The Physiology of Plants under Stress (E. T. Nilsen & D. M. Orcott)

4. Phytohormone and Plant Response to Stress

1999年12月27日 担当:はんば

III Nutrient stress and phytohormones

ホルモンと養分とは相互作用がある:養分の不足や過剰によってホルモンの濃度が変わる、CKsやIAAは、養分の蓄積や転流に影響。
養分の不足や過剰が直接植物の成長に影響するのか、それとも養分の不足はホルモンを介して植物に影響するのか?

A. Nutrients and Indoleacetic Acid Levels
窒素はIAAの主要な構成成分→窒素不足はIAAの生産に影響する(IAAの全駆体はトリプトファンというアミノ酸と考えられるから)。

☆NH4+
オーキシン耐性のあるアラビドプシスのミュータントの研究によると、NH4+は、IAAやCKsの合成、輸送やシグナル伝達を阻害するため、ホルモンが根に蓄積され、根の成長が阻害される。オーキシン耐性のあるミュータントはNH4+耐性も高い。

☆尿素
マンゴーの葉に尿素を添加すると、オーキシンに似た物質は増加する種と影響がない種がある。成長調節物質とともに尿素を添加すると、オーキシンのレベルは低下する(Table 4.13)。

☆ホウ素
欠乏するとIAAレベルに影響。その影響がどのようなものなのかについては矛盾した結果が得られている。
・IAAの減少
・IAAが最適なレベル以上に増加し、ホウ素欠乏の症状が悪化
・トウモロコシやひまわりでは、IAAオキシダーゼの活性が低下
・根の成長が低下した後、カボチャではIAAオキシダーゼ活性が増加(Fig. 4.12)
・IAAを添加すると、ホウ素欠乏と似た症状が出る→ホウ素欠乏によって最適なレベルを超えた量のIAAが根端に蓄積し、成長を阻害し、IAAオキシダーゼの活性に影響

☆ホウ素欠乏の症状とホウ素の役割
ひまわりの_ェでは、ホ_E素が欠乏すると、根の伸長阻害、軸方向から放射方向へ細胞の伸長方向の変化(オーキシン処理の場合と同じ症状)。細胞壁が厚くなったり、膜がダメージを受けたりする(オーキシン処理では出ない症状)。→ホウ素は、膜の透過性やIAA輸送タンパクに影響するため、IAAを輸送するために不可欠。

☆マンガン
欠乏すると、ワタの若い葉ではIAAオキシダーゼ活性が増加、成長が低下して葉が落ちる(オーキシン不足のときと同じ症状、Fig 4.13.)。クマリン酸もIAAオキシダーゼ活性を上昇させる(Fig. 4.14)。

☆カルシウム
オーキシンの軸方向の輸送に影響。カルシウムが欠乏するとオーキシンの輸送が阻害されるが、メカニズムはわかっていない(Fig. 4.15)。

☆亜鉛
IAA合成に必要なので、不足すると、果樹の葉が小さくなる病気が発生する。亜鉛が不足するとIAA合成が50%低下(インゲン)するが、IAAの前駆体は増加。
亜鉛が不足するとABAは減少
亜鉛が不足してもサイトカイニンは影響を受けない

B. Nutrients and Cytokinin Levels
窒素が不足するとサイトカイニンの量や根から葉へ転流される量が減る。カリウムやリン、カルシウムもサイトカイニンの生産に影響。

☆窒素不足
ヒマワリの葉、芽、根、根の滲出液のサイトカイニンレベルが減少。硝酸態の窒素を与えたほうが、アンモニア態の窒素を与えた場合よりもサイトカイニンが多くなる(Table 4.14)。リンやカリウムが不足してもサイトカイニンは減少するが、減少の程度は窒素不足のときほどではない(Table 4.15)。

☆養分不足とサイトカイニン
Plantago major ssp. pleiosperma(セイヨウオオバコ)で窒素、リン、カルシウムが減少すると、ゼアチン(サイトカイニンの一種)や、ゼアチンリボシドが減少。カリウム不足の影響は少ない(Table 4.16)。→養分不足が成長に影響するのは、サイトカイニンのレベルが減少するから。
duckweedでは、低レベルの窒素やリンでサイトカイニンのレベルが低下し、その後成長が低下する(Fig. 4.17)
モロコシでは、老化がおきない栽培変種は、老化が起こる栽培変種よりもサイトカイニンのレベルが高い。また窒素不足や弱光下での根からのサイトカイニン転流も大きい。

☆バイオマスの分配とサイトカイニン
イラクサの一種では、窒素が不足すると、サイトカイニンのレベルは根で25%減少、地上部では減少しない。地上部/地下部はサイトカイニンのレベルと直線的な相関→バイオマス分配にサイトカイニンが関与

☆サイトカイニンの影響の種間差
カンバ:窒素やリンが減るとサイトカイニンが減り、成長が遅くなる
シカモア:サイトカイニンは変わらないのに頂部の芽が休眠して成長が止る

C. Nutrients and Gibberellin Levels
情報が少ない。窒素不足でトマトから抽出されたジベレリンは減少。Solanum sisymbrifoiumでは、カリウム不足でジベレリンは減少。

☆高いマンガンレベル
イソプレノイドの生合成に関与する酵素が阻害される→ジベレリンはイソプレノイドを経由して合成されるので、マンガンはジベレリンに関与するかもしれない

