり、そのための基礎的・科学的知見の探求(つまり、不均一構造と諸物性の相関関係の解明)が最終的なゴールです。この目的を達成するため、次に挙げるような観点で、材料の構造解析から物性評価までを一貫して行うことで、様々な高分子関連材料に対する設計指針を提案することを目指しています。
(1)
複雑な材料の開発のためにも、高分子ブレンド系やブロック共重合体といった最も基本的な実験系における自発的な構造形成(難しい言葉で“自己秩序化過程”と言います)の基礎を知る事が必要であり、これらの自己秩序化過程・構造について分子論まで立ち返った基礎的・学術的な研究を欠かすことはできません。本研究室の“背骨”は、このような基礎研究であり、これまでの基礎的な研究で得られた業績に対して「高分子学会Wiley賞」(2006年)が授与されています。
(2) 最近の高分子材料のトレンドは、金属や無機物などでできた“ナノ粒子”を含む(文字通り)ハイブリッド材料です。ですから、これらナノ粒子の分散制御、特に高分子が自己秩序化で形成するナノ構造の内部での分散制御法の確立などが、次世代高機能材料の設計に必須となります。“ソフトな”高分子と“ハードな”無機物(金属)のナノスケールでのコラボにより、これまでの常識を覆すような材料を創製することができるかも知れません。
(3) 化石燃料の枯渇やCO2問題に代表される環境問題が懸念される昨今、燃料電池、太陽電池やリチウム電池などの代替エネルギー源の開発が世界的に急務とされてます。しかし、これらの代替エネルギー源は(太陽電池を除いて)なかなか実用化の目処がたっていません。これは、現在の電池が劣化しやすいこと、また、触媒として高価な白金を多量に含むためにコストがかかること、などが主要な原因です。本研究室では、国家の援助を受けて、最先端の電子顕微鏡技術を電池電極に応用することで、電極劣化の原因解明や低白金化技術の構築などを精力的に進めています。
(4) 上記のような基礎・応用研究を行うにあたり、評価技術である実験法も高度にならざるを得ません。研究目的にあわせて、顕微鏡会社やソフト会社などと密にタイアップすることで、常に先端の評価法の開発に努めています。
これらの研究を進めるにあたって、国内外の企業・大学・研究所と密接に連携・協力しています。
本研究室で取り扱っている個別テーマの詳細については下記をご覧ください。
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種類のことなる複数の高分子を混合した"高分子ブレンド"は、高分子複合材料の最もシンプルかつ基礎となる系でと言えます。この実験系における不均一構造の形成過程や3次元構造を理解することは、高分子ブレンドが様々な工業製品に使われていることから極めて重要と言えます。2種類以上の高分子を混合すると、相互の高分子間に働く斥力のため、複数の"相(ドメイン)"に分離します(相分離現象)。身近な例としては、水と油をシャッフルして混ぜて放っておくとそのうちに油相と水相に分かれますね。複数の金属を混ぜ合わせた金属合金でも、長い時間をかければ、やはり相分離が起こることが知られています。つまり、高分子ブレンド、金属合金、低分子混合系で見られる相分離現象は、非常に荒っぽい見方をすれば、大きさや相分離に要する時間が異なるだけなのです。高分子ブレンド系の相分離は、"大きな構造がゆっくりと相分離する"という特徴があるため、精密な実験を行うには非常に都合が良く、相分離のモデル系として貴重です。相分離のメカニズムとしてはいくつか異なった様式が知られていますが、ここでは、それらのうちでスピノーダル分解(Spinodal Decomposition, SD)の名で知られるものについて述べましょう。
2成分高分子ブレンド系のSDでは、2つの異なる相が独立なネットワークを作り、互いに入り組んだ構造を形成して、粗大化していくことが理論的・実験的に知られています。詳細は省きますが、SD 後期過程では2つの相の濃度は(相図で示される)平衡組成に達しており、両相が接する境界面である界面の面積を小さくすることが相分離構造成長の駆動力となります。つまり「界面の形態とその変化」こそが相分離ダイナミクスの本質と言えます。本研究室では、この高分子混合系におけるSD後期過程の"界面の動き"に着目し、共焦点レーザースキャン顕微鏡、X線CTなどの装置を用いて、3次元的な観察と解析を行ってきました(図1)。
図1. 高分子ブレンドの共連続相分離構造の3次元観察結果。時間の経過とともに、2つの相が形成する相分離構造が粗大化していく様子が明らかです。
H. Jinnai et al, Langmuir, 16 4380-4392 (2000). |
この相分離構造の形態変化を詳細に観察すると、SDの進行に伴い、相(ドメイン)が成長し全体として構造スケールが大きくなっていく一方で、時間とともに細くなりやがて切断される柱状のドメインが存在していることがわかりました(図2中の円で囲んだ部分)。
