Ridge, I. Plants Oxford University Press (2002)  4 Plant Mineral Nutrition

2006.4.24 半場

 

4.1 Introduction

 

植物の構造をつくったり維持したりするためには様々な化学元素が必要である。有機栄養は二酸化炭素と水からつくられ、無機栄養は主に土壌から無機イオンや分子の形態で吸収される。土壌に栄養を加えると植物の生長が向上することは2000年以上前から知られていたが、栄養の効果が解明されるようになったのは20世紀に入ってからである。

 

必須無機元素という言葉は1930年代にArnon Stoutによって提唱された。必須無機元素とは次のような3つの条件を満たすものである。

 

1)その元素がないと植物の生活環が完結しない

2)他の元素で代替できない

3)植物の代謝反応に直接関係している(酵素反応など)。

浸透圧を保持するために必要な元素は有効元素とも呼ばれる。

 

現在のところ、ほとんどの種子植物に必須である元素は13種、種によってはそれに加えて3種の元素が必須であるとされている。今後必須元素の種類は増える可能性がある。これらの元素量は適正である必要がある。多すぎても少なすぎても植物にとっては有害。

 

多量元素:比較的多量に必要。タンパク質の構成成分、浸透調整物質など。

微量元素:少量のみ必要。電子伝達を担うタンパク質の成分など

 

多量元素

植物に吸収される形態

乾燥体中相対濃度

機能

窒素

NO3- NH4+

1000

タンパク質や核の構成要素

カリウム

K+

250

浸透調整,酵素活性の調節

カルシウム

Ca2+

125

細胞壁・膜の安定、細胞機能調節のメッセンジャー

マグネシウム

Mg2+

80

酵素やクロロフィルの構成要素、pHや細胞の電荷調整

リン

H2PO4 HPO42 -PO43-   リン酸

60

核酸やATPADPの構成要素、タンパク質合成、光リン酸化反応

イオウ

SO42- 硫酸塩

30

タンパク質の構成要素、解毒作用

 

微量元素

植物に吸収される形態

乾燥体中相対濃度

機能

塩素

 

Cl- 塩化物

 

3

 

浸透調整

酵素活性の調節

 

Fe2+ Fe3+

2

電子伝達のキャリア

タンパク質合成

ホウ素

H3BO3 ホウ酸塩

2

詳細な機能は不明(細胞伸長や核酸合成?)

マンガン

Mn2+

1

光合成系IIの構成要素、抗酸化作用

亜鉛

Zn2+

0.3

酵素(カーボニックアンヒドラーゼ)の構成要素

Cu+ Cu2+

0.1

プラストシアニンの構成要素、電子伝達

モリブデン

MoO42-

1×10-3

窒素代謝

ナトリウム

Na+

さまざま

植物によっては必須、動物よりも必要性ははるかに低い

シリコン

SiO32-

さまざま

ある種の草本植物の細胞壁の構成要素

ニッケル

Ni2+

さまざま

植物によっては必須

 

無機元素が不足したときに顕花植物に現れる徴候

 

植物全体

窒素:明るい緑色(古い葉は黄変)、茎は短く細くなる

リン:暗緑色、赤色、紫色。茎は短く細くなる

 

植物の一部

マグネシウム:黄変、赤みがかる。壊死した斑点ができる。先端が曲がる。茎が細くなる

カリウム:先端や葉脈の間が黄変、壊死した小さな斑点ができる。茎が細くなる

亜鉛:壊死した斑点ができ、葉脈の間が長くなり、葉が厚くなる

 

新しい組織が大きな影響を受け、末端部の芽がやがて枯死する

カルシウム:新芽が曲がりやがて枯死する

ホウ素:若い葉の基部が明るい緑色になりやがて葉がねじれ枯死する

 

新しい組織が大�ォな影響を受けるが末端部の芽は枯死しない

銅:斑点や黄変がないまま若い葉がしおれる

硫黄:クロロシスが生じて若い葉全体が明るい緑色になる。斑点は出ないか、出ても少ない。

鉄:葉脈は緑色のままクロロシスが生じる。斑点は出ないか、出ても少ない。

 

42 Mineral nutrient uptake

 

