The Physiology of Plants under Stress (E. T. Nilsen & D. M. Orcott)

13. Multiple Stress Interaction

1999年12月3日 担当:はんば

Objectives
植物の進化に対するストレスの相互作用の重要性
植物の形態形成や代謝機能の調節因子であるリソースの組み合わせ
ストレスの有害な影響をさらに大きくする、相乗作用をもつストレス(低温と強光)
ストレスの有害な影響を緩和する、相殺的なストレス(低温馴化と水ストレス耐性)
人為的なストレスの影響(二酸化炭素、ガス態の汚染物質、酸性雨)

1. Introduction
植物が受けるストレスは複合的であるが(Fig. 13.1)、複数のストレスについての研究は、一つのストレスについての研究よりもずっと少ない。実験数は、実験区因子数(たとえば2つの実験区で2つの因子について実験する場合は22 で4)となるので、因子が多くなると場所や予算がかぎられるので研究できなくなる。
複合的なストレスの情報は、一部は実験から、一部は野外の記載的な研究から得られる。
最初に複合的なストレスの理論的な影響を述べる。

A. Low of the Minimum
☆資源の制限
もし植物の成長が一つの主要な資源の量で決まっているならば、他の資源の量を増やしても成長はよくならない(Liebigの最小法則:Fig. 13.3)。それに対して、植物がもし資源の不均衡を補償するような進化をしてきたとすると(補償理論)、どの資源に対しても同じように反応する。これまでの研究結果は、補償理論を支持。
アラスカのツンドラ:光、窒素、温度
砂漠:水と窒素
林間種:光と水

☆Chapinの補償理論の証拠(1987)
1)補償理論では、資源の獲得効率が最大になる:もし一つの資源が制限されると、その他の制限されていない資源を獲得する能力が高くなる
2)多数の資源によって制限されている方が、成長を高くできる可能性が上がる
3)複数の資源を増やすと、成長が相乗的によくなる

B. Functional Convergence
☆植物は、会社のマネージャーが会社を経営するように、経済的に機能している
(会社では、ある部署が投資にみあうだけの実績があげられなければ投資をやめる)

☆もしある一つの資源が制限された影響で、炭素獲得の能力が上がらなくなると、炭素獲得のための生化学的機能への分配が抑制される(水が不足しているときにRuBisco合成のために窒素を多く分配しても効率的でない)。例えば、低カルシウムは炭素獲得のプロセスに直接影響しないのに、成長率は低下する。つまり、ストレスの影響は、生化学的な炭素獲得機能への影響となってあらわれる。

☆複数のストレスに対して、資源利用効率を最大化する(補償理論)ということは、植物の進化に関わっている。

C. Why study the effects of multiple stresses?
☆植物の生長は複数の資源によって調節されている
☆複数のストレスの相互作用は、植物の遺伝的な馴化をうながす
☆ある資源が少なすぎたり多すぎたりすると、他の資源に対する反応が影響を受ける
☆複数のストレスに対する反応は種によって異なるので、生態系での競争に影響する
☆人間によって変えられた環境が農業生産にどのように影響するかを理解するには、自然環境と人為的な撹乱の相互作用をしらなくてはならない

この章では、植物の形態や機能に影響する最も重要な資源の組み合わせと、ストレスに対する人的撹乱の影響を述べる。

II Effects of multiple resource limitations on plant function

☆複数の資源が制限されたとき、植物がどのように反応するかをしるためには、資源の制限に対して分配がどのようにかわるかをみればよい(光環境に対する樹木の樹冠内の窒素分布)。窒素は、林冠内の葉の間で、生産性を最大にするような分配になっているか?

A. Canopy Resource Use Optimization (Pnmax - N relationship)

☆樹木の炭素獲得に影響するおもな要因
1)枝の構造・葉の形態・葉の空間的な配置・葉の方向は樹冠内の光分布に影響
まばらで空間があいている枝や小さい葉/枝の密度が高い大きな葉、強光下/樹冠下の林間種、落葉/針葉では、樹冠の炭素獲得を最大にするために葉での炭素獲得をどのように調節するかが異なる。
2)樹冠内での窒素の時間的・空間的分布
炭素獲得能力(Pnmax:最大光合成能)は、窒素濃度と直線的な相関がある。
・Pnmaxと窒素濃度の相関は、種や生態系が異なっても成立する
・葉齢や、光・養分の量などが異なっても維持される
・Pnmaxと窒素濃度の相関は、植物の内生的な、代謝に関係する性質
窒素利用効率(Pnmax/N)はC4がC3より、陽性植物が陰性植物より、適潤植物が乾性植物よりも大きい
☆窒素とPnmaxの関係が成立する理由
光合成が主にRuBiscoによって律速されるときに成立。しかし葉の窒素の30〜50%しかRuBiscoには存在しないので、Pnmaxの窒素に対する感受性を十分に説明できない

☆Field(1991)の説明:光合成の生化学的な能力への投資は、生化学的な要因以外の因子による制限があるレベルよりも低くなるように調節される。そのレベルは、光合成能力を増加させるためのコストに依存する(補償理論)→Pnmaxと窒素濃度の相関が、種やハビタートを越え、種々の環境ストレス下で成り立ち、制限要因となる資源の種類によって変わることから。

☆炭素獲得が最大になるとき、光の分布と窒素の分布は相関しているはず。つまり、Pnmax/葉面積とN/葉面積は、どちらも、葉の平均受光率と比例しているはず。実際に、ほとんどの研究では、樹冠の階層や葉群の間では、Pnmax/葉面積とN/葉面積はパラレルに変化していることが示されている.

☆植物の機能や構造を調節する主なプロセス→葉の間で窒素分配をかえて生産性を最大にするようにはたらく

☆窒素とPnmaxの関係は、資源の分配だけでなく、いろいろなストレス下での植物の反応に応用することができる:Pnmax/葉面積とN/葉面積は、乾燥ストレス、窒素の制限、弱光や汚染物質のもとでどちらも減少する(ただし、リン酸律速の場合はPnmax/葉面積とN/葉面積の変化はパラレルでない)

The Physiology of Plants under Stress (E. T. Nilsen & D. M. Orcott)
13. Multiple Stress Interaction

1999年12月13日 担当:はんば
B. Light and Heat Dynamics and Subcanopy Plants
☆サンフレックと葉温・蒸散
葉での光の吸収と温度上昇は同時に起こる。林間種の炭素獲得には、サンフレックを効率よく行うことが重要であり、林間種の光合成には光や温度、VPG(水蒸気圧勾配)が重要→サンフレックの光合成には、光・温度・VPGの相互作用があると考えるのが論理的

☆サンフレックと葉温
研究例が非常に少ない(サンフレックの研究では葉温を一定に保つ場合がほとんど)。
Rhododendron maximum(ツツジ属)では、サンフレックとサンフレックの間では葉温20℃と25℃、サンフレックのときは28℃から34℃(Fig. 13.5)。光合成の最適温度は27〜37℃→サンフレックとサンフレックの間には光合成は温度と光によって制限され、サンフレックのときは光合成に最適な温度となるので植物によってはつごうがよい

☆サンフレックと水蒸気圧
サンフレックのときには、外気よりも葉の温度上昇の方が大きいので、葉の内部の蒸気圧が上昇→VPG は大きくなり、蒸散が増加。サンフレックが長く続くと、水ポテンシャルが下がって気孔が閉じたり、葉がしおれたりすることがある

C. Harbivore inductiobn of defensive compounds versus N and C costs
☆様々な植食動物(ハモグリムシ、アブラムシ、線虫)に樹木が食われると、生長量が減る要因となる。

☆植食に対する防御にどの程度投資するかは、植食者に対する出現頻度で決まる(Feeny 1976)。寿命が長い遷移後期種や作物は植食者に対する出現頻度が高く、短命な遷移前期種は出現頻度が低い。

☆出現頻度が高い植物は、特定の植食者に対して防御するために、高い投資をして効果的な防御をするのに対して、出現頻度が低い植物は、一般的にいる植食者に対して、効力があまり強くなくコストが高くない防御をする

☆出現頻度の大小は、資源に強く制限されている場所か、そうでないかで決まる。資源に強く制限されている遷移後期は、資源にあまり制限されていない遷移前期よりも植物の出現頻度が低い

☆Coley(1985)によると、出現頻度理論が支持されない場合がある。
1)特定の植食者と一般的な植食者に対して防御が異なるとは限らない
2)出現頻度の高い植物の方が、出現頻度の低い植物よりも、特定の植食者の影響を受けやすいという証拠はない

☆資源が制限されていると、成長の遅い種が選抜される。成長が遅い葉は寿命が長く、捕食者に対する出現頻度が高くなるので、防御により多くの投資をする→資源の制限と被植圧の間には相互作用がある

D. Adaptation to multiple resource patches
☆進化プロセスでの植物の遺伝子の変化は、資源の利用のバランスをとるために、すすんできた→複数の資源が同時に成長を制限する(補償理論)

☆資源が少ない環境の植物と、資源が多い環境の植物では、パルス状に資源が与えられたときの反応が異なる。根を分割し、異なった資源の量を与えた後、双方にパルス状の資源を与えると、低い資源環境下での根は、高い資源環境下での根ほど十分に資源を利用できない

☆資源が不足すると、資源の利用効率が上がる。水不足→気孔が閉じて蒸散が低下し、水利用効率が上がる。低栄養→栄養を運ぶ根の細胞膜中のタンパクが減って栄養利用効率が上がる

☆パルス状に資源が与えられたときにどの程度すばやく反応するかは、植物の表現型の可塑性に関係。資源要求性が低いほど、可塑性は低くなる。資源利用効率を高めるための遺伝子型の変化は、資源の変化よりもゆっくり→資源が少ないところでは資源の時間的変化を無視するタイプが選抜される

☆地上部と地下部への資源分配
地上部と地下部の資源は独立に変化するので、資源全体の利用効率を高めるためには、地上部・地下部への投資を変える必要がある。地上部・地下部への分配の比率はトレードオフの関係にあり、植物の形態的な変化や生理的な変化を調節する重要な要因となる