図2. 時間の経過に伴う相分離構造の変化。構造全体としては粗大化しているものの、円で囲った部分のように、柱状部分の中央が細り、やがて切れて、二つの向かい
合ったコーン状の形を形成することがわかりました。
H. Saito et al.
J. Phys.: Conf. Ser., 184, 012029. |
このような界面の運動メカニズムを明らかにするため、界面曲率を用いて界面の形態を特徴づけました。曲率とは、ある曲面上の任意の注目点P において、法線を含む平面で切った切断面で与えられる曲線の曲率半径(=接円の半径)により定義されます(図3)。注目点における曲率の最大値と最小値の平均を平均曲率H と呼びます。
図3. 任意の点Pにおける接円と曲率半径。任意の点において接円は無数に存在しますが、そのうち、最大・最小の半径(r1, r2)を持つものを選び、逆数としたのが主曲率です。 |
界面上の各点において、この平均曲率Hを計算すると、相分離構造の粗大化に伴い太って成長していく部分は正の平均曲率を持ち、細くなりやがて消えていく部分は負の平均曲率を持っていることがわかりました(図4)。平均曲率は、ラプラスの式
ΔP = 2σH により、界面圧力差ΔP、界面張力σと関係づけることができます。SD後期過程において、界面張力は一定と見なすことができるので、ある柱状部分において平均曲率が正の時、界面圧力差ΔP>0となります。この時、柱状部分の圧力は外側の圧力より高く、界面は柱を太らせる向きに動きます。逆に平均曲率が負の時、柱状部分の圧力は外側の圧力より小さく、界面は柱を細らせる向きに動きます。
図4. 時間の経過とともに、変化していく柱状部分の界面構造を取り出し、平均曲率をマッピングすると(a) 細くなる柱状部分では負の値を、 (b)成長していく柱状部分では正の値を持つことがわかりました。平均曲率は、ラプラスの式から界面圧力差と関係づけられていますので、界面の構造の解析から、界面の動きを予測することができると言えます。
H. Saito et al. J. Phys.: Conf. Ser., 184, 012029. |
界面の平均曲率を計算することによって、ラプラスの式に基づいて、界面圧力差を見積もり界面運動を定性的に予測することが可能となりました。すでに述べたように高分子のブレンディングは工業的に最も良く用いられる材料設計手段です。このような精密な形態解析により得られる結果と材料の力学特性との相関を明らかにすべく研究をすすめています。
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ブロック共重合体は、前項で述べた高分子ブレンド系の異種高分子を共有結合で結合した分子です(図5を参照のこと)。この系でも異種の高分子鎖間に働く斥力により相分離が起こります。しかし、種類の異なる高分子が"強制的に手をつながされている"ために、相分離構造の大きさはブロック共重合体の大きさ程度に限られてしまいます。この点が前出の高分子ブレンド系と決定的に異なる点です。従って、ブロック共重合体の相分離構造はナノメートルスケールになります(この相分離構造を"ミクロ相分離構造"と呼ぶこともあります)。異種高分子の長さの分子内での比率を変えると、(図5)に示すように、様々な形態のミクロ相分離構造が現れることが分かっています。これらのナノ構造は分子の形態を反映した周期性の高い規則的な構造です。すなわち、高分子の分子形態が構造に直接反映されることになり、これがブロック共重合体の構造研究の面白さとも言えます。

| 図5.ブロック共重合体が自発的に凝集して作る種々のナノスケール構造。2つの相が層状に重なったLamellae、ネットワークを形成するGyroid、穴のあいた層状構造が重なったPerforated Layers、片方の相ががシリンダーとなって六方格子状にパッキングされたCylinders、片方の相が球を形成して立方格子に最密充填されたSpheresなど、様々な構造が知られています。 |
さて、図5のナノ構造の中で(今ではGyroid構造の名で知られるようになった)ネットワーク構造は多くの研究者の注目を集めましたが、その形態が極めて複雑であるために、構造の同定に非常な困難が伴いました(1990年代の話です)。本研究室でも、この構造に特に注目し、この形態を明らかにするために"電子線トモグラフィー法(Transmission Electron Microtomography, TEMT)"の開発を精力的に行いました。図6に示すのは、AB型ブロック共重合体が形成するGyroid構造をTEMTにより世界で初めて3次元可視化した実験結果です。A相とB相の間の境界面(界面)の幾何学的形態を解析することでネットワーク相の内部に含まれる高分子鎖の"窮屈さ具合"(パッキングフラストレーションとも言います)を定量化しました。具体的には、高分子ブレンド系のところでも使った"界面曲率"の測定を行ったのですが、この研究はTEMTにより得られた画像を、ただの美しい"絵"というだけでなく、(ナノ構造の中に含まれる)分子の形態と結びつけることに成功したという点で、ブロック共重合体研究のマイルストーンの一つと考えています。さらに、位相幾何学を使うとネットワーク構造の複雑さを"Genus(種数)"という概念を使って表現することができます(ここでは詳細については省きます)。

