3.WATER AND TRANSPORT IN
PLANTS【PLANTS】
3.1 INTRODUCTION
陸地の植物の柔らかい組織は、平均で90-95%の水を含んでおり、それらは全ての土壌から(または、ある着生植物の場合大気から)根によって吸い上げたものである。そして、それからその水は茎、葉、そして他の組織へと移動する。吸収された水の95%、もしくはそれ以上は植物中に留まらず、葉表面の気孔を通した蒸発を除いて、蒸散と呼ばれる過程、つまり葉が素早い蒸散を行うことで、時々刻々と自らの水の重量を失っていっている。この明らかな水の浪費は劣った植物のデザインを反映しているのではなく、陸地において光合成器官が存在することの必然的な結果である。
●何故光合成に付随して必然的に水が失われるのか?
→気孔が開くことはCO2を取り込むのに必要であるが、そのとき水蒸気が細胞内空間からこの道を通って葉の外に出てしまう。(Chapter2)
植物の機能はいくつかの方法でCO2の取り込みと水の損失の間の対立を最小にする。例えば、気孔をたいてい昼のみあいている。このため、夜間には蒸散が止む。しかしながら、厳しい水不足の状況では、気孔は昼の間も閉じており、このとき水の保持が光合成より優先される。植物は気孔が開いているときにも、水の損失を最小にするための多くの適応を見せる。(3.6)そして、水の供給、つまり降水は、気温とともに種々の地形領域において植生-高木林、草本、砂漠など-を決定する支配要因である。
蒸散はまた、陸地植物において二つの極めて重大な機能を果たしている。
・蒸散は葉を冷やすために働く。これは、葉の表面に振り注ぐいくつかの放射エネルギー が水を蒸発させるからである。
・植物全体の水の流れを誘導する(蒸散流)ことで、蒸散は根に吸収されて分解された無機栄養分の葉への輸送を促進する。
つまり、蒸散は全く悪いものではない。しかしやはり、多くの植物において、蒸散は気孔を統制するメカニズムによってしっかりと統制されている。(3.5�j
3.2 THE PATHWAY OF WATER MOVEMENT
●(a)水はどの組織の中を、茎を通って根から葉へと移動するのか?
→管組織。より正確には、木部の導管、もしくは仮導管。(Chapter1)
(b)この組織は根の中のどの位置に存在するか、またそれ故に水は土壌から根に入ったとき、どの方向に移動するか?
→根の中心。(Chapter1,Fig1.45)つまり、根に入った水は根を横切って表皮から中心へと放射状に動く。
(c)この組織は葉のどの位置に存在するか、またどのように、どんな形で葉に入った水はこの道を通って気孔に到達するか?
→葉脈に存在し、これはたいてい葉肉上方の柵状組織と葉肉下方の海綿状組織の間にある。(Fig1.30)気孔に到達するため、水は細胞中、そして/もしくは細胞壁にそって液体状で移動し、そして蒸発して気体(水蒸気)として拡散できる空気間隙に入り、気孔に到達する。
葉に達した水の一部は根や他の器官に糖輸送篩部を経て再循環する。(Chapter1&2)
水移動のタイプには次の二つが考えられる。
・Mass flow
圧力差による一つの方向への水と溶質の同時移動。これは、非常に速い移動が可能で、水の流れは圧力勾配に比例し、‘パイプ’の半径の4分の1の力を持つ。
・拡散移動
自由エネルギーの高い領域から低い領域への網状の流れを含むあらゆる方向への水分子の無作為な移動。mass flow に比べて短い距離(1mmくらい)で速く長い距離(1mかそれ以上)で極めて遅く、水が根から木全体の葉に拡散するのに何年もかかる。
木部での水の移動は明らかにmass flowによるものである。しかしながら、水が細胞壁を通って生きた細胞の細胞質に入るときは、たいてい拡散移動である。
●多くの細胞において、受動的拡散移動によってのみ越えることのできる遮断物は何か?
→細胞壁と原形質の間の細胞膜(原形質膜)
水は、決して輸送分子を経て膜を介して能動的には輸送されない。しかし、水の移動は特別な水選択チャネル(アクアポリン)によって促進される。(3.2.1.)土壌から中心柱にある木部への根を渡る放射移動の間は、水はたいてい少なくとも一つの細胞膜を横切って拡散移動する。それにもかかわらず、その道程のほとんどにおいて水は細胞壁にそってmass flowによって移動することができる。この細胞壁の経路をアポプラストと呼ぶ。
水が葉中を移動するときもまた、その経路は細胞中への拡散とアポプラストの移動の混合である。後者は葉が気孔を開いて素早く蒸散しているときに優位を占める。
3.2.1 ROOT SYSTEM AND WATER
MOVEMENT ACROSS ROOTS
陸植物にとって、効果的な水の摂取に重要な二つの事柄がある。
(1)土壌と根の間には親密な接点がある。
(2)土壌が恒久的に非常に湿っている限り、根は常に生長する。
●何故根の生長がそれほど重要か?