☆菌Gibberella fujikuroi
ジベレリンの原料として商業的に重要。尿素や硫酸マンガンのレベルが高いほどジベレリンをよく合成する。アンモニウムやグルタミンではジベレリン合成が阻害される

D. Nutrients and Abscisic Acid Levels
☆ケール(キャベツの仲間)での実験
潅水や窒素による施肥(硝酸アンモニウムを土壌に混ぜる)がアブシジン酸やその共役化合物、代謝産物の生産に与える影響を調べ、ストレス耐性との関係をみる(TABLE 4.17)
窒素施肥:遊離した酸(アブシジン酸、ファゼイン酸、デヒドロファゼイン酸)が多少増加
乾燥土壌:遊離した酸や共役した酸が増加する傾向
アブシジン酸の代謝産物は、ストレス耐性の指標としてはあまり有効でない。もし耐乾性の指標として使うなら、窒素栄養も考慮する必要あり

☆ポプラの雑種のクローン(Tristis 、Eugenei)で、乾燥_竰X水、窒素レベルの相互作用を調べる(Table 4.18)
窒素施肥をした場合、コントロールと乾燥土壌では、ABA濃度は増加するが湛水条件では逆に減少する→湛水条件下での光合成や気孔コンダクタンスの減少には、ABAは直接関与していない

☆窒素施肥がABA輸送に与える影響(Ricinus communis:ヒマ(トウゴマ)ひまし油の原料)Fig. 4.18、4.19
硝酸:葉のABAだけ少し増加、木部液のABAは減少
硝酸と塩ストレス:木部液のABAは大きく増加
アンモニウム:葉と根のABAが大きく増加、木部液のABAも大きく増加
アンモニウムと塩ストレス:葉や葉柄・茎のABAは増加するが、根のABAは減少
篩部液のABA濃度は木部液よりもずっと高いが、硝酸態の窒素に対してはあまり敏感に反応しない。アンモニアに対しては敏感に反応
→硝酸が欠乏しても、ABA輸送にはあまり影響はない。硝酸態の窒素施肥では、穏やかな塩ストレスでABA輸送は増加するが、アンモニア態の窒素施肥では増加しない。ABAは窒素欠乏のストレスシグナルとはならない

☆亜鉛欠乏
マメでは、亜鉛欠乏によりインドール酢酸とABAが50% 減少するが、サイトカイニンは変化しない(Fig. 4.16)。ABAが減少するのは、篩部への輸送が減少する/IAA との相互作用が原因

☆水ストレスとリン、ABA
リン濃度が低いと、水ストレスのときのABAの増加や気孔コンダクタンスの減少がはやい(FIg. 4.20)。また、サイトカイニンが減少する→リンによって、気孔のABAに対する感受性や、ABAのクロロプラストへの分配が制御されている。気孔の開閉は、リン、ABA、サイトカイニンの相互作用によって制御

☆カリウム
カリウムが欠乏すると、穀粒のサイズが小さくなり、ABAの生産がよりはやくおこなわれる(Fig. 4.21、4.22)。カリウムが多いと、ABAの量が減り、より長期間ABAがつくられるため、穀粒が熟すのに時間がかかるようになる。このABAは穀粒で合成される

☆鉄とABA
鉄は、ABAに関わる遺伝子RABのmRNAを誘導。外部からのABAは、フェレチン(鉄を蓄えるタンパク)のmRNA生産を誘導する→フェレチンの生合成はABA増加に関与する経路で行われる

E. Nutrients and Ethylene Levels
☆トマト:マグネシウム、カルシウム、カリウムが不足すると、エチレンは増加(Table 4.19)。窒素源がアンモニウムの場合、硝酸の場合よりもエチレンが多く発生。
アンモニウム耐性のあるトマトの変種は、硝酸で育てた場合と同程度のエチレンしか発生しない。この変種では、カリウムを加えるとエチレンが増加。

☆ストレス下の植物は、タンパクをアンモニウムに分解する。蓄積したアンモニウムがエチレン増加を促進

☆窒素とリン
トウモロコシの不定根:窒素やリンが減少すると、エチレンが増加(Fig. 4.23)。湛水条件や低酸素条件下で、通気組織が形成されることが関係している
窒素・リン欠乏のエチレン生成に対する効果は、エチレンの前駆体ACC(1-アミノシクロプロパン-1-カルボキシル酸)やマロニルACCレベルと平行しておこる

☆鉄
エチレン阻害剤を使ったキュウリでの実験→エチレンにより鉄の還元力が減少、頂端下部の根の突起部がなくなる→鉄欠乏の症状

☆銅
 0.5〜1mM濃度で、タバコや水生植物Spirodea oligorrhizaでのエチレン合成が誘導される

☆カルシウム
カルシウム濃度が高い花は、エチレン生成が50%から95%減少する。しかし、カリウムを加えると、カルシウムの病気を防止する効果が相殺される(陽イオンの吸収の競合のため)

☆土壌から発生するエチレン
土壌からは非常に高い濃度のエチレンが発生することがあり、植物に大きな影響を与える。グルコースやメチオニンで土壌改良をしたり、土壌が酸性だと、エチレンが増加。微量元素の二価のコバルトや三価の砒素は、100mg kg-1でエチレンが増加する