Seeds
Physiology of development and germination (Bewley JD and Black M)

2. Seed development and maturation

2002年4月10日 担当:はんば

2.2.3 Translocation of assimilates into the developing seed

親植物から種子へのスクロース輸送は,維管束ではなく短距離輸送でおこなわれる
(fig 2.7,2.8).

穀物(コムギやオオムギ)への同化産物のながれ:溝(こう)の中の維管束→
珠柄・合点(珠皮と珠心の接点)領域→珠心→アリューロン層→内胚乳

溝から珠心まではシンプラスト経路,移行細胞ではアポプラスト経路,内胚乳へは
ふたたびシンプラスト経路

イネ:養分は果皮にうめこまれた維管束によって穀粒にはこばれる.

トウモロコシ:穀粒の基部にある,師部の末端(小柄)から同化産物がはこびだされ,
移行細胞を通じて穀粒にはこびこまれる.小柄にはインベルターゼがあり,スクロースはここで
いったんグルコースとフルクトースになり,内胚乳にはこびこまれた後ふたたびスクロースに
再合成される.

珠皮の師部にはこびこまれる炭素のおよそ85%がスクロース.窒素はアスパラギン酸やグルタミン酸の
形態をとることが多い.マメ科植物では,種子の発達とともに窒素の形態は変化する(Fig2.9).

発達中の種子へ同化産物が運び込まれるメカニズムには,ホルモン(例えばアブシジン酸)は
あまり関与していないと考えられる.種皮の浸透濃度が高いため,シンプラストの膨圧が
低く保たれ,葉からの物質輸送が受動的におこなわれている.

2.2.4 Environmental effects on seed development

水ストレス:花序発達のときなら穀粒数の減少,開花期なら花粉数の減少,受粉のあとの
細胞分裂期なら穀粒の大きさや蓄積された養分の量に影響を与える.

高温:30℃以上になると,コムギの穀粒が熟す期間が短くなり,穀粒の重量が減少する.

低温:油脂をとるための作物では,脂質の量と質が影響を受ける.

2.3 Deposition of reserves within storage tissues

2.3.1 Starch synthesis (Fig.2.11)

スターチはスクロースから合成される.合成がおこなわれる場所は,細胞質.
サイトソルでスクロースから合成されたフルクトース6リン酸が,膜のトランスロケータ
のはたらきによってオルガネラ(アミロプラスト)に運び込まれ,ここでアミロースや
アミロペクチンが合成される.

スターチ合成に関与している酵素の役割の研究は,変異体を用いることによって大きく
進展した(Table 2.1).有名なのは,メンデルによるエンドウマメのしわ型/まる型の研究.
しわ型ではアミロペクチンへの枝分かれをつくる酵素が少ないため,アミロペクチンが減少している
(Table 2.2,Fig.2.12A).

オオムギでは,スターチ合成はプロプラスチドではじまり,スターチは成熟にしたがって大きな顆粒と
なってアミロプラストを満たす.成熟した内胚乳には大きなアミロプラストと小さなアミロプラストが両方存在し,
細胞をすきまなくみたすのに役立っている(Fig.1.6A).

油脂をとる種子では,いったん合成されたスターチは分解されて,油脂の炭素骨格の
原料となるため,スターチの含有量は少ない.

2.3.2 Deposition of polymeric carbohydrates other than starch

細胞壁のヘミセルロースは,種子の乾重のうちかなりの割合を占める場合がある
(野生のエンドウでは40%).ヘミセルロースの合成は,スターチ合成が終了したあとも
続けられる.

ヘミセルロースの大部分はガラクトマンナンであり,スクロースを原料として内胚乳で合成される
(Fig.2.13).ガラクトマンナンは,異なる反応鎖で合成されるマンノースとガラクトースから
つくられる.そのため,マンノースとガラクトースのトランスフェラーゼは同時に増加する(Fig.2.14).

2.3.3. Triacylglycerol synthesis

トリアシルグリセロールは,脂肪・油脂・中性脂質などともよばれ,スクロースから合成される
( Fig.2.15).ハマナ(アブラナ科)の脂肪酸の組成変化は,種子での油脂蓄積の特徴をよく
あらわしている(Fig.2.17 ).発達の初期には酵素がないためにトリアシルグリセロールの蓄積は少なく,
時間と共にリノレン酸やオレイン酸が増加し,開花後およそ30日でトリアシルグリセロールの蓄積は
終了して合成のための酵素は分解する.

植物における脂肪酸の組成は大部分が遺伝的に決まっている.しかし,植物によっては,
低温では不飽和度が高くなることがあり(ヒマワリ),オレイン酸を
不飽和化する酵素の合成が増加していることが確かめられている.

環境要因が脂肪酸組成におよぼす影響については未解明な点が多く,現在,分子生物学的な手法を使って
研究がすすめられている.