沈水植物は表面全体からイオンを吸収できるが、ほとんどの維管束植物は根からイオンを吸収する。無機元素は根の表皮epidermisから中心柱steleまで放射方向に移動し、木部の通道細胞を通って茎を上昇する(Fig. 4.1)。

 

4.2.1 Apoplastic transport

 

イオンは拡散によって根の皮層細胞に入る。皮層細胞の細胞壁は「かご」のような構造になっており、細胞壁の繊維の間は最大で5nmの間隔があるため、Ca2+K+、スクロース、アミノ酸、有機酸などの分子量が小さい物質を十分通すことができる。

 

細胞壁の孔隙の表面にはペクチンのカルボキシル基が存在し、解離することによって負の電荷が生じている。このカルボキシル基がイオン交換体としてはたらくため、Ca2+K+イオンは完全に自由には細胞壁孔隙を移動できない。陽イオン細胞壁の空隙(フリースペース)は、物質の透過のしやすさによって2つに分けることができる。

 

1)ウオーターフリースペース:イオンや電荷を持たない分子が自由に通過できる

2)ドンナンフリースペース:陽イオンの交換と陰イオンの反発が生じる

 

根での物質移動の障壁として中心的にはたらくのは、皮層細胞のもっとも内側にある内皮である。内皮細胞の細胞膜はカスパリー線にしっかりと結合しているため、皮層から中心柱に移動する物質(カルシウムを除く)は細胞膜を横断する必要がある。

 

4.2.2 Crossing cell membranes

 

植物細胞中のイオン濃度は、養分溶液中の濃度とは全く異なる(Fig. 4.3)。巨大藻類であるHydrodictyon(アミミドロ)では原形質や液胞でK+Na2+ Cl-イオンが濃縮されている(ただし陸上植物ではNa2+は細胞から排除されることが多い)。このことは、植物細胞でイオンの選択や蓄積が行われていることを示している。陽イオンや陰イオンなどの溶質を選択的に吸収する役割を担っているのは、植物の個々の細胞の細胞膜である。

 

Mechanisms of membrane transport: generating the driving force

 

一時的能動輸送primary active transportは、イオン特異的な輸送タンパク質(ポンプ)のはたらきによって、電気化学ポテンシャルの勾配に逆らってイオンの輸送を行う。一次的能動輸送によってつくられた電気化学ポテンシャルを利用して二次的に輸送を行うことを二次的能動輸送secondary active transportという。

 

動物細胞では一次的能動輸送を行うのはナトリウムポンプであるが、植物細胞には一次的能動輸送を行うナトリウムポンプが存在せず、そのかわりにプロトンポンプがはたらく。また、植物細胞は動物細胞と異なり、液胞膜でも一次的・二次的能動輸送を行う。

 

液胞膜では2種のプロトンポンプ、H+-ATPaseH+-PPiaseが一次的能動輸送を担っており、プロトンを液胞膜の中に運び込む(Fig. 4.4)。を動かすためのエネルギーは、H+-ATPaseでは ATPの加水分解エネルギーであり、H+-PPiaseではピロリン酸のダイマーから2つのリン酸のモノマーへの変換エネルギーである。

 

細胞膜にはH+-ATPase型のプロトンポンプの他に酸化還元のエネルギーを利用するプロトンポンプ(酸化還元ポンプ)も存在し、鉄イオンの輸送にも関わっている。土壌中では鉄は3価のイオンFe3+として存在しているが、根から吸収されるのは2価のイオンFe2+である。Fe3+を還元するのに酸化還元ポンプのはたらきによる電子の供給が関与している(Fig. 4.5)。

 

Secondary active transport: selective passage through membranes (Fig. 4.6)

 

チャネルやトランスポーターが二次的能動輸送を担う。

 

イオンチャネル:物質が通過する孔poreとしてはたらく。ゲートがあり、シグナルによって開閉する。輸送は受動的である。イオン吸収だけでなく、 Ca2+シグナリングや孔辺細胞の動作、木部へのイオンのローディングなどにも関与している。

 

トランスポーター:構造変化によって膜輸送を担う。場合によってはイオンの選択性が不完全な場合があり、K+トランスポーターはRb+K+も輸送することがある。

 

