The Physiology of Plants under Stress (E. T. Nilsen & D. M. Orcott)

2. Phytohormone and Plant Responce to Stress

2000年1月11日 担当:はんば

VII Temperature streress and phytohormones

A. Temperature and Indoleacetic Acid Levels
IAAはエチレンの生成を促進する。エチレンに対する温度の効果は、収穫後の生理学の分野で大変多くの文献がだされているにもかかわらず、IAAに対する温度の効果についてはほとんど知られていない

(1)高温
IAAは減少する場合が多い。IAA処理をすると高温による障害が緩和されることがある

★トマトの栽培品種での、芽や花や果実のIAAとGAに対する温度効果(5h 38℃)
温度処理後8hまでは減少、その後回復するが、72h後でもコントロールよりも低い(Fig. 4.50)
IAAを外部から与えると高温ストレスがかかっても果実が減りにくくなる

★組織培養されたタバコでの、CKとIAAに対する温度効果(Table 4.31)
温度上昇とともに、CK とIAAが減少

(2)低温
IAAは減少する。

★IAAオキシダーゼ
遊離したIAAの量を調節:IAAオキシダーゼが多いほどIAAの量は少なくなる。低温では、コムギ(2℃)やキュウリの実生(5℃)でのIAAオキシダーゼが増加
GA処理をするとIAAオキシダーゼ活性が上昇(コムギの種子、Fig. 4.51)、またGA合成阻害剤AMO-1618を加えると、冷温処理したコムギ実生のIAAオキシダーゼ活性が減少→GAはIAAオキシダーゼ活性を調節している

B. Temperature and Cytokinin Levels
高温ではCKは減少。CK処理をすると高温による変化が失われることがある。低温の場合、CKはコムギのハードニング解除に関与

★根頭がん腫病の奇形腫でのCKに対する温度効果(Table 4.32)
高温でCKは減少、形態的な変化(茎の伸長や頂芽優性*など)がおこる。外部からCKを加えるとこの変化は起こらない

★黄化している/緑色のトウモロコシ実生でのCKに対する高温の影響
黄化:ZRは変化なし、glu-ZRは生成されない。光合成、クロロフィル蓄積、クロロプラストの発達が高温で阻害される。光合成が低いのは、クロロプラストの発達がわるいため
緑色:ZRはみられず、glu-ZRは高温で6倍減少。光合成、クロロフィル蓄積が高温で阻害される。光合成やクロロフィル蓄積が高温で低くなるのはCKが減少するから

★トウモロコシ穀粒でのCKに対する高温の影響(35℃)
4日または8日間でゼアチンがゼロになる。4日間の処理ではゼアチンリボシドはコントロール(25℃)よりも低下、8日間の処理では、受粉後のゼアチンリボシドの量が検知レベル以下。逆に茎にベンジルアデニンを注入すると、熱による発育停止がなくなる→熱ストレスがトウモロコシ穀粒の発達を妨げる場合、ホルモンバランスが重要。サイトカイニンは穀粒のシンクとしてのポテンシャルや熱平衡に中心的な役割をはたす

★リンゴの地下部と地上部の温度とサイトカイニン
5℃→10℃または20℃の処理
CKは増加、のちに30日間にわたって減少。地上部が20℃のとき、CKのレベルは低く、発芽ははやくなる

★冬コムギのハードニング**
野外でハードニングがおこる冬の始めにはABA増加、CK減少。冬の半ばから終わりには逆になる。グローズチャンバの実験ではハードニングによってABAは増加、CK減少(Table 4.33)→サイトカイニンはハードニングの解除に関与

C. Temperature and Giberellin Levels
発芽や開花には、光と低温が必要→GAは発芽や開花に関与しているので、温度はGA合成に影響しているはずだが、そのメカニズムはほとんどわかっていない瓱Aは、存在する部位によって働きが異なる

★低温とGA(茎の頂部)
茎の伸長と開花に低温を要求するグンバイナズナは、茎の頂部でent-カウレン(ジベレリンの前駆物質)の代謝率が高く、GAが多い。春化処理(低温処理)をすると茎の頂部でent-カウレンが大きく減少→茎の頂部では、ent-カウレンのGAへの変化は低温によって制御されており、特別な機能(茎の伸長作用など)をもつ

