平成18年度輪読ゼミ　5月15日(月)　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　4回生　益田多恵子

5.          PLANT GROWTH AND DEVELOPMENT（植物の生長と発達）

 

5.1　 INTRODUCTION

　植物の生活環の過程では、顕花植物は前もってプログラムされた一連の発達段階（発芽から枯死）を通過する。この発達段階の性質とタイミングは遺伝的支配下にある。植物は着生の生物であるので、植物がさらされている環境に耐えなければならず、その結果として、植物は分化や生長のプログラムに適応する能力を発達させてきた。

　この章では、植物の発達の概略とどのように環境が植物に影響を与えるのかを述べる。

 

 

5.2      EMBRYOGENESIS, SEED FORMATION AND GERMINATION（胚発生と種子形成と発芽）

 

　〔種子形成にみられる胚発生の順序〕

花粉管から生じた精核の1つが子房内にある卵細胞と融合して2nの受精卵形成

↓

2細胞期

受精卵細胞が2分裂する。この分裂は不等分裂が起こり、その結果、頂端細胞と基部細胞を形成する。頂端細胞は前胚を、基部細胞は胚柄を形成する。

　　↓

4細胞期前胚

　　↓

8細胞期前胚

　　↓

16細胞期前胚

　　↓

　　球状型胚

　　頂端－基部軸に沿った横方向の分裂は、前胚を上層と下層に分裂させる。前表皮（表皮になる前のもの）・分裂組織（皮層になる前のもの）・前形成層（髄や中心柱になるもの）の3つの基本細胞層へ組織分化する様子はこの段階では明白である。

　　↓

　　初期ハート型胚

　　根・茎・葉の先端分裂組織がはっきりしている。

　　↓

　　ハート型胚

　　根・茎・葉の先端分裂組織がはっきりしている。

　　双子葉植物ならば初期の子葉が確認される。

　　↓

　　魚雷型胚

　　根・茎・葉の先端分裂組織がはっきりしていない。

　　↓

　　ステッキ型胚

 

 

5.2.1　REGULATION OF EMBRYOGENESIS（胚発生の調節）

　胚発生は単細胞に始まり分化した器官と組織の多細胞構造に終わる。

　胚発生に関する分子生物学的なことはほとんどわかっていないが、シロイヌナズナやトウモロコシの突然変異体の研究は手がかりとなる。

 

Box5.1　ARABIDOPSIS AS A MODEL PLANT SYSTEM（モデル植物としてのシロイヌナズナ）

野生型のシロイヌナズナを変異原（エチルメタンスルホン酸塩のような化学物質）で処理し、M1世代を発芽させると認識できる変異区域が生じる。変異区域の花が自家受粉し、M2世代を生じる。M2世代のうち、1/4はホモ接合の劣性形質の変異体で、この変異体は純種として品種改良の系統として増殖させることができる。

 

PATTERN MUTANTS（突然変異型）

突然変異型は母体の調節遺伝子中に生じると考えられている。調節遺伝子は胚の組織を決定。

図5.3はシロイヌナズナ胚組織モデル（仮説）。胚の分割パターンは(�ｳ)頂端－基部軸に沿ってと(�ｴ)縦軸に沿ってとがある。

(�ｳ)　頂端－基部軸は茎・葉の先端分裂組織（SAM）、子葉、胚軸、幼根、根端分裂組織（RAM）の5つの領域にわけられている。これらの領域は胚が早期に横断分裂することにより形成。

 

(�ｴ)　幼根軸はL1、L2、L3という3つの層を形成。これらはそれぞれ表皮細胞、皮層細胞、導管組織（図5.1では前表皮、基本分裂組織、前形成層として示されている）といわれる。

突然変異体のいくつかは頂端－基部軸に沿っていくつかの領域の欠損が見られるということが確認されている。図5.4はシロイヌナズナ胚突然変異型の表現型を示している。gnom/emb30以外の変異は胚の頂端－基部軸に沿って様々な領域の欠損が翻訳されている。

gnom/emb30は頂端－基部軸を確立する点に欠陥があると考えられている。

野生型遺伝子のGURKE、MONOPTEROS、FACKELは胚の頂端－基部軸のパターンを決定するためのいくつかの点が関係している。

 