図6. ABA型ブロック共重合体の作るGyroid構造のTEMT観察結果。長く、このネットワーク構造の持つ"分岐"の数が3であるか4であるか、という議論がされてきましたが、3次元画像に基づいた"種数"の計算により、Gyroid構造が分岐数3を持つことを始めて明らかにしました。
H. Jinnai et. al., Phys. Rev. Lett. 84, 518-521 (2000). |
最近は、ABC型のトリブロック共重合体において、C成分から成るマトリクス中に、A成分シリンダーが六方格子状に配列し、B成分がAシリンダーのまわりに2本のらせんを巻くような興味深いナノ構造も発見しました(図7)。このらせん相のピッチや本数を精密に制御することが可能であることが分かってきました。このように今まで"見えなかった"複雑な3次元康応がTEMTにより次々と明らかになり、これに伴ってブロック共重合体の自己秩序化の物理的理解が急激に進みつつあります。今後、TEMTという新しい評価法を得たことでブロック共重合体の自己秩序化の物理がなお一層明らかになっていくことが期待されます。

図7. ABC型のトリブロック共重合体の3次元観察結果。右巻きのらせんと左巻きのらせんが隣り合って存在している様子が観察されました。A成分の割合を増加させると、Aシリンダーの直径Dが増加し、らせんのピッチdが減少することを明らかにしました。
H. Jinnai et. al., Soft Matter 5, 2042-2046 (2009). |
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近年、ナノスケールの炭素化合物、無機物質や金属などの"フィラー"を高分子中に分散させた"ナノコンポジット"
材料が注目を集めています。身近な例としては、ゴム中に炭素系ナノ粒子である直径20nm程度のカーボンブラック(CB)を分散させた材料があります。このナノコンポジットがタイヤのトレッドゴムとして使われていることは広く知られた事実でしょう。CBの他にもシリカナノ粒子やクレイ(無機層状化合物)などが代表的なフィラーです。上の例において、CBはゴムの力学的補強材として用いられますが、シリカナノ粒子は、タイヤ用途に用いると雨天時のグリップを著しく向上させることが分かっています。また、少量のクレイを高分子中に分散させると、補強効果と同時に気体密閉性を著しく高めることができます。このような様々な材料物性は、種類の異なる高分子をブレンドしただけ(高分子ブレンド系)ではなかなか得られるものではありません。高分子の強度・導電性・気体透過性・屈折率などを向上させるためにはナノコンポジット化は必須の技術と言えます。
話を再びCB/ゴム系に戻すと、CBのゴム中での分散状態がトレッドゴムの力学物性とどのように結びつくのか理解することが、より高性能のタイヤ開発のカギと言えます。そこで本研究室では、ナノ粒子のゴムマトリクス中での3次元配置をTEMTにより実測し、この3次元情報を有限要素法(計算機内で材料の力学特性を四ミューレートする方法の一つ)に入力することで、充てん系ゴムの力学特性をこれまでよりも極めて高い精度で予測する手法を企業と共同開発しました(図8)。
図8. ナノ粒子/高分子ナノコンポジット材料における(i)TEMT3次元データを基に要素法で計算した応力(青)と(ii)実サンプルの応力(赤)のひずみ依存性(左)。
K. Akutagawa et al., Rubber Chem. Tech., 81,182-189 (2008). |
この手法で得られた予測精度の飛躍的な向上は、今まで2次元の電子顕微鏡像から適当に"予想した"ナノ粒子の3次元配置を有限要素法の入力データとして用いてきたことを改め、精度の高い3次元実験情報を使うことにしたからで、3次元的に正確なイメージングができるようになったことにより得られたブレークスルーと言えます。今後は、この例のような「実験データに基づいた理論(計算機)実験による物性予測」が、新しい潮流として発展することが期待されます。
