Plant Physiological Ecology (Lambers, Chapin III & Pons)
7. Growth and Allocation
2000年6月26日 担当:はんば

6. Adaptations associated with inherent variation in growth rate
6.1 Fast-growins and slow-growing species

予期できない変動をしている、無機栄養が多い環境:成長が早い短命の植物(r種)
撹乱が少ない環境:長命の、成長が遅い植物(K種)

植物に対する選択圧は、2種に分類できる。一つはストレス(水・無機栄養・光不足で、成長が抑制さ
れる)、もう一つは撹乱(被食や火事・風などで、バイオマスが破壊される)。Grime (1979 )は、植物の
戦略を3つのタイプに分類した:競争者(ストレスも撹乱も少ない)、ストレス耐性(ストレスが高く撹
乱が少ない)、荒れ地性植物(ストレスが少なく撹乱が大きい)。

6.2 Growth of inherently fast- and slow-growing species under resource limited conditions

6.2.1 Growth at a limitimg nutrient supply

無機栄養が不足すると、遺伝的に成長が早い種は、遅い種よりも成長速度が大きく減少する。しかし、
それでも成長速度は大きい(Fig. 26)。このことにはSLAが関与。

6.2.2. Growth in the shade

熱帯の樹木は、成長速度が大きい種は被陰下でも成長速度が大きい。成長速度の遅い樹種は植食動物や
病原体に対する防御に多くを投資しており、大きな根系を持っているため、成長速度が大きくなれないか
ら。

6.3 Are there ecological advantages associated with a high or low RGR?

成長速度が速いことの利点:すばやく空間を獲得できる、再生産を多くできる
では、成長速度が遅いことの利点は?Grime & Hunt (1975)や、Chapin (1980, 1988)の仮説を評価して
みる。

6.3.1 Various hypotheses

成長速度がおそい植物は、

○無機栄養の要求量があまり多くなく、栄養分を浪費しない→進化によって決まった戦略とはいえない。
近くにある、養分吸収がはやい植物に養分をとられてしまう。
○成長に不利な環境では、成長が遅い種の方が早い種よりも機能が最適化されている→早い種も遅い種
も、RGRを最大にするように資源が分配されているので、この仮説は正しくない

○成長の遅い植物は、光合成産物や無機栄養分を、構成バイオマスにあまり分配しない→正しくない。
成長に不利な環境では、光合成が低下するよりも早く成長が低下するので、むしろ糖が蓄積する。また、
リン以外の無機栄養が、成長が遅い植物で蓄積するという証拠もない

○RGRが大きいことは、種の選択とは関わらない(無機栄養が不足しているところではRGRを大きくす
る能力がある種でもRGRは大きくならない)→正しくない。栄養不足でも、遺伝的にRGRが大きい種は
やはりRGRが大きくなる

6.3.2 Selection on RGRmax itself, or on traits that are associated with RGRmax?

このように、成長速度がおそいことは、生態学的には利点がない。では、生育に不利な環境下では、な
ぜ成長速度がおそい種が多くなるのか?

もっとも重要なのは、植物組織に対する防御。成長速度が遅い種はSLAが小さい、つまり細胞壁が厚く、
厚壁細胞が多く、二次代謝産物が多い。また、葉の入れ替わりがあまりないので、無機栄養のロスも少な
くなる

樹木の実生では、葉の寿命が長い種ほど、成長速度が遅い。では、葉はどのようにすると寿命が長くな
るか?
頑丈にする:線維や厚壁細胞をつくる、細胞壁を厚くする、葉毛をはやす、上クチクラワックスをつく


根の入れ替わりについては、葉ほどは調べられていない。しかし、成長速度の大きい種は、根のバイオ
マスの密度が大きいことが分かっている(細胞壁が厚いため)。

6.3.2 An appraisal of plant distribution requires information on ecophysiology

植物の戦略を十分に理解するためには、RGRの解析を始めとする(Table 11)、生理生態的なアプロー
チが不可欠である。

7. Growth and allocation: the message about plant messages

どのような植物でも、周辺の環境を感受する能力を持っている。そして、その環境(例えば水不足や光
不足など)に応答してシグナルを送り、有害な影響を軽減するような反応を起こす。おそらく、植物に種
間差があるのは、環境の感受能力ではなく、環境に対する反応の方法であろう。

ある特別な環境で植物がある戦略をとっているとき、その戦略にはかならず利点があって自然選択をも
たらす、と考えるのはあまりに楽観的である。しかし、植物は、受動的に反応する器官であるというより
は、情報を持つシステムであり、この性質を無視することはできない。

いろいろな環境での植物の機能を理解しようとすれば、細胞や分子レベルでの情報が大変重要。過去
100年間の間に、複雑なプロセスに対してずいぶんと理解が進んだ。きっと次の100年間にもさらに理解
がすすみ、生態的な意味での植物のふるまいに対する理解が深まるだけでなく、厳しい環境に対処できる
新しい種をつくるための育種技術にも応用できるようになることであろう。


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