Solute uptake

K+Cl-,NO3-などのイオンやアミノ酸、糖類などはプロトンと同じ方向に同時に輸送される(共輸送symportFig. 4.7)。水生植物Lemna gibbaの外液にグルコースを加えると直後に外液PHの増加と膜ポテンシャルの増加が生じる。グルコースとともにプロトンが細胞内に運び込まれたためである。

 

Ion export

陽イオンは対向輸送antiportによって輸送される。耐塩性のある植物がナトリウムイオンを排除するときに利用される(Fig. 4.8)。

 

The role of the tonoplast

細胞の膨圧を調節するためにはK+イオンの濃度を高く維持することが必要であり、このときに液胞膜のアンチポーターがはたらく(Fig. 4.9)。

 

Calcium: a special case

Ca2+の量が少し変動するだけで酵素のはたらきに大きな影響が出て植物にとって非常に有害であるため、植物細胞の中ではCa2+の量を低く抑え、かつ一定に保つための強力な機構がはたらいている。原形質のCa2+を低い濃度に保つために、細胞膜にはCa2+-ATPaseがありCa2+を細胞外に運び出し、液胞膜にはH+/Ca2+アンチポーターがあって液胞にCa2+を運び込んでいる(Fig. 4.10)。

 

Ca2+がどのようにして内皮やカスパリー線を通過しているのかはよく分かっていない。シンプラスト経路で何らかのポンプ機構によって運ばれているのか、あるいは内皮の細胞の「防水性がない」わずかの部分をすり抜けているのかもしれない。

 

Ca2+は植物にとって有害である一方、不可欠な物質でもある(一次細胞壁の構造など)。植物はカルシウムの調節に完全には成功しておらず、農学的にはカルシウム不足による傷害は重要な課題になっている。

 

4.2.3 Transport within the cytoplasm

 

根の皮層細胞の中では、吸収された物質は拡散によって、細胞間連絡を通って移動していく。吸収された形態のまま移動する場合(K+,Na+など)と、窒素や硫黄のように代謝されて有機分子に変換されてから移動するものとがある。

 

4.2.4 Release of ions into the zylem

 

根から吸収されたイオンの大部分は皮層から中心柱に入り、木部道管に放出される。木部道管へのイオンのローディング機構はよく分かっていないが、トランスポートタンパク質を介してイオンが木部液に放出されるのであろうと考えられている(Fig. 4.11)。イオンは木部液に「漏れ出す」のではなく、細胞膜にあるH+-ATPaseなどにより精密に制御されている。

 

4.3 Availability of ions

 

4.3.1 pH of the soil

土壌のpHはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムやカリウムなどの陽イオンが多いほど高くなる。有機物や埴土clayの表面は負電荷をもつため、表面に陽イオンが結合して電気的二層構造となる(Fig. 4.12)。層状の構造をもつ埴土は、負の電荷を持つ土壌の層の間に陽イオンがはさまったような形状となる。埴土では陰イオンの溶脱は起こりやすい。一方砂はほとんど電荷がないため、陽イオンのリーチング(溶脱)が起こりやすい。

 

土壌のpHによって、存在するイオンの量が異なる(Fig. 4.13)。植物が窒素を利用するとき、陽イオンであるNH4+は低いpHで、陰イオンであるNO3-は高いpHで利用しやすい。植物の分布は土壌pHに強い影響を受ける。

最適pH:6.5前後。多くの必須元素が利用できる。

 

pH7.5以上(アルカリ性土壌):石灰岩土壌など。リン、鉄、マンガン、ホウ素や亜鉛が利用できなくなる。好石灰植物(キバナノクリンザクラ(写真)やロックローズなど)が適応している。

 

pH6.0以下(酸性土壌):カルシウム、マグネシウム、リンが利用できなくなる。アルミニウムによる害が生じる。嫌石灰植物(ツツジの仲間など)が適応している。

 

4.4 Regulation of internal concentrations of mineral nutrients

 

無機元素吸収を効率よく行うためには、土壌のイオン有効量を変化させたり、根の構造を変えたり、土壌微生物などと共生したりする必要がある。

 

4.4.1 Intracellular regulation (Fig. 4.14)

 

無機元素吸収のさいにはフィードバック機構がはたらいている。ある元素の吸収速度は、流入と流出のバランスによって決まる。ある元素が不足したときには流入量を増加させるか、あるいは流出量を減少させることによって吸収量が調節される。

 