また、これまで、ナノ粒子の分散制御は、高分子中にナノ粒子を単に"練り込む"ことにより行われてきましたが、今後はブロック共重合体のナノ相分離構造を"ひな形"としてナノ粒子をより規則的に配列させる試みも盛んになると考えられます。本研究室では、ナノ粒子のらせん配向制御などにも取り組んでいます。
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燃料電池(Fuel Cell)は、水素と酸素の化学反応を利用して電気エネルギーを生み出す装置です。水素と酸素を供給し、電解質を仲介に して化学反応を起こさせることで電気を発生させます(図9)。酸素は空気中に含まれており、副生産物として水しか発生しないことから、クリーンで高効率の発電装置として非常な注目を集めています。電解質の種類によって反応のプロセスが異なり、燃料電池もいくつかの種類にタイプ分けされています。本研究室では、固体高分子形燃料電池(PEFC)について、燃料電池の要となる電極触媒層の構造解析の劣化機構の解明・低白金化技術の構築に取り組んでいます。
| 図9. 固体高分子形燃料電池の原理。まずマイナス極に燃料として供給された水素は、触媒(主に白金)の作用によって水素イオン(H+)に変わって電子(e-)を放出します。電子はプラス極へと流れ、これが直流電流となります。水素イオンは電解質であるイオン交換膜を通過してプラス極で酸素イオンおよび電子と結合し、最終的に水へと変化します。 |
電極触媒層では、担持体であるカーボン・Pt触媒・電解質高分子の3成分が接触する"3相界面"において電気化学反応が起こるとされており、そのため、担持体表面に触媒が付着した図10(a)のようなタイプの電極が効率の良いと考えられてきました(し、これが電極触媒層の形態として常識的なものと考えられてきました)。しかし、種々の電極を電子線トモグラフィー法(Transmission Eletoron Microtomography, TEMT)により観察してみたところ、図10(b)の様にPt触媒が担持体内部に存在するものがあることが分かりました。しかも、予想に反して、図10(b)のようなタイプの触媒電極層の方が(Pt触媒が担持体の表面にのみ存在する図10(a)タイプの電極触媒層に比べて)電極としての性能にも優れ、劣化しにくいという傾向があるらしいことも分かりました。今後、電極の劣化の過程にともなう電極層の3次元観察を行うことで、電池の劣化メカニズムの解明を行ってゆきます。ここで得られる基礎的知見は、触媒として使われている白金(Pt)の有効利用につながり、燃料電池の低コスト化・実用化に大きく資すると期待されています。

図10.燃料電池の電極触媒層の3次元画像。
T. Ito et al., "Handbook of Fuel Cells-Advances in Electrocatalysis, Materials, Diagnostics andDurability", Edited by Wolf Vielstich, Hubert A. Gasteiger, HarumiYokokawa. Volume 5&6, Part4, 40: 2009 John Wiley & Sons, Ltd. (Mar.2009). |
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上述の通り、本研究室では、透過型電子顕微鏡法(TEM)と計算機トモグラフィ(CT)を組み合わせた電子線トモグラフィー法(Transmission Electron Microtomography, TEMT)を高分子材料に応用し、3次元的な観察・解析を行っています。
TEMTでは、TEM内で傾斜させながら多数の透過像を撮影し、CTを用いて3次元再構成を行います。TEMは高分子だけでなく、生物・医学・金属などの広範な分野で普遍的に使われるイメージング装置ですから、これをベースとするTEMTは幅広い学術領域で注目され、また、期待されてきました。一般的に、TEMTにおいては試料の傾斜角度に制限があり、この傾斜角度制限が3次元再構成画像にアーティファクトが発生させる原因となり、従って、得られる3次元像の定量性には問題がありました(CT法は±90度の試料傾斜を必要とします)。この問題は、TEMTの開発に関わる研究者の間では"常識"として広く認識されていましたが、有効な解決法が無く、TEMTの誕生以来およそ20年以上に渡って未解決のまま放置されてきたというのが実情です。本研究室では、(i) 試料をロッド状に加工する技術を開発し、(ii) 試料ホルダーに工夫を施しTEM内での±90度の回転を可能とする、という方法でこの問題を解決しました。
