Seeds
Physiology of development and germination (Bewley JD and Black M)

1. Seeds: germination, structure, and composition

2002年2月12日 担当:はんば

1.4 Seed structure

被子植物の種子:
胚,内胚乳,外胚乳,果皮(種皮)から成っている.

裸子植物の種子:
内胚乳はつくられない.

種子の中には無性的なプロセスで形成されるものも(わずかであるが)ある.

1.4.1 Embryo

胚:胚の軸と子葉からなる.この軸には幼根,幼根がついている胚軸,本葉の茎の先端
(幼芽)が含まれている( Fig.1.3,7.1).胚の形態や種子全体に占める割合には,種間差
がある.

内胚乳が発達する種では,胚に養分をたくわえる必要がないため,胚の割合は小さい(ヒマ).
内胚乳が発達しない種(マメ科植物)では,胚(子葉)に養分が蓄えられるため,胚が種子の大部分を占める.
寄生植物の種子には子葉がないことが多い.
かんきつ類やオプンティアの中には,胚が複数含まれる種子をつくるものがある.
親植物から離れた段階では,胚がまだ未熟である場合もある(ランなど).

1.4.2 Nonembryonic strage tissues

ほとんどの種子は,種子が成熟するとともに外胚乳は小さくなってゆき,
養分をたくわえる役割ははたさないことが多い(例外はコーヒーとユッカ).

種子は,内胚乳が発達する種と,発達しない種とに分けることができる.

内胚乳があまり発達しない種:インゲン,ピーナツ,レタスなど.養分は子葉に蓄えられる.
内胚乳が発達する種:穀物,ヒマ,マメ科植物(コロハ,イナゴマメ,アメリカサイカチなど).

内胚乳の細胞の大半は養分を供給するはたらきをしており,生きてはいない.
内胚乳の外側の部分は生きており,酵素を供給する.
内胚乳に水分が蓄えられているときには,胚が発達するときの水分供給と,発芽時の
水分調節という2つの役割を担っていると考えられる.

1.4.3 seed coat (testa)

種皮は,植物種や属による変異が大きく,種の分類に利用されてきた.

種皮の役割は,外界から胚を保護すること.そのため,種皮にはワックスと脂肪で
満たされた2層のクチクラと,細胞壁が厚い保護細胞とがある.
昆虫による被食を防ぐため,種皮にシュウ酸カルシウムなどの結晶が含まれている場合もある.
マメ科植物は,非透水性の種皮をもつことによって内部の組織を保護している.

種皮には,親植物からはなれた部分に粒心hilumとよばれるしるしがつく.
粒心のそとがわには種阜strophioleとよばれる小突起ができることがある.
また,仮種皮arilをもつ場合,動物を誘引するような化学物質が含まれていることがある(ナツメグ).

1.5 Seed strage reserves

人類の食料の70%は直接種子から得られている.また,それ以外の食料(動物)も,種子によって
養われている.したがって,古来から,種子の化学組成については膨大な研究がなされている.

種子には,実生の成長をまかなうために,養分として,炭水化物や脂肪,タンパク質が
蓄えられている(Table 1.2).
中には,毒性の物質(アルカロイドなど)を含むものもある.

種子の部位によって,蓄えられている物質の化学組成は異なる(Table 1.3).

1.5.1 Carbohydrates

食料として生産されている種子の大部分は,養分として炭水化物をもっとも多く蓄えている(Table 1.2).

1)スターチ
アミロースあるいはアミロペクチンの形態で種子の中に存在する(Fig.1.5).アミロースは300−400分子の
グルコースが直鎖状に結合したポリマーであるのに対し,アミロペクチンは100〜1000倍も
大きく,多数の枝分かれをもつ分子である.スターチは,アミロペクチンが50-75%,アミロースが20-25%
を占めるスターチ粒となって細胞内に蓄積する(Fig.1.6).

スターチ粒の形状には,種間差がある.アミロースの割合が高くなるほど,スターチ粒は丸くなる(オオムギ).
大きさは種内でも大きな変動がある.

2)ヘミセルロース
内胚乳が発達するマメ科植物の中には,スターチがなくヘミセルロースを蓄積している種がある.
ヘミセルロースは厚い細胞壁として存在しているため(ナツメヤシやコーヒー),胚乳はきわめて硬い.

ヘミセルロースの大部分はマンナン(糖をわずかに含むマンノースの直鎖状ポリマー)である.
ガラクトマンナン(コーヒー),グルコマンナン(ユリ属),キシログルカンなど

3)糖
量は多くないが,スクロースやオリゴ糖も胚などに蓄えられており,これらの糖は,発芽や実生の
初期成長の際の呼吸基質として重要であることが分かってきている.

1.5.2 Fats and oils (neutrial lipids)

化学的には,種子に含まれる油脂は,トリアシルグリセロールである.水には不溶であるが,有機溶媒には
溶ける.グリセロールと脂肪酸のエステルである.

種子の油脂に含まれる脂肪酸は,飽和脂肪酸(炭素間の二重結合がない;パルチミン酸)の場合も
あるが,大部分は,不飽和脂肪酸であるオレイン酸やリノール酸などである(Table 1.4).
植物脂肪がすぐれている点は,不飽和であるリノール酸が多く,動脈硬化がおこりにくくなるといわれている
こと.

油脂は,細胞内のオルガネラ(オイルボディー)として存在する.植物によっては,細胞内の
かなりの割合を占める( Fig.1.6B).

1.5.3 Proteins

オズボーンの分類によると,植物のタンパク質は,溶解度によって4種に分類される.
1)アルブミン:水に可溶で,中性のバッファに溶ける
2)グロブリン:塩溶液に溶けるが水には不溶
3)グルテリン:希薄な酸性あるいはアルカリ性溶液に溶ける
4)プロラミン:水溶性アルコールに溶ける

食料という観点からは,タンパクに含まれるアミノ酸の量と種類が重要である.

<穀物>
主な穀物のタンパク含量(Table 1.5).タンパクの種類によって,アミノ酸の種類と
量が異なる.リシンを増加させた変異体(オオムギとトウモロコシ)では,プロラミンが減少して
グルテリンが増加する(Table 1.6,2.6).

穀物のプロラミンとグルテリンの種類には,進化が関係している.コムギとオオムギのプロラミンには,
イオウが多いタイプ,イオウが少ないタイプ,分子量が大きいタイプの3種がある(Fig.1.7A).
共通の祖先から進化する過程で,領域A,B,Cの間に繰り返し配列が挿入され,その頻度や入り方によって
異なるタンパクとなったと考えられる.
タンパクをコードしている遺伝子の数はプロラミンの種類によって大きく変わる.

<マメ科植物>
蓄積されたタンパク質の大部分はグロブリン(種子窒素の70%).超遠心にかけたときの
層によって,11Sと7Sに分けられる.それぞれのタンパク組成はFig. 1.8 とTable 1.8に示されている.
アルファルファの11Sはおよそ360kDaであり,6つのサブユニットからなる(Fig.1.9).
遺伝子の相同性から,グロブリンは2つの祖先( viciilinとlegumin)から進化してきたと考えられる.

<その他のタンパク質>
栄養学的には好ましくないタンパク質も,植物には含まれている.
ナタマメに含まれ,酵素阻害剤としてはたらくタンパク質(レクチン)は,消化管の癒着を引き起こす.
ブラックチェリーには,シアン化合物を分解する酵素が含まれており,植食動物による被食からの防御を
行っている.インゲンマメに含まれるグリコプロテイン(arcelin)や,a-アミラーゼ阻害剤なども,
防御物質として機能する.

タンパク質は,一層の膜に囲まれたプロテインボディーとなり,膜のオルガネラとして存在する(Fig.1.10).
オオムギでは,プロテインボディーは,炭水化物と一体となったタンパク質ー炭水化物ボディーとして存在
している.プロテインボディーには,フィチンの分解を行うgloboidが含まれていることがある.
プロテインボディーには,さまざまな酵素が含まれている.
1つのプロテインボディーの中には,1種類のタンパク質(例えばアルブミン)しか含まれていないことが
多い.

1.5.4 Phytin

フィチンは,カリウム・カルシウム・マグネシウムのリン酸塩で,存在量は前述した物質より少ないが,リン酸や
無機栄養素の供給源として重要である(Table 1.9).フィチンは,プロテインボディーのgloboidの中に
存在する.フィチンは無機栄養素と結合しやすく,無機栄養の吸収を妨げるため,栄養学的には望ましくない物質と考えられている.

1.5.5 Other constituents

非タンパク性の窒素化合物であるある種のアルカロイドは,興奮剤や薬物として,商業的に
重要な意味を持っている.
カフェイン(コーヒー・カカオ),ストリキニーネ(Strychmos nux-vomica),モルヒネ(ポピー).
種皮に含まれるクマリン酸やクロロゲン酸,カフェイン酸などは,発芽の阻害剤としてはたらく.
アブシジン酸は発芽阻害剤であり,ジベレリンやサイトカイニン,オーキシンは,発芽を促進する.