 

5.2.2　SEED FORMATION AND GERMINATION（種子形成と発芽）

　成熟した種子は子葉か内胚乳に養分を貯蔵している。この養分は発芽の間に使われる。

種子の発達の間に胚は休眠期に入る。このときの胚組織の平均水分含有率は15%以下である。

　休眠期の継続時間は種によって異なる。コムギなどの穀類では湿気のある状態ではわずかに休眠時間が短く、製粉や醸造に適さないものができる。多くの雑草の種類の種子は土の中で何ヶ月か何年もの間、休眠したままである。

 

　水・光・温度の環境要因が発芽するかどうかを決める。

WATER AVAILABILITY（水の利用）

種子は播種されるとき低湿状態で発芽の最初の過程は吸水である。�ｱの吸水の過程は種皮の透水性によって調節される。

厚い種皮をもつ種子はゆっくりと水を吸水する。種皮が土壌中で分解されるまでは休眠状態のままで発芽を妨げる可能性がある。よってスイートピーを育てる園芸家は多くの種子を同時に発芽させるためにスイートピー種子の種皮の部分を手で取り除くことをすすめられている。

 

LIGHT（光）

　光の2つの波長が種子の発芽時期を調節している。

　赤色光（約660nm）は発芽を促進し、遠赤外光（約720nm）は発芽を阻害する。

 

TEMPERATURE（温度）

種子は発芽前に冷却が必要条件である。

 

 

5.2.3　THE GERMINATION OF BARLEY GRAINS（オオムギ種子の発芽）

　オオムギ種子の主としてデンプンとタンパク質からなる養分は内胚乳組織に貯蔵されている。成熟した内胚乳はアリューロン（粒状タンパク質）と呼ばれる代謝性の活性細胞の層によって取り囲まれている。糊粉細胞はオオムギの発芽に重要な役割を果たし、内胚乳内の蓄積を調節する役割を果たしている。

 

　発芽で最初に見られるのは種皮を通しての幼根の発現である。これは、グルコースを生成する内胚乳内で貯蔵されたデンプンの加水分解を含む生化学反応によって始まる。デンプンからグルコースを解離する重要な酵素はα‐アミラーゼである。α‐アミラーゼ生成の簡単な実験（図5.7）は、オオムギ種子を半分にし、デンプンを含む寒天上に表面を切り落としたものを置く。48時間後に種子を取り除き、デンプンの存在の有無を調べるためにヨウ素で寒天を着色する。

　実験結果より、胚と胚乳と糊粉層で培養するとデンプンは加水分解され、胚乳と糊粉層で培養するとデンプンは加水分解されないことがわかる。

 

　胚を生成する物質はジベレリン（GA）と呼ばれ、植物の生長と発達を調節すると考えられている小さな分子集合体の一つである。GAは植物生長の調節因子（PGR）として知られている。

 

　オオムギの胚におけるGAの生合成は吸水後24時間で始まる。

　オオムギ種子内の貯蔵デンプンの動きの段階は次のとおりである。

�@      吸水

�A      ジベレリンから胚から拡散

�B      糊粉細胞中でジベレリンがα‐アミラーゼ合成を誘引

�C      α‐アミラーゼがデンプンを加水分解し、グルコース生成

 

BARLEY GERMINATION AND GENE EXPRESSION（オオムギの発芽と遺伝子型）

　種子の発芽は遺伝子型の変化によって調節され、調和した一連のできごとである。スイッチ・オンされる最も初期の遺伝子と1つは活性ジベレリンの生合成の重大な過程を調節する酵素（GA20-オキシダーゼ）をコードする。

GA生合成阻害の存在下においてもたとえゆっくりでもオオムギ種子の発芽が見られる。この事実からPGRが発芽のための唯一の引き金ではないかもしれないが、その過程を調節するために働いているのだろうと考えられる。

 

 

平成18年度輪読ゼミ　6月12日（月）　　　　　　　　　　　　　　　4回生　益田多恵子

 