★低温とGA(葉)
通常の温度ではGA処理をするとトマトの花数が減少。低温ではGAが減少するので、花数は逆に増加する。ユーカリでも、芽の数とGA濃度は負の相関。ただし、GAだけが開花に関与するわけではない

★低温とGA(種子)
アラビドプシスのGA非感受性ミュータントgaiは、冷温で発芽率が増加するがGAは減る。光の下で発芽したgaiは野生タイプに比べてGA濃度が高いが、発芽率はずっと低い→光と冷温の相互作用が腮A濃度ではなくGAへの感受性に影響し、発芽率に関与

D. Temperature and Abscisic Acid Levels
ABAと温度ストレスの関係はよく調べられている。高温や低温でABAは増加、また温度ストレスに対する耐性にもABAは関与している

1. High Temperature Stress
★トマトの実生:低温と高温(10/5℃、45/35℃)でABA増加。温度ストレスの強さがABAレベルを決める。
ブドウ:熱耐性が高い種の方がABAレベルが高い。24時間のABA処理で熱耐性が上がりうる
★光合成・成長とABA
温度ストレスの下では、ABAレベルが高いと光合成や収量は減少。
始めは5℃、次に25℃で18時間馴化させた冬コムギ:25℃で測定すると、ABAは光合成速度の時間変化と負の相関(Fig. 4.52)。ABAと高温処理をすると光合成と気孔コンダクタンスが急速に減少→ABAは低温で育ったコムギの葉の光合成温度馴化を制御している
高温・水ストレス下では、ABA感受性の低いコムギのクローンの方が成長期間が長く収量も多い

★休眠
種子が休眠しているとき、ABAレベルが高い。5℃でストラティフィケーション(休眠打破のための低温処理)をするとABA減少。その後30℃でインキュベートするとABAはさらに減少する

2. Low Temperature Stress
低温は乾燥ストレスを伴うので、低温だけの影響をみるのはむずかしい。温度の影響を調べる場合には、土壌水分を十分にし、さらに大気中の湿度を高くして、乾燥ストレスがかからないように工夫する

★マメ:相対湿度が高いと、冷温処理(4℃)72時間後にABAが増加し始めるが、ABAレベルは非常に低く、水ストレスはかからない。また、ストレスには、アブシジン酸の共役化合物はあまり関係しない

★耐寒性・耐凍性
サボテン:ABAは、耐凍性に関係。低温処理でABAは増加、ABA添加により耐凍性は上昇。
コムギ:耐寒性とABAの関係は明らかでない。ハードニングの過程でABAは増加する場合と減少する場合がある。
ABA添加は春コムギと冬コムギの耐凍性にほとんど影響しない。内生的なABAは、ハードニングの間に減少する(Table 4.34)→低温での耐凍性は、ABAの増加とは関係がない

アラビドプシス:低温や外生的なABA添加によって耐凍性が4〜5℃上昇。低温ではABAはわずかしか上昇しないが、低温に反応する遺伝子rab 18にはABAが関与。また、低温によって誘導され、ABAが関与しない別の遺伝子が発見された→アラビドプシスの耐凍性には異なったメカニズムがはたらいており、ABAは部分的に関与

★樹木の立ち枯れ
脱水や凍結などによって根が障害をうけることなどにより起こる。
カエデ:降雪や降水が林床に届かないようにし、乾燥や凍結を人為的に起こして、春の樹液のABA濃度と、ABAと落葉の関係を調べる。
樹液流の末端のABAによって、落葉や葉面積の減少が起こる→ABAによって耐凍性が高まる
土壌表面が雪に被われていると、根の乾燥や凍結が起こりにくくなる→このとき、ABAが根で生成されて地上部分に輸送される