細胞内の脂肪は,オイルボディーとよばれるオルガネラとして識別される.脂肪はまず
細網(reticulum)の2重になった膜の間に蓄積してゆき,蓄積した脂肪はやがてオイルボディーと
なって細網からはなれる(Fig.2.18).オイルボディーの膜には,オレオシンというユニークな
タンパク(Fig.2.19)が存在し,膜の安定性を保つ・負のチャージを保つ(オイルボディーどうしの癒着を防ぐ)・
発芽後のトリアシルグリセロール可動化に関与するリパーゼの結合部位を提供する,などの
重要な役割を担っている.

2.3.4 Storage protein synthesis

内胚乳タンパクの組成は開花後の日数と共に変化する(オオムギ:Fig.2.20).
最終的に内胚乳に蓄積されるタンパクの種類は,植物の種によって特徴がある( Table 1.5).

2.3.4.1 Cereals

穀類では,不溶性の貯蔵タンパクであるプロラミンは,細網と結合したポリソームで合成される(Fig.2.21).
合成されたタンパクは疎水性なので,ルーメン側に出ると小さな粒子となる.この粒子はたがいに抱合して
プロテインボディーを形成する.

タンパクの膜通過メカニズム:貯蔵タンパクのメッセンジャーRNAが翻訳されることにより,シグナルとなる
ペプチドがリポソームと細網の膜の間に結合するため,タンパクが膜を通過できるようになる(Fig.2.22).

2.3.4.2 Dicots

プロテインボディー形成のメカニズムは,穀類とはかなり異なる( Fig.2.23).エンドウの子葉では,
はじめは大きかった液胞が開花後15日には小さく分裂し,20日後には細胞は貯蔵タンパクで満たされる.

2.3.4.3 Modification to cynthesized storage proteins, their sorting and targeting to protein bodies

貯蔵タンパクの前駆物質や,タンパク合成の過程には大きな種間差がある(Fig.2.26).
内胚乳の細網で合成されたタンパクは,ゴルジ体にはこばれ,小胞となってゴルジ体からはなれて液胞に
はこばれてプロテインボディーを形成する(Fig.2.27).タンパクが液胞に結合するためには,シグナルとなる
ペプチドが必要(Fig.2.28).

2.3.4.4. Seed mRNA content and storage protein synthesis

DNAとRNAは開花後の日数と共に増加(Fig.2.29.).蓄積されたタンパクの量は,mRNAの量と
安定性によって決定される.

2.3.5 Regulation of storage protein synthesis

種子の遺伝子発現研究に用いられるスキーム(Fig.2.31)によると,遺伝子調節に
ついては以下のことが分かっている.

1.ある植物種の貯蔵タンパク遺伝子は,ほかの種に導入することができ,正常に発現する.
2.いくつかのタンパク(プロラミンやレグミンなど)については,遺伝子の5'上流領域には,
同じような保護領域(調節やホルモン感受性に関与する)が認められる.
3.5'上流領域には,コード領域の翻訳を調節するエンハンサーとしてはたらくシークエンスが含まれる
4.5'上流領域に結合している核タンパクは,コード領域の翻訳を調節している.
5.貯蔵タンパク遺伝子の発現にはホルモンが関与している.

タンパクの蓄積には,アブシジン酸が関与している.ABAを培地に添加すると,単離した胚でも
タンパク合成や発達が行われ続ける.ABAは,遺伝子の翻訳調節に関わっている.

2.4. Hormones in the developing seed

2.4.1 Composition and location

発達している種子のオーキシンはおもにインドール酢酸(Table 2.7).親植物からではなく,
種子の中で合成される.はじめは内胚乳,のちには胚にみいだされる(Fig.2.37).

種子には,ジベレリンが豊富に含まれる.ジベレリンはさまざまな形態に活発に相互変換されるため,
種子には他種類のジベレリンが存在する.

種子にはゼアチンなどのサイトカイニンが存在する.どこで合成されるのかはよく分かっていない.
サイトカイニンは種子の発達と共に顕著に増加する(Fig.2.39 ).

ABAは種子のさまざまな部位(内胚乳,胚など)に存在し,他のホルモンと同様に,種子の
発達とともに増加する( Fig.2.40).

2.4.2 Possible roles of seed hormones

1)種子の成長
ジベレリンは,胚の発達を調節している.ジベレリンがないミュータントでは,
種子の発育が停止する( Fig. 2.41).サイトカイニンは,細胞分裂も促進している
と考えられる.
ABAには,穂発芽を防止する役割があり,ABAのレベルが高いと発芽は抑制される(Fig.2.42).
しかし,種子の発芽には,ABAだけではなく,浸透濃度も同じように重要な役割を果たしている.

2)貯蔵物質蓄積
内胚乳のサイトカイニンには,同化産物を内胚乳まで移動させる役割がある.インゲンやエンドウの場合,
ABAはタンパク合成を促進する.

3)種子以外の組織の成長・発達
ジベレリンによって組織の離脱が防止される.逆にABAは落果を促進する.

4)発芽に必要な物質の蓄積
インドール酢酸は発芽の過程には関係しないが,実生の発達にはかかわっている可能性がある.

5)果実発達に関係する組織に対する生理的な役割
イチゴの場合,オーキシンによって果肉の発達が促進される.