5.3　PLANT GROWTH REGULATORS AND PLANT DEVELOPMENT

　植物の発達はあらかじめ決められたプログラムを必要とし、植物の発達は環境シグナルや遺伝シグナルに反応して調節される。

　その化合物であるオーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシジン酸（ABA）は植物の発達に重要な役割を果たすものとして認識されており、PGRとして説明されている。

　植物では動物と異なり、ホルモンの合成と反応は同じ細胞内で起こるであろうとされ、オーキシンとインドール酢酸（IAA）は極輸送系を持っており、輸送の調節が可能である。

他のホルモンは木部（ABAやサイトカイニン）や師部（ジベレリン）で働き、これらの輸送は蒸散速度や受容部の強度による。エチレン（C2H4）は気体で、拡散によって大きく動くため、ある場所から目的としていたり、コントロールされた場所への動きを見ることは難しい。

 

 

5.3.1　USE OF MUTANTS TO STUDY THE ROLE OF PGRs IN PLANT DEVELOPMENT

Table 5.1　植物の生長と発達におけるPGRの効果

PGR

効果

発達事象

オーキシン（IAA）

促進

促進

促進

促進

阻害

子葉鞘とシュート細胞の伸長

頂芽優勢

茎における不定根の形成

エチレン合成

器官脱離

ジベレリン

促進

促進

節間伸長

種子発芽

サイトカイニン

促進

促進

阻害

阻害

細胞分裂

葉・子葉の細胞拡張

頂芽優勢

葉の老化

アブシジン酸（ABA）

促進

阻害

促進

気孔閉鎖

発芽

葉の老化

エチレン

 

 

促進

促進

促進

促進

果実の熟成

器官脱離

葉・花の老化

陸生植物の茎の横方向の細胞拡張と水生植物の細胞伸長

ブラシノステロイド

促進

促進

阻害

葉・茎の伸長

花粉管成長

根の成長

 

Table 5.1の化合物が重要な役割を果たしているという証拠の多くは、PGR生合成阻害の影響と発達時の動向からである。

　例えば、銀イオン（エチレンの動きを阻害する）を用いると、クリマクテリック型フルーツの熟成や老化、器官脱離を遅らせることができる（Section 5.6）。

　また、パクロブトラゾール（ジベレリンの生合成を阻害する）を用いると、穀類の発芽を遅らせたり、節間の伸長を減少させることができる。

　しかし、このような阻害剤の使用は難しさをはらんでいる。これらの化合物は特定的ではなく、化合物が引き起こす生化学の作用による効果である。

　もっと的確な方法は、特定のPGRを生成したり、PGRに反応する能力を欠如した突然変異体を単離することである。多くの突然変異体がシロイヌナズナで単離されている。例えば、ABAは気孔の開閉の調節に重要な役割を果たすが、ABAの合成をする能力が減少した突然変異体は水分供給が限られた環境では「wilty」という表現型を示す。

 

 

THE ISOLATION OF A NEW CLASS OF PGR ― BRASSINOSTEROIDS

　1990年代、ジベレリンやオーキシンなどのPGRに反応しないという欠陥がみられないシロイヌナズナで数多くの矮性変異体が見つかった。これらの変異体のいくつかは暗所で育てたとき光成長形態を示すなどの光の存在に特異な反応を示した。それは、暗所で7日間育てると、暗下で育つと典型的に見られる実生が白くなるという形態の代わりに、短い胚軸で子葉や本葉が広がるという明所で育つと典型的にみられる形態を示した。このような光形態形成変異体の1つ（Section 5.3.2）であるde-etiolated2（det2）が認識されている。

　ブラシノステロイドと名づけられた化合物のグループは以前にアブラナ属から単離され、それを植物に用いると、成長促進活性を示した。det2変異体はブラシノステロイドを欠如していることが現在わかっており、この変異体の単離と分析からこの化合物が生体内でPGRとして重要な役割を果たすことがわかっている。

　ブラシノステロイドは、細胞伸長を促進するが、ジベレリン欠損矮性変異体に効果はない。このことから、2つのPGRが異なったメカニズムを用いて細胞拡張を調節していることがわかる。

 

 