| 図11. 試料傾斜角度の制限を除くために作製されたrod状試料の(a)TEM像、および(b)TEMT再構成像。 これにより、試料傾斜角度を±90度にまで引き上げ、TEMTにおける完全なCT再構成を可能としました。
N. Kawase et al., Ultramicroscopy, 107, 8-15 (2007). |
図11(a)に示すのはロッド状に加工された ZrO2/高分子ナノコンポジット材料です(皆さんのPCの液晶パネルの表面に屈折率増加のために塗布されているナノコンポジット材料ということです)。図11(b)および図11(c)は、このナノコンポジット材料のロッド試料をTEM内で±90度に傾斜させ、181枚の傾斜像より再構成された3次元像です。この3次元像の断面を図12に示します。最大傾斜角度が小さくなるに従って、断面像が真の形状(α=90°)から変化していく様子が分かります。さらに、ZrO2の体積分率を計測すると、αの増加に従って図中の点線で示される真値に漸近していくことが分かります。つまり、TEMTにおいて試料の完全回転撮影を行うことで、 TEMTを初めて完全に定量的な3次元イメージング装置とすることに成功しました。これと同時に、TEMTの分解能を0.5 nm以上(世界でもトップレベル)に引き上げることにも成功しております。
図12.
試料の傾斜角度を変化させた場合のTEMT再構成像の変化。制限角度の減少とともに、断面像が真の形状(α=90°)から変化していく様子が分かります。
N. Kawase et al., Ultramicroscopy, 107, 8-15 (2007). |
TEMTに関連したもう一つの懸案は観測可能体積(つまり、観測可能な試料の厚み)です。一般に高分子材料の内部構造は階層的であり、材料の物性・機能はナノスケールの微細構造だけではなくメゾスケールの高次構造にも強く依存しています。しかし、加速電圧200kV程度の一般的なTEMTにより観察できる試料の厚みは300 nm程度が限界であり、メゾスケールの構造を3次元的に捕らえることができません(図13)。メゾスケールの構造の評価のためには最低でも1μm(可能であれば数μm)の厚みの試料を1nm程度の分解能で3次元観察する必要があるでしょう。
| 図13. (a) ABS樹脂内部構造の模式図。(b) 従来のTEMT法によるABS樹脂観察結果。観察可能な厚みが200nm程度と、試料に対して小さいため、内部構造の正確な評価が困難であることがわかります。 |
図14. 種々の構造評価法の"守備範囲"。 点線は、2次元観察を可能とする装置の守備範囲をあらわし、太線は、3次元観察を可能とする装置の守備範囲を示しています。100nmから1μmの範囲の3次元観察のための装置が存在しないことがわかります。
H. Jinnai et al., Macromolecules, in press (2010). |
そこで、本研究室では現有する加速電圧200 kVのTEMに新規の光学系を導入し、これまでのTEMTではおよそ不可能と考えられてきた500nm程度(試料によっては1μm)の厚みの試料の3次元可視化を可能としました(図15)。(なお、厚い試料の3次元観察のためには加速電圧の高い(例えば加速電圧1000 kVの)超高圧電子顕微鏡を用いることもできます。しかし、このような特殊な顕微鏡へのアクセスは限られていますし、研究室・研究室レベルで保有可能なTEMでミクロン厚の試料の3次元観察が可能となれば、高分子材料研究はさらに加速するでしょう。)
図15. ABS樹脂の"サラミ構造"のμmサイズの3次元像。
1μmの厚みを持つ試料の観察が可能となり、従来のTEMTでは不可能であったABS樹脂のサラミ構造の評価が可能となりました。
H. Jinnai et al., Macromolecules, in press (2010). |
世界的にもメゾスケールの3次元評価を目指して装置開発が進んでおり、高分子分野にとどまらず、医学・生物学分野にも大きな影響を及ぼす世界最先端の研究の一つと言えます。
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本研究室ではX線を線源とした高分解能X線CTの開発と、それを使った3次元構造観察も行っています。X線を線源とすることの大きな利点の一つは、可視光が透過しない不透明な材料(高分子材料の多くは不透明です)についても観察が可能な点です。
高分子材料を工業的に用いる際、まず問題となるのが力学強度です。実用化されている高分子材料の代表として、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics, FRP)があります。この材料は、ガラス繊維のように弾性率の高い材料との複合化により軽量で強度の高い材料とするものです。FRPの高性能化の基礎的知見を得るために、FRPの変形下における力学物性と内部構造(ガラス繊維の配向変化やボイドの発生など)の"同時測定"を行うべく、そのために必要な装置開発を行っています。