リン、カリウム、イオウが不足したときには多くの輸送タンパク質が増加することが分かっている。例えば硫酸イオンが不足したとき(Fig. 4.15)、液胞の硫酸イオンや細胞質のアミノ酸システインが変化し、そのことがタンパク質の合成を誘導する。


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2006.5.22 半場

 

4.5 Nutrient foraging

 

4.5.1 The role of root exudates

 

根の根冠や表皮の次頂端細胞subapical cellからは粘性がある分泌物が放出される(Fig. 4.16)。分泌物には高分子の細胞外酵素と、低分子の多糖類や有機酸を含む粘液が含まれる。分泌物には根端を保護するだけでなく土壌からの養分吸収をしやすくする重要な役割がある。

 

Case study

 

アブラナはリン欠乏土壌(酸性土壌)から効率よくリン吸収ができる植物として知られている。リンが欠乏するとアブラナの根圏からリンゴ酸やクエン酸が放出される(Table 4.3)。これらの有機酸には次のような役割がある。

 

1)プロトン増加により根圏のpHを低下させ、高いpHでは不溶態となっているリン酸を可溶化する(リン吸収は最大で10倍になる)

2)鉄やアルミニウムと強く結合しているリン酸を可溶化し、同時に鉄やアルミニウムを植物が利用できる可溶態に変える

 

また根で生産される酸性ホスファターゼには土壌リンの3070%を占める有機態のリンを加水分解する非常に重要な役割がある(Fig. 4.18)。

 

4.5.2 Nutrient foraging: the importance of root architecture

 

通常の土壌では、根のリン酸吸収に強く影響する要因はキャリアタンパク質などによる輸送能力ではなく、根の伸長のような形態的な因子である(Fig. 4.19)。ただしリン酸欠乏土壌や有毒土壌では輸送システムの役割は重要である。また、根の形態は土壌の養分量だけでなく植物のサイズや生活史などの他の要因にも影響されることには注意する必要がある。

 

Root elongation and nutrient depletion zones

 

根が養分吸収を始めると、根の周りには養分が不足している領域が形成される。この領域は移動が容易であるイオンほど大きくなる(たとえば硝酸はリン酸の1000倍移動しやすいため、硝酸欠乏領域はリン酸欠乏領域よりもずっと範囲が広くなる:fig. 4.20)。養分吸収を確保するため、根は養分がある新しい領域へ次々と伸長していく必要がある。

The geometry of root system and individual roots

 

養分吸収を効率よく行うためには、直径の小さい根をなるべく広い範囲に低い密度で伸ばすのがよい(Fig. 4.21)。例えば、直径2mmの根と4mmの根をつくったとすると、養分欠乏領域が等しいという条件では、直径2mmの根は4mmの根の2倍の吸収効率になる。

 

実際には根系は養分分布の不均一さによっても変化する(Fig. 4.22)。オオムギの側根は養分が十分にある領域に集中して発達する。

 

根毛は長さ0.58mmで、養分吸収力が極めて高い。根端の近くにあるため最初に欠乏が生じるリン酸の吸収に最も効果的である(Fig. 4.23)。しかし、リン酸の吸収は菌根によってはるかに大きな影響を受ける。

 

4.5.3 Nutrient foraging: microbial symbioses

 

多くの樹木や灌木には細根が発達していない。これは菌根との共生によって養分吸収を高めているためである(例外はアブラナ科とイラクサ科)。菌根mycorrhizaとは、菌を意味するギリシア語mykosと根を意味するrhizonに由来する。

 

Mycorrhizal symbiosis

 

陸上植物の90%には土壌菌類がコロニーを形成しており養分吸収に中心的な役割を果たしている、ということはあまり知られていない。6000種以上の菌類が240000種の植物の菌根となっているが、菌根は種類の多さにもかかわらず形態的な変異は小さい。菌根の種類は菌糸が細胞壁を貫通して細胞膜と結合している内生菌根と、菌糸が細胞壁の外側にある外生菌根の2種類に分類される。菌根の菌糸は網のようになって根を覆い(Fig. 4.25a)、皮層細胞の間の菌糸はHartig netを形成する;Fig. 4.25b。内生菌根はエリコイド(ツツジ型)菌根と草本植物の大半が該当するアーバスキュラー菌根とに分類される。植物は菌類に炭水化物を提供し、菌類は植物への無機栄養供給を促進する(Table 4.4)。

 

菌根の役割(Table 4.5

1)根毛よりもはるかに細く、植物からはなれて広範囲に伸びて行くことができるため、大きな体積の土壌から養分吸収ができるようになる。

2)不溶のリンを可溶化したり、消化酵素によって有機物から植物に必要な栄養素を作り出したりする。

3)養分の濃度こう配に逆らった吸収を可能にする。

4)菌根の菌糸に養分を蓄えることができる。

 

菌類は濃度こう配に沿って受動的に植物から糖類の供給を受け続けるために、糖類をトレハロースやマンニトールに変えることによって濃度こう配を維持している (Fig. 4.26)。しかし、宿主である植物がどのようにして菌根のリン酸放出を促進しているのかはよくわかっていない。

 

宿主の植物が生産したもののうち2530%を受け取っている外生菌根もあり、菌根は植物にとってはコストが高い。しかし、Rubiscoの活性化によって光合成速度を上げることにより、このコストは吸収できていると考えられている。

 

近年は菌根によって植樹されている樹木の生産性を向上させる研究がすすんでいる(Fig. 4.27)。このような研究は40%以上の土壌が酸性化していたり貧栄養であったりする熱帯域で特に期待されており、ある種の内生菌根はチャやコーヒーを含む多くの作物の生産性を飛躍的に向上させるといわれている。

 

Nitrogen fixation

 

地球上でもっとも多く窒素があるのは大気である(窒素は大気の80%を占める)が、残念なことに植物は大気窒素を利用することができない。

 

ある種の原核生物は大気中の窒素を植物が吸収できるアンモニアに「固定」する。マメ科の植物はピンク色をした根粒をもっており、この中に根粒菌がいる(Fig. 4.28)。

 

根粒がピンク色をしているのは、レグヘモグロビンがあるためである。レグヘモグロビンは酸素結合タンパク質で、根粒中の酸素濃度を非常に低いレベルに維持している。窒素固定は嫌気的な反応であるため、酸素レベルを低く保つことが必要だからである。根粒菌は菌根菌と同様に、エネルギー供給を完全に宿主の植物から供給される炭素化合物に頼っているため、植物にとってはコストがかかる。しかし、窒素固定によって生産されたアンモニアのほとんどが植物に受け渡されるため、十分もとがとれる。

 

ハンノキやヤチヤナギなどの木本植物は、根粒に窒素固定を行う放線菌を含んでいる。ソテツや苔類では、緑色組織の嚢状胞に窒素固定を行うシアノバクテリアが住んでいる。このような植物の多くは酸性土壌や砂地や湛水条件のような窒素不足の土壌でも育つことができる。

 

農業的な観点からは、クローバーのように「生きている肥料」としてはたらく植物が重要である。また、将来は、肥料をあまり与えなくても高い生産性を持つような窒素固定を行う穀物を、菌類やバクテリアの遺伝子導入によって作り出すことも目標とされている。


Ridge, I. Plants Oxford University Press (2002)  4 Plant Mineral Nutrition

2006.6.19 半場

 

4.6 Toxic soils

 

4.6.1 Metal mining and mycorrhizas

 

鉛、亜鉛、銅などの重金属は土壌中の含有量が多くなると植物に有害な影響を与える。ある種の菌根は重金属の影響を緩和する役割を果たす。

 

例えば亜鉛濃度が高い土壌では、外生菌根が共生しているカバノキは、外生菌根の共生がない場合よりも成長がよく、地上部の亜鉛の蓄積が少ない。外生菌根が体内に亜鉛を蓄積し植物に亜鉛が同化されるのを防いでいると考えられる。このことはX線を使った解析によって証明された(Fig.4.32,4.33)。亜鉛は菌根の菌糸の細胞壁や菌糸の間の空隙に蓄積している。亜鉛は菌根の中でも特に成長部位から外側に向かって伸びている菌糸体に局在している(Fig. 4.34)。

 

4.6.2 Saline soils: salty solutions

 

ほとんどの維管束植物にとって、塩類濃度が高いことは有害である。

 

1)水分吸収が難しくなる

2)Cl-Na+の過剰吸収により酵素反応が阻害される

3)無機栄養類のバランスが崩れK+Ca2+などのイオン吸収が阻害される

 

塩性土壌に適応した植物には、塩生植物halophyteや多肉植物succulent(例:サリコルニアの仲間 Fig. 4.35、北海道のアッケシソウも同属)がある。多肉植物は液胞に塩類を蓄積し細胞質の塩類濃度を低く抑えている。

 

一方、海のラベンダーと呼ばれるlimoniumの仲間は塩腺から塩類を葉の外に排出する(Fig. 4.36)。また、seablitearrow grassの仲間は古い葉にだけ塩類を蓄積する(Fig. 4.37)。

 

ライムギなど通常の土壌で生育する植物が塩性湿地でもみられることがある。これらの非塩生植物は根からの塩類吸収を抑制することによって高い塩類濃度による害を防いでいる。

 

Fundamentals of salt resistance

 

Na+イオンはK+イオンと同じ吸収システムで吸収されていると考えられる。したがって、外部の塩類濃度を高くすると植物中のNa+イオン濃度が増加すると同時にK+イオン濃度が低下し、カリウム不足により植物の活力が低下しまた生長低下の原因となる(Fig. 4.38)。

 

塩類土壌で植物の活力が低下するもう一つの原因として、水分吸収の維持のため浸透圧を高める必要があり、そのために多くの貴重な資源を消費しなくてはならないことが挙げられる。非塩性植物ではプロリンやD-ソルビトールやマンニトールを合成する必要がある。

 

塩性植物のように体内に塩類を蓄積する方が、体外に塩類を排出するよりもエネルギー的なコストは安い。ナトリウムイオンを浸透圧維持に利用できるためである。しかし一方で、ナトリウムイオンの害やカリウムイオン不足の害を防ぐためのさまざまな機構が必要になる。塩性植物では、ナトリウムイオンの害に弱い部位を守るためにcompatible solute(競合溶質)としてグリシンベタインを合成する(Fig. 4.39)。

 

また、多くの塩性植物はカリウムイオンの代わりにナトリウムイオンを利用することにより、カリウムイオン不足の害を防いでいる。例えば、浸透調整物質としてカリウムイオンの代わりにナトリウムイオンを使う。また、ハゲイトウ(Amaranthaceae)の仲間はタンパク質合成のためにカリウムイオンの代わりにナトリウムイオンを利用する。

 

4.6.3 Aluminum toxicity: precipitating an acid problem

 

アルミニウムは地球の地殻の中で3番目に多い元素である。存在形態はpHによって異なり、中性から弱酸性までは不溶性のアルミノ珪酸塩、pH5.5以下の酸性では植物にとって有害なAl3+の形態となる。酸性土壌ではアルミニウムの害は穀物の生産を低下させる大きな要因である。

 

アルミニウムによる害は根の成長阻害である。アルミニウムによる害のメカニズムはよく分かっていないが、アルミニウムイオンの大きさがマグネシウムイオンとほぼ同じであることから、過剰なアルミニウムはマグネシウムイオンによって調節されている反応(シグナル伝達など)を妨害するのではないかと考えられている。

 

アルミニウム耐性がある作物が育種によって作り出されている。これらの作物は根端からアルミニウムを排出するため根端にアルミニウム蓄積が起こりにくくなっている。

 

アルミニウム排出は根からの有機酸分泌(リンゴ酸、クエン酸、無機リン酸など)によって行われる(Fig. 4.41424344)。有機酸はアルミニウムイオンと結合して不溶性の化合物を形成する。

 

アルミニウム耐性がある植物は有機酸を多く合成しなくてはならないため、コストがかかる。従って通常の土壌では他の植物との競争に勝つことができず、あまり優勢になることはない。

 

4.7 Crop development

 

栄養塩類に対する成長の反応は植物によって異なる(Fig. 4.45)。一般的には、穀物は栄養塩類に対する反応が敏感である。すなわち生産量を高めるためには多くの栄養塩類が必要である。

しかし、一方で有害土壌に対する耐性がある植物は栄養塩類の吸収力が低いことが多い。バイオテクノロジーの技術を使えば有害土壌に対する耐性が高く、同時に栄養塩類の吸収能力が高い植物を作り出すことができる可能性がある。あるいは菌根菌の利用も有用であろう。