5.3.2　MECHANISM OF ACTION OF PGRs

　PGRにより生じた変化の多くは、新しい遺伝子型に関係しており、いくつかのメカニズムがあるPGRを知覚し、反応するために存在しなければならない。このような分子のレセプターは、原形質膜のような膜に結合しているか、細胞質内に溶解している。PGRを標識付けした放射能を用いてレセプターを単離するという試みは成功していない。それは多分、レセプターの数が少なく、結合が可逆反応だからである。

　しかし、1990年代後半には変異体にアプローチすることにより、PGRの作用のメカニズムの解明という大きな進歩がみられた。

 

 

ISOLATION AND CHARACTERIZATION OF PGR RECEPTORS ― THE ETHYLENE STORY

　エチレンは、果実の熟成、老化、器官脱離に重要なPGRである。これらのことに加えてエチレンは、ストレスに対する植物の反応の仲介の役割を果たす。エチレンが気体であるということは発達時の反応を調節するものとして特に役立つものである。それは、エチレンがある場所から場所へとすばやく拡散するからである。

　暗所で育てられた若い実生にエチレンを用いると、エチレンは三重反応として知られているある特定の効果の徴候を引き起こす。シロイヌナズナの三重反応の一部であるこの2つの効果（胚軸の伸長阻害・先端部の肥大成長）は、Figure 5.10に示されている。

　三重反応の3つめの効果は、もっと伸長成長が生じ、低濃度のエチレン（10p.p.m以下）のときのみ見られるが、茎は垂直ではなく水平に成長する（側面屈地性と呼ばれる現象）。

　気体存在下で伸長し続ける変異体（Figure 5.10）は簡単に認識することができる。最初に認識されたエチレン非感受性変異体はEtr1と名づけられ、これは驚いたことに優性である。

　ETR1遺伝子は、エチレンレセプターとして作用するタンパクをコードするのではないかと現在考えられている。エチレンレセプターは最初に認識されたPGRレセプターである。おもしろいことにそれはある環境で化学物質を感知し反応するためにバクテリアに用いられている。バクテリアのシステムはセンサータンパクからなり、それは化学物質を感知し、反応調節タンパクにシグナルを送る。そして反応が生じる。Two components 間のコミュニケーションはリン酸化タンパクを介して行われる。センサーはヒスチジン残基（ヒスチジンキナーゼとして作用する）の1つをリン酸化し、そのとき、リン酸塩を反応調節因子上のアスパラ銀酸塩に運ぶ。これらの両方のタンパクの等価は、ETR1タンパクのC末端領域に生じ、N末端は3つの疎水結合をもっていて、それはエチレン結合の側にある。Figure 5.11の一番上の図にはその構成とダイマーとして機能するETR1タンパクを示している。

　ETR1遺伝子が明らかとなり、変異によってエチレンに対して感受性がないとしたら、なぜ優性なのかを説明できるだろうか。その答えは、エチレン欠乏状態で三重反応を示すctr1変異体の認識から生じる。通常のCTR1遺伝子のタンパク質生産物はエチレン反応を妨げるために作用するプロテインキナーゼである。これは、negative regulatorで、この遺伝子の変異はエチレン反応の永久活性を引き起こす。Figure5.11からCTR1はETR1の後作用し、その生成物がエチレンに結合したとき、ETR1はCTR1の作用を妨げるために作用する。

　ETR1遺伝子の変異体の生成物はCTR1をブロックするために作用しない。それはエチレンと結合できなくなり、もし結合したとしても反応できなくなるからである。

 

 

5.3.3　PGRs AND INTERCELLULAR SIGNALLING

　発達段階で影響するシグナルは、環境が重要な役割を果たすことはこれまでに説明してきた。光の質や量のような要因は発芽や開花のタイミングを調節し、重力や光の向きは植物の生長パターンを変化させる。しかし、環境シグナルの多くは、水や栄養、酸素利用や病原体の攻撃のようなストレスに関係している植物によって知覚される。

　PGRはストレスに反応してシグナルとして作用し、ある組織から他の組織へ移動する。例えば、根の周りの水不足は、木部液内のABA濃度の増加を引き起こすと見られており、このPGRは葉に作用する（Chapter 3）。

　また、根の周囲の過剰な水分（つまり水浸し状態）に対する反応では、トマトのような植物では、葉柄の表面上で高い生長が見られ、その結果、空気に触れている部分がしおれる。この現象は、上偏生長として知られており、葉では高いエチレン形成がみられる。細胞間シグナルは、アミノシクロプロパンカルボン酸（Acc）と呼ばれる溶性のエチレンの先駆物質と考えられており、水浸し状態の根からシュートへの蒸散流でAccは動き、気体に変化する。

 

 

AMPHIBIOUS PLANTS AND THE‘FLOOD RESPONSE’

水浸し状態であるということは、陸生植物にとっては大きなストレスとなるが、水環境で育つ植物にはそれに対しての耐性がある。実際、Nymphoides peltata（アサザ）のような葉を浮かせている両性植物の葉柄の生長は浸水によって刺激されている（Figure 5.12）。

　洪水反応と呼ばれる同様の効果が、いくつかの草原の種類でみられる。例えば、ハイキンポウゲ（Ranunculus repens）は洪水を経験した土地で生長する。水浸し状態のときは、新たな葉柄が葉を伸長させ、その結果、酸素がある環境へ広げることのよって植物が生存できるよう洪水の水面を越えて葉身を伸ばす。

　ギシギシの種類は、厳しい陸生から両性へと移ってきた過程がみられる。例えば、Rumex acetosella（ヒメスイバ）は乾燥した砂地で生長するが、R.palustris（湿地のギシギシ）は川岸近くでしばしばみられる。洪水耐性のR.palustrisへの浸水は、より高いシュート伸長を導くが、洪水に耐性がないR.acetosellaはそのような反応を示さない。両種ともに、洪水により葉柄組織内のエチレン蓄積を導くが、R.palustrisはエチレンによってシュート伸長が刺激される。このことから、PGRに対する反応は、刺激反応の現象により著しく影響されていることを示している。

 

 

5.4　SEEDLING DEVELOPMENT

　実生は植物の生活環において最も重要な部分である。また、実生は生長する中での環境の情報を供給する多数のセンサーを備えている。

　屈性は、一方からの刺激に反応する植物の直接的な動きとして定義されている。その中でも特に重力と光のシグナルが最も重要であり、それぞれ屈地性、屈光性と呼ばれている。

 

 

5.4.1　RESPONSES TO GRAVITY

　根は、引力の方向へ生長する正の屈地性を示すが、シュートは引力と反対方向に伸びる負の屈地性を示す。

 

　重力に対する反応は3つの段階からなる。

�@      植物器官が刺激の方向を感知（重力知覚）

�A      シグナルの発生

�B      シグナルの反応に対して特異な生長

 

 

GRAVIPERCEPTION

　植物の重力知覚はデンプン粒やデンプンがつまった色素体（アミロプラスト）によって影響されているという仮説がある。

 

　デンプン粒の沈殿は植物体内のある細胞のみだけに存在する。根では、根冠に存在する（Figure 5.14）。

　根冠は根が生長する方向の情報を提供するだけでなく、先端分裂組織がすりへるのを防ぐ役割がある。また、土壌中を根端が通過するのを手助けする粘液を生成している。

 

　双子葉植物では、アミロプラストの沈殿が木部組織を取り囲む細胞にみられ、根の内皮として知られている。もし、この内皮がなかったら、根は重力に反応しない。

 

　また、どのようにデンプン粒の動きが植物の方向の情報を与えることができるのかはわかっていない。デンプン粒の動きよりも、むしろどの方向にアミロプラストの沈殿が発生するかが特定のシグナルにとっては重要であると考えられる（Figure 5.15）。

 

 

5.4.2　RESPONSES TO LIGHT

　重力の他に光も実生の生長を調節する重要なシグナルである。

　暗室で苗を生長させると黄化する。黄化した双子葉植物は急速に伸長し、葉の拡張が阻害される。また、クロロフィルが欠乏すると、一般的には頂端がフック状になる（Figure 5.16）。

　葉と茎では知覚のメカニズムは同じだが、シグナルを変換する方法が、茎の細胞と葉の細胞では異なっているかもしれない。

 

 

LIGHT PERCEPTION

　光に対する反応は、色素が媒介となって起こる。色素は光のレセプターとして作用し、特定の波長を吸収する。

　光形態形成は、遠赤外、赤、青、UVの波長で促進され、光感知には、2種類の色素が関与している。それは、フィトクロムとクリプトクロムで、フィトクロムは赤、遠赤外に反応し、クリプトクロムはスペクトルの青い部分に反応する。

　フィトクロムは2種類あってそれぞれ互換性がある。赤色光を吸収する不活性型のPrと遠赤外光を吸収する活性型のPfrである。両者は光によって切りかわる（Figure 5.17a）。

　フィトクロムの相互変換はスイッチのようなもので、スイッチがオンになりPfrが優勢になると、葉が拡張し、クロロフィル生合成が刺激される。

　バランスがPrの方に傾くとスイッチがオフとなり、茎の生長が他の調節因子によって促進される。

　フィトクロムはPrの形で合成され、光があたると暗所で生長した実生はPrのみ合成する。

 

　PrとPfrの吸収スペクトルは部分的に重なっている（Figure 5.17b）ので、Pfr：Prは植物が浴びる光の波長次第である。通常は植物は白色光で生育し、Pfrになる方向へと動く。しかし、日陰で生育する植物は遠赤外光にさらされる。これは、葉の中のクロロフィルが緑色を反射し、青色と赤色の波長を吸収した結果である。この日陰の環境によってPrへと動き、植物は林冠から抜け出すまで急速な茎の伸長を示す。すべての植物がこのように陰に反応するわけではなく、ブルーベル（Hyacinthoides non-scriptus）やヤマアイ（Mercurialis perennis）のように光度が低い状況に適応できる植物もある。このような植物は耐陰性があるとされ、遠赤外に対する反応で茎の伸長は起こらない（Figure 5.18）。

 

　光は、実生の生長に対する効果があるだけでなく、発芽に対しても劇的な効果をもつ。光発芽種子の発芽は遠赤外によって阻害され、林冠下では休眠のままである。しかし、草木が枯れたり、取り除かれたりすると白色光に照らされた種子のように発芽が生じる。この現象は雑草には重要なことのように考えられる。フィトクロムは顕花、葉の動き、生長や発達の状況の調節に関係している。

 

　林冠の陰に加えて、1日中の時間帯が光スペクトルの質に影響を与える。例えば、夜明けには青の波長が増加し、クリプトクロムによって感知されるシグナルが与えられると考えられる。このことは太陽が昇る前に気孔が開くことを促進させる。

　スペクトルの構成の主な変化は水深が深くなるにつれて見られ、このことは水生植物や藻の生長や発達にとって重要である。汚染されていない水では、突き抜ける光の質と量は10～20mくらいまでは適度に続く。しかし、汚染した水では、短い緑と青の波長は、急速に浅いところで吸収されてしまう。

 

 

PHOTOTROPISM

　光の波長は植物の生長や発達の調節に重要なシグナルを送るだけでなく生長や発達の方向を決める。屈光性は植物を窓敷居に置くと見られる。屈光性を誘引する最も効果的な光の波長は青色スペクトルの部分である。屈光性は約10分以内で起こり、屈地性と近い類似性をもっている。

 

 

5.5　PHOTOTROPISM AND AUXIN: A CAUTIONARY TALE

　Charles Darwinとその息子Francis Darwinによって屈光性の一連の観察がなされた。

 

　レセプター（先端）と反応部位（先端下の生長部位）の2つの分かれている部分は、反応がどのように生じるかという説明に重要な特徴である。ダーウィンはこの観察を説明する特定のモデルを提案しなかったが、他の研究者は先端から生長部位に何か影響するものが通っているのではないかと推論していた。30年以上もの間、研究者らがこの影響するものの解明をしようとした結果、次のようなことがわかった。

 

 

実験2（1913）

　子葉鞘の先端を取り除き、少量の寒天を切り口の上に置き、先端部を置くと、子葉鞘は一方向の光に支配される。

 

実験3（1913）

　雲母片を子葉鞘の先端と生長部位の間にさしこんだ。このとき、光の方向にさしこんだものは曲がるが、その反対側にさしこんだものは曲がらない。

 

実験4（1919）

　子葉鞘の先端を切り落とし、それを子葉鞘の切り口に置いた。すると光刺激なしでも曲がった。