→植物の水要求はしばしば非常に高く、その位置の土壌を吸い尽くしてしまう。それゆえ根の生長は、常に利用される新しい土壌を確保する。
根にしっかりと付着した土壌(もしくは根圏)は、根と土壌の密な接点を確保するだけでなく、重要なしっかりと固定する機能を持っている。この安定は、根冠(Fig1.33c)由来の、またはあるバクテリア由来の粘液にもたらされている。根圏は表皮が完全で、根毛(Fig3.2b)があり、水や無機栄養分の摂取の主な場所に形成される。(Chapter4)根圏は主根と側根の両方にある。(Fig3.2)主根は種子から最初にもしくは地下茎から後で発達する根であり、生涯を通して生長し、それゆえ不確定として表される。側根は主根から発達し、多くは3-10cmとかぎられて生長する。すなわち、側根は根冠、先端分裂組織を失って生長が止まるが、吸収器官としては機能し続ける。実際側根は合計で主根の30倍もの長さがあるので、その結果水やイオンの吸収においてかなり重要である。側根は硝酸塩などの栄養分の多い土壌の一部において目覚しく増殖する。(Fig3.3)加えて、側根は渇水時に重要な役割を果たす。多くの科の植物において、主根の分裂組織が死なない限り、側根の乾燥抵抗の根本は渇水時に発達する。そして、ひとたび土壌が湿ると素早く生長し、活動的になる。
しかしながら、根の機能の研究の多くは大きく扱いやすいため主根で実施されている。主根の生長に沿って起こった変化の結果は、側根の発達も含み、Fig3.4に示す。
●成熟した木部導管とは、生きた細胞の中身を失い、死んだ細胞壁が破壊されたことを意味する。では、何故成熟した大きな後生木部導管がFig3.4の主な輸送地帯と一致するか?
→成熟した時のみ木部導管はmass flowによって地上部に水を運ぶことができる。これは、その大きな直径のために大きな後生木部導管がとても速く水を運べるからである。
RADIAL WATER TRANSPORT
Fig3.5は根の皮層を渡る水移動の可能な三つの経路を示している。
●アポプラスト以外の二つの経路とは?
→シンプラスト経路(Fig3.5b)は細胞質の中と、細胞壁を通り抜けて、原形質膜に並んだ孔(プラズモデスマータ,Chapte1)を通経ての細胞から細胞への移動を伴う。
細胞質を通り抜けるルート(Fig3.5c)もまた細胞中の移動を伴うが、水は細胞と、主に壁と膜を横切り、プラズモデスマータは経ない。
●それぞれの経路において、水は表皮と皮層を通って内皮まで動くときにいくつの膜を通らなければならないか?
→アポプラスト経路では通らない。シンプラスト経路では一つ(表皮から水が入ってきたとき)。細胞質を通り抜けるルートでは沢山(各細胞を通るときに二つの膜を通過する。また、液胞に入ったときにはさらに増える)
膜の水への浸透率が高く、水にとって細胞壁に沿うよりも膜を横切って移動するほうが簡単な種を除いて、輸送が急速なときはアポプラスト経路が有力である。もし輸送がゆっくり、または止まっているなら、シンプラスト、そして細胞質を通り抜けるルートが優勢になる傾向があり、たいてい内皮に渡るためにたった一つの経路だけが利用できる。
●アポプラスト経路は何故水が内皮に渡るのに利用できないか?
