Plant Physiological Ecology (Lambers, Chapin III & Pons)
4. Leaf energy budgets: effects of radiation and temperature

2001年4月21日 担当:はんば

4A. The plant's energy balance

1. Introduction

温度は、植物の分布をきめる主要な要因のうちの一つ。また、温度は、酵素の触媒反応、蒸散など
の種々のプロセスに影響を与える。植物の温度は、周囲の気温によってほぼ決まる。しかし、植物
の器官の温度は、周囲の気温とは異なることも多い。植物の温度環境に対する反応を理解するため
には、微環境と植物のエネルギー収支を知る必要がある。

2. Energy inputs and outputs

2.1 A short overview of a leaf's energy balance

●ほとんどの葉は、短波長の太陽放射(SR)を効率的に吸収(SRnet)。強い太陽光のもとでは、も
しエネルギーを散逸する手段がなければ、葉の温度は一分以内に100℃にまで達してしまう。生理
的な機能を維持するためには、適切に熱散逸をすることが必要。

●葉による熱散逸 (Fig. 1)

(1)長波長の近赤外光LR。一度放出されたLRは再吸収されるので、LRによるエネルギー収支
LRnetはプラスの場合も、マイナスの場合もある

(2)葉温と周囲の気温が異なっている場合には、対流による熱輸送 C が起こる

(3)蒸散による冷却 _E (_ 蒸発に必要なエネルギー E 蒸散)。

(4)代謝活動によるエネルギー消費 M 。他のプロセスと比べて小さいので無視されることが多
い。

葉が平衡温度に達したときには、葉のエネルギーバランスはゼロとなるので

SRnet +LRnet +C + _E + M = 0

●エネルギーの時間変化を考えるときには、熱の蓄積も考慮する必要がある。しかし、多肉植物以
外の植物の葉では熱の蓄積は小さいので、葉温は環境の変化に応じて、一分以内に変わる。

2.2 Short-wave solar radiation

<吸収光>

●太陽放射 SR のうち、98%が、300〜3000nm。紫外光UV (300〜400nm)は太陽放射の 7% 
で、植物は紫外光のうち 97% を吸収(Fig. 2)。

●太陽放射のおよそ半分が、波長400〜700 nmの、光合成有効放射 photosynthetic active
radiation PAR。緑色植物の大半は、入射したPARの85%を吸収する。

●波長域700〜3000nmの近赤外光 IR のうち、50%が吸収される。このうち、
700〜1200nm 反射・透過
700〜3000nm 葉の水により吸収される

●葉の角度とエネルギーバランス:吸収光の調節
強光時には光を避け、弱光時には光を獲得するために、

  葉を垂直に立てる。昼の間の光吸収が減り、朝や夕方の光吸収が大きくなる:多くの灌木
  北半球(USA)では南に傾き、南半球(チリ)では北に傾く:タマサボテン。
  葉の光傾性 heliotropism Fig. 3:葉の傾きを日変化させる。日中は太陽光に対して平行、朝
や夕方には太陽光に対して垂直に葉を傾け、光合成速度が最大になるように入射光を調節 インゲ
ンなど

高山の植物Dryas octopetalaの花は日周運動をする。形状は放物面状になっていて、太陽光をあ
つめて温度を上げる。これによって胚珠の発達がうながされ、送粉者も集まる

<反射光>

●入射光のうち、反射する割合は小さい(5〜10%)。反射には、葉の表面での反射(波長にあま
り依存しない)と、葉の内部からの反射(波長に依存)とがある。

●葉の表面からの反射は、ワックス層や、白い毛じや、塩の結晶があると、大きくなる。
砂漠の灌木Encelia farinosa :冬の葉には毛じが少ないので光をよく吸収(80%)し、夏の葉
には毛じが多いので光の吸収が少ない(30〜40%) Ehleringer & Mooney 1978。毛じの発達
には、日長とジベレリンが関与 Chien and Sussex 1996。

<エネルギーバランスのまとめ> Table 1

吸収光のうち、蛍光として放射されるものもあるが、割合は小さい。エネルギーバランス全体から
みると、光合成有効放射や蛍光の割合は小さいので、無視して良い。ただし、光合成をするのに適
している条件の場合や、光強度が小さい場合には、エラーが致命的に大きくなるので注意。

2.3 Long-wave radiation

●0K以上の温度の物質はすべて放射によってエネルギーを放出している。長波長の近赤外光によ
る熱損失LRemは、絶対温度Tの4乗に比例。放射率_、ステファン・ボルツマンの定数を_とす
ると 

    LRem = _・_・T4

黒体は、_=0。植物の場合、_は、0.94 〜0.99。

●植物からは近赤外光の形でエネルギーが散逸されるが、同時に近赤外光は吸収もされる。太陽光
にさらされている葉冠では、入射エネルギーのおよそ半分が、近赤外光によるもの。

●晴れている場合には、有効放射温度はー30℃以下で、葉への近赤外光の入射は少ない。しかし、
周囲の岩や砂の温度が70℃以上にもなる砂漠では、近赤外光の入射は多くなる。

●夜間や、晴れている日中の日陰では、葉の放射バランスはマイナスになるので、葉温は周囲の気
温よりも低くなる(結露)。

●葉の受け取るエネルギーは、葉群の中で大きく変化。また、天候(晴天か曇天か)によっても変
化する(Fig. 5)。太陽からの短波長光よりも、葉に入射する短波長の方が大きい(周辺からの反射
があるため)。葉に吸収される全エネルギーは、太陽定数とほぼ等しくなる。
1)晴天時:長波長光のおよそ半分以上が葉で吸収
2)曇天時:長波長光は、ほとんどが吸収される


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