★トマトの傷み方とABA
2.5℃と10℃でトマトを保存すると、2.5℃の方がABAが多いが、実の障害の程度とABAの量は無関係

E. Temperature and Ethylene Levels

エチレンの代謝(Fig. 4.53)
エチレンの生成は果実が熟す過程や、日持ちに直接影響。

1. High Temperature Stress
高温ストレスがエチレンに与える影響はあまり多く分かっていない

★アカクキミズキでのエチレン生成
切り取った枝を30℃から60℃にさらして、切断面からのエチレン発生を測定。
エチレン生成は40℃で最大、それ以上の温度では低下
エチレン生成は3月に始まって5月に最大になり、その後減少して10月から1月まではゼロになる→休眠期間中にはエチレンは生成しない。ただし休眠解除とは関係なし
エチレンの基質(ACC艫<`オニン、IAA)を休眠中の組織に与えておくと、エチレン生成が増加→エチレン生成は基質律速

★ヒヨコマメの発芽阻害とエチレン
30〜35℃で発芽阻害とエチレン発生が生じる。胚軸と種子でエチレン増加(Fig. 4.54)
エチレンの前駆物質ACCの量は増えないが、ACCからエチレンへの変化を触媒する酵素と、ACCへの変化を触媒するACCシンターゼは増加→ACCは共役化合物 MACCの形になっている

★熱に馴化する能力はエチレンを多く発生する種ほど小さい(Table 4.35)。高温でエチレンが発生すると果実数が減ったり、収量が減少したりする→暑い乾燥地では、エチレン発生が小さい種を選択することが重要

★冷蔵した果実を常温に戻すと、特にトマトでは、さまざまな障害がおこる(熟度の不足、穴があく、割れる、香りが失われる、腐る)。モモでは、冷温で貯蔵する期間が長いほど(6日まで)、常温に戻したときに発生するエチレンが多くなり、熟すまでの時間が短くなる
トマトを冷蔵する前に高温(36〜40℃)をかけておくと、エチレンの発生が少なくなり、障害が小さくなる→熱ショックタンパクの生成が関与

★エチレン生成は膜の構造に関係。エチレンを生成する酵素EFEは、液胞膜の内面に、ACCシンターゼは細胞膜に結合→高温をかけるとエチレンが増加するが、膜の構造がこわれる47.5℃を越えるとエチレンは発生しなくなる

2. Low Temperature Stress
低温のストレスには、冷温ストレスと凍結ストレスとがある。エチレンに関しては、冷温ストレスの研究が多い(収穫後の果実の保存に関係するから)。一般的には、冷温ストレスによってエチレン発生が増加

★冷温→常温のときのエチレ_盗カ成
矮生のインゲンの葉:5℃から25℃に移すと、エチレンが10倍増加。25℃でエチレンが増加するとき、エチレンの前駆物質ACCの蓄積は起こらない。5℃ではACC合成は起こらないが、外部からACCを与えると、5℃でのエチレンは増加→ACC合成酵素の活性あるいは量が冷温ストレスに関係
トケイソウ:0℃から20℃に移したとき、エチレン生成が最大になるまでの時間によって冷温耐性をランク分け(Table 4.36)。インゲンの場合と異なって、0℃でACC蓄積が起こり、ACC蓄積の量が多いほど冷温に対する感受性が大きい(Fig. 4.56)

冷温感受性の指標としては、葉ではなく植物体全体のACCやエチレン量が適している(Tong and Yang 1987):冷温感受性の高いインゲンでは、5℃のとき、葉では、ACCやエチレン蓄積が起こらないが、植物全体ではACCやエチレンが蓄積しており、25℃でさらに増加する。冷温感受性が高くないエンドウでは5℃でも25℃でもACCやエチレンが蓄積しない(Fig. 4.57)

★冷温ストレスと乾燥
低温のときには水の吸収がしにくくなるので、脱水がおこる→冷温ストレスの影響をみるときには、植物の水関係も一つの要因
インゲンマメの葉片:脱水がすすむにつれてエチレン生成が減少。冷温・100%RHのインゲンは、生重が47%減少した植物と同じレベルのエチレンを生成する→冷温のときにエチレンが生成するのには脱水が関係している。エチレン発生と水の保持能力は相互に関係する(Table 4.37)
ただし、冷温にしたときのインタクトの植物と葉片では、エチレンやACC生成が異なることがあるので、葉片でのデータを植物全体に拡大解釈するときには注意が必要(Tong and Yang 1987)