→根の壁は防水で、コルク化されたカスパリー線(原形質膜をしっかりと結び付けているもの)を持っており、それがアポプラスト経路を妨害してしまうから。
ある植物では後生木部の導管は、成熟した時コルク質やリグニンの沈着によって、厚くなったり、防水になるため、水が通りにくくなる。(Fig 3.6b)
水は、側根が発生したとき、もしくは、カスパリー線の存在する厚くなっていない細胞が存在するときのみ、コルク化した中皮をゆっくりと通ることができる。このとき、アクアポリンという、水が膜を通るのを促進するタンパクチャネルによって、水の動きが統制される。
カスパリー線だけを持つ中皮は、水の動きに対しては比較的弱い障壁にしかならないが、アポプラストの溶質の動きを阻むことにおいては非常に効果的である。
3.3 WATER POTENTIAL AND THE
DIRECTION OF WATER MOVEMENT
3.3.1 WATER POTENTIAL
水が動く能力は水ポテンシャル;Ψで定義され、水は水ポテンシャルの勾配に従って、つまり、高い水ポテンシャルの領域から低い領域へと動く。水ポテンシャルは水の自由エネルギーの規準であり、PaやMPaで表される。
駆動力は茎と外側の蒸留水の水ポテンシャルの差;ΔΨで表される。純水の水ポテンシャルは0であるため、茎の細胞は必ず-の値を持っている。
3.3.2 THE COMPONENTS OF WATER
POTENTIAL(Table 3.1)
静水力学的圧力;Pと、溶質の濃度は水動きに影響する。正の圧力は水分子が動こうとする傾向を増加させるため、水ポテンシャルを増加させる。
逆に、溶質分子はイオン化した水分子を引き寄せ、水素結合を増加させるため、自由エネルギーと動こうとする傾向が減少する。それゆえ、水ポテンシャルが減少する。溶質の濃度による効果は浸透圧;πで表される。以上のことより、次の単純な式が導き出される。
Ψ=P-π (3.1)
膜はめったに完璧な半透性ではなく、濃度のより高いところから低いところへの溶質の拡散は浸透圧を減少させる。膜の漏出性は、反射係数;σによる浸透圧の増加で定まる。この反射係数は、正確に半透性の膜に対して1であり、水や溶質に対し均一に透過性な膜、もしくは膜が存在しない場合に0である。ここで、式3.1は次のようになる。
Ψ=P-σπ (3.2)
水ポテンシャルに影響する他の要因は、コロイドや、表面を水の薄い膜で覆われた固体の存在である。マトリックプレッシャー;mと呼ばれるこの吸着効果が式3.2に影響する。
Ψ=P-σπ-m (3.3)
3.3.3 LIVING CELLS, OSMOSIS AND
TURGOR
浸透によって水を吸収したとき、動物と植物の細胞では大きな違いが生じる。(Fig 3.7)
植物細胞は細胞壁を持っているため、浸透による水の流入に従う膨張は、内部の静水力学的圧力;P、この場合は膨圧、が上昇するため妨害される。膨圧は、細胞壁に接する原形質によって発揮される。
植物細胞では、水ポテンシャルは、浸透圧と膨圧の両方に依存する。膨らんだ細胞は硬いので、膨圧は木部質でない植物組織を支えるために重要である。また、細胞の拡張は、若く柔軟な細胞壁が膨圧によって広がることに依存しているため、植物の生長にとっても極めて重要である。
外部の水ポテンシャルが変化するにつれて、細胞の体積と、浸透圧、膨圧に変化が起こる。(Fig 3.8)
外部の水ポテンシャルが減少すると、膨圧は素早く減少し、細胞が縮小する。この時溶質はより高濃度になるため、浸透圧は増加し、そのうち初期原形質分離が起こる。
細胞膜の水に対する透過性が水の動く速度を決め、この特性は水力学的伝導性;Lpで表される。この時、以下の式が成り立つ。
流速(ms-1)=水力学的伝導性(ms-1MPa-1)×駆動力(MPa)
流速=Lp×ΔΨ (3.4)
根の細胞膜の水力学的伝導性は各根によって、のみでなく、時間や種間でも広く変化する。
3.3.4 MEASURING Ψ, P AND π FOR PLANT CELLS
植物の水状態の研究に重要な手法として、以下のようなものが挙げられる。
・顕微鏡解剖技術
・非常に感度の高い電気系統
・非侵入性法(NMRなど)
MEASURING Ψ DIRECTLY
植物組織が溶液中に存在し、かつ、組織内外への網目状の水の移動がないとき、組織と外部の溶液は平衡で、水ポテンシャルも等しい。そのため、Ψextが分かって入れば、組織の水ポテンシャルの平均が分かる。
Box 3.1 APSYCHOROMETRIC METHOD TO
MEASURE WATER POTENTIAL
溶液の水ポテンシャルが下がると、いくらかの水分子が単位時間当たりに蒸発する。このことによって、蒸気圧の低下の原因となる。Ψtissueは、平衡状態で蒸気圧と直接的な関わりがある。
湿度測定法の装置についてFig 3.6aに、実際に測定し、作られたグラフをFig 3.6bに示す。
組織が壊れ、その液汁が使われる時、この方法で液汁の浸透圧を測ることができる。
MEASURING π AND P
Box 3.1で述べた方法では、個々の細胞の水ポテンシャルや浸透圧は分からない。しかし、現在では、一つの細胞の測定が可能になっている。(Box 3.2)
Box 3.2 THE PRESSURE PROBE AND
SINGLE-CELL SAