The Physiology of Plants under Stress (E. T. Nilsen & D. M. Orcott)

7. Water Dynamics in Plants

IV. Hydrodynamics of the Plant System

1999年3月2日 担当:はんば

A. Soil-Plant-Air Continuum
植物の水力学(hydrodynamics )では、植物系をとおって土壌から大気まで移動する水をあらゆる面から考察する。水は、木部を通って土壌溶液(soil solution)から大気まで、連続した柱(column)となって移動する(Fig. 7.4)。植物の維管束組織(vascular tissue)中の水の柱は、水分子の凝集性(cohesive)や粘着性(adhesive)によって保持される。

B. Root Accumulation of Water
●植物によってあつめられる水の大半は、土壌溶液から根系(root system)へ移動する。他の吸収方法をもつ場合もあるが、それは極端な気候条件下で生育する種に限られる:
地表で生育するアマナスTillandsia:必要な水の大半を霧から葉のクチクラを通して集める
ある種の潅木shrub:ほぼ飽和した大気中から水を集めるのに浸透メカニズムを使う

●水は、根毛(root hair)や、細根(fine toot)から吸収されるが、コルク化した根(suberized root )から水の大部分が吸収される場合もある。根の細胞は土壌溶液より水ポテンシャルが負なので、水は根の細胞へ拡散する。従って、土壌溶液の水ポテンシャルを減少させる要因(高い水のマトリックポテンシャル、高い土壌塩類濃度salinity、土壌溶液の凍結)はすべて、根への水の移動を阻害する要因となる。

●根の表皮細胞(epidermal cell)から中心柱(stele)への水の移動には、3つの経路がある(Fig. 7.5b):
1)アポプラスト(apoplast)を通る経路
皮層細胞(cortical cell) の細胞壁を通る。もっとも抵抗が小さく、主要な経路と考えられる。アポプラストを通った水は、疎水性の内皮層(suberin layer:カスパリー線casparian lineとよばれる)のところで、進路を曲げられ、シンプラストへ入る。
2)シンプラスト(symplast)を通る経路
細胞から細胞へ、サイトソル(細胞質の媒質)を介して通る。アポプラスト経路より抵抗が大きい(原形質膜plasma membranなどを通るため)。
3)液胞(vacuole)を通る経路
表皮細胞の液胞から液胞へ、原形質連絡(plasmodesmata)を介して通る

表皮が裂けている、古いコルク化した根では、水は、アポプラストを通らないで直接シンプラストに入って中心柱まで移動する(Fig. 7.5a)。

C. Alternatives to the Soil-Plant-Air Continuum Model
●土壌-植物-大気連続体モデル(SPAC)は、維管束植物の水の移動に関する一般的なモデルである(図 )。しかし、SPACモデルとは合致しない結果も得られている:例えば、SPACモデルは木部(zylem)の頂部と基部の間の張力の差(負の静水圧)に依存しているが、実際に圧力センサーで測定しても、樹木の頂部と基部の間では張力の差がない。

●水の移動に関しては、4つのプロセスが関係する:
1)木部の圧力勾配(SPAC)
2)毛細管現象capillary forces
3)浸透osmotic
4)マランゴニ対流
植物の木部での水の流れには、これらの4つのプロセスがいくつか組み合わされていると考えられる。

●毛細管現象では、十分な量の水を持ち上げることができない。道管要素vessel elementの細胞壁によって形成される微細毛管microcapillaryは、水を100m持ち上げることができるが、流量が非常に小さいので、蒸散で失われる水を十分におぎなうことができない。しかし、微細毛管の水によって、極端な渇水のために含水量が低くなったり、空洞が生じたりした道管要素に再び水を満たすことは可能。

●溶質soluteの濃度も、植物の水の流れに重要な影響を与える。木部液zylem fluidは伝統的には稀薄溶液であると考えられていた。しかし、浸透圧によって水が移動するためには、道管要素それぞれの中で、軸方向axialの浸透圧の勾配が保たれていなければならない。そのためには、道管要素には軸方向の溶質の障壁barrierがなくてはならないが、そのような障壁は実際に、ごく数種の植物で特定されている。

●木部の水の移動には、道管要素の構造と水の間の界面interfaceにはたらく力も影響する。蒸散流が大きいと、道管要素の内壁には小さな気泡が付着する(Jamin's chainとよばれる)。もし内壁が気泡で覆われてしまうと、マランゴニ対流Marangoni convectionによって、水の流れとは逆の方向の管腔流lumen fluid flowが発生する。

D. Hydraulic Conductance

●水がいったん木部組織に入ると、葉の表面と根の間の水ポテンシャルの勾配によって水柱に張力(負の圧力)が生じ、上に述べたプロセスの組み合わせによって水は木部道管xylem conduitを上昇する。ある特別な状況の下(例えば気孔が閉じており、土壌溶液の水ポテンシャルが高い、つまり溶質の濃度が薄い場合)では、根の組織では浸透ポテンシャルが低い(つまり、溶質の濃度が濃い)ため、土壌から根への水の移動が起こり、正の根圧 root pressureが生じる。

●根、茎、葉の維管束系を通る間には、様々な水に対する抵抗がある。管の中の水の流れと抵抗の関係は、Wiedermanが補正したHagen-Poiseuilleの関係によって推定される:



管の中の水の体積流は、管の内径(r)と、水の粘性(n) viscosityと、管の両端の圧力勾配(-dP/dx)によって決まる。つまり、木部の水の体積流量は、木部の半径が大きいほど、また木部道管の水ポテンシャルの差が大きいほど、大きくなる。根や、茎や、葉での移送組織の断面積は異なっているが、水の全流量はほとんど同じである。

●木部断面の水力学的なコンダクタンスKは、水ポテンシャルの勾配DYに対する、流速Jの比で定義される:



流速が大きいほど、また水ポテンシャルの勾配が小さいほど、水力学的コンダクタンスは大きくなる(つまり、水は流れやすくなる)。木部での水に対する抵抗は、維管束系の断面の直径、おのおのの仮道管trachiedや道管要素の直径、塞栓embolismや木部細胞同士の相互連絡の性質に依存する。

●土壌中の水の体積流量は、土壌の水力学的コンダクタンスKsoilと、水ポテンシャルの差DYsoilによって、次のようにあらわされる:



土壌の水力学的コンダクタンスは、木部道管の要素よりも低い(土壌間隙interstitial soil spacesは木部と違って円柱状ではないため)。一般的には、根の水に対する抵抗は、植物全体の抵抗の50〜70%であると推算されている。

E. Capacitance

●維管束系のそれぞれの組織には、貯蔵された水と木部を通って移動する水との間の関係を調節する、キャパシタンスがある。キャパシタンスが大きい組織ほど、水ポテンシャルが変化したときに供給できる水の量が多い。通常、高いキャパシタンスをもつ植物は、水の大部分を、大部分が柔組織parenchymaで占められる組織のシンプラストに蓄えている。

●ある組織での水ポテンシャルの時間変化dY/dtは、キャパシンタンスCと抵抗Rによって次のようにあらわされる:


幹のキャパシタンスが大きい、多汁succulentの樹木は、キャパシタンスが小さい植物と比べて、蒸散が始まってから水ポテンシャルが減少するまでの間の時間の遅れが大きい。

F. Cavitation

●木部の水ポテンシャルが特に低くなると、木部流の中に小さな気泡が生じ、その気泡は大きくなると、木部道管の水の流れを遮断する(Fig. 7.6)。これをキャビテーションという。実際に、夏の間は、枝の蒸散面積の最大50%までが、塞栓embolismによって遮断されている。仮道管では、道管よりもキャビテーションが起こりにくい(道管では塞栓がせん孔板perforation plateを通じて道管全体に波及するが、仮道管では塞栓は隣の仮道管に波及しにくいため:図 )。従って、塞栓が生じると、水は、道管要素よりも仮道管を通って流れるようになり、水の流れに対する抵抗は増加する(仮道管の方が断面の直径が小さいため)。

●キャビテーションが生じる要因
水ストレスによって生じるキャビテーションは、air seeding mechanismによって起こる。道管要素の張力が大きいほど、壁孔pitから空気を吸い込みやすくなり、吸い込まれた空気は水の凝集性を変化させて、塞栓となる。道管要素の断面の直径は、キャビテーションの起こり易さとは関係がない。

●キャビテーションは、低温によっても生じる(温度が低いと、木部流でのO2やN2などの溶解度が下がるので、溶けきれなくなったガスが気泡となる)。気泡が大きくなる臨界の張力は、表面張力sと、気泡の半径rできまる:




このようにして生じるキャビテーションは、直径の大きい道管で起こりやすい(大きな気泡が生じるため)。

G. Transpiration

●土壌から大気への水の移動の最後のステップ:葉肉細胞の細胞壁から、気孔下の小室、気孔腔stomatal aperture、境界層boundary layerを通って葉の上方の乱流大気turbulent airへの移動(Fig. 7.7)。

●細胞間隙での抵抗
での水の拡散は、細胞壁から気孔の基部までの直線距離に依存する:



細胞間隙が大きいほど、細胞間隙での水の拡散抵抗は大きくなる。

●気孔での抵抗
気孔での水の拡散抵抗は、孔辺細胞guard cellの深度、気孔の上の飽和大気のドームの半径及び気孔の数に依存する:



通常、気孔の数は葉面1cm2当たり4000〜10000個。葉の片面にしか気孔がない場合hypostomatous、下面にだけ分布することが多いが、まれに上面にだけ分布することもある。気孔が葉の両面にある場合もあるamphistomatous。気孔の開き方は、葉の部分によって異なり、パッチ状になる。気孔抵抗には、形態学的な要因(孔辺細胞の深度、飽和大気のドーム半径、気孔の数、配置、パッチネス)と、生理学的な要因(気孔の開度とパッチネス)が関係する。

●境界層boundary layerの抵抗
飽和大気の表面から境界層の端までの拡散。拡散する直線距離に依存する。境界層の厚さは、卓越風prevailing windの方向の葉の長さlと、風速に依存する:



風速が10m/s以上ならば、普通の大きさの葉では、境界層の厚さはほとんどゼロになる。式7.14は近似式であり、葉の様々な形態(切れ込みsplitや突出部lobeing、突出様構造trichomesなど)によって変わる。

●表皮細胞の大部分は厚い疎水性のクチクラcuticleで覆われており、水に対する大きな抵抗となっている。従って、水蒸気の蒸散は大半が気孔を通しておこなわれる。しかし、気孔がほとんど閉じていたり、葉に裂け目や損傷がある場合には、クチクラ蒸散がかなりの割合になることがある。二酸化硫黄やオゾンのような汚染物質によってクチクラ層が薄くなると、クチクラ層の抵抗は減少する。

●最近では、葉から大気への水蒸気の拡散について、抵抗resistanceではなく、コンダクタンス(抵抗の逆数reciprocal)が使われる。