図16に示すのはX線CT装置に取り付けが可能な、小型引張り試験機です。この引張り試験機によって材料が「実際に使用されている条件下(応力下)」での3次元in-situ観察が可能となるのです。
| 図16. X線CT装着型引張り試験機。試料をChuckで固定し、Load cellで引張りを行います。その際、楔型支持具によって、一軸の引張りを保証します。 |
図16に示した引っぱり装置を用いてFRPの引張り過程をX線CTによって3次元観察した結果を図17に示しました。赤色の部分が繊維を、緑色の部分が応力によって発生したボイド(空隙)をあらわしています。このような3次元観察と解析に基づいて、ガラス繊維の配向によるボイドの発生と成長メカニズムの相違、歪みを与えることによるボイドの体積分率及び個数の変化等を応力ー歪み曲線と対比させながら考察し、一軸伸張におけるFRPの破壊挙動について研究を進めています。この他、X線CT装置により、高分子ブレンドの相分離過程(SD過程)の同視野観察なども行っており、SDにおける界面の運動の解明も行っています(→1. 高分子ブレンド。)

図17. 異なる歪みにおけるガラス繊維強化プラスチックの同視野3次元観察結果。(a) strain 30%、(b) strain 60 %。 |
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その他の主要な研究テーマ
本研究室では、以上に述べたような「種々の最新型顕微鏡による3次元可視化・構造の統計的な定量化」に加え、X線、中性子、光を用いた散乱測定や力学測定などを主要な実験手法として研究を行っています。
1. ブロック共重合体薄膜や高分子ブレンド薄膜の相転移と相分離の研究
2. 有機/無機コンポジット材料の研究
3. 3次元画像より新規の構造パラメータや新規の物理量を定量的に計測するためのアルゴリズムの開発
4. CTなどの3次元構築方法・ソフトウェアの開発と改良
5. 3次元構造データに基づくコンピュータシミュレーション
上に述べたような様々な研究を国内外の企業・大学・研究所と共同で行っています。
企業(国内)(順不同)
日本電子(株)
日本電子システムテクノロジー(株)
(株)ブリヂストン
住友ゴム(株)
キヤノン(株)
コムスキャンテクノ(株)
日立化成工業(株)
横浜ゴム(株)
花王(株)
(株)東レリサーチセンター
(株)日東分析センター
(株)クラレ
(株)デンソー
(株)三菱化学科学技術研究センター
(株)日鉄エレックス
住友化学(株)
日信工業(株)
東洋紡績(株)
日産自動車(株)
関西ペイント(株)
(株) がまかつ
大学・研究所(国内)
北海道大学
東北大学
長岡科学技術大学
東京工業大学
東京大学
神奈川大学
名古屋大学
京都大学
大阪府立大学
九州大学
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
(独)産業総合技術研究所
(財)化学技術戦略推進機構
企業(国外)
BASF AG (Germany)
大学・研究所(国外)
Deakin University (Australia)
中国科学院(Chinese Academy of Sciences, CAS) (China)
浦項工科大学校(Pohang University of Science and Technology) (Korea)
Seoul National University (Korea)
National Tsing Hua University (Taiwan)
Queen's University (Canada)
Massachusetts Institute of Technology (USA)
National Institute of Standards and Technology, NIST (USA)
North Carolina State University (USA)
Story Brook University (USA)
University of Massachusetts, Amherst (USA)
University of California, Santa Barbara (USA)
University of California, Barkley (USA)
GKSS Research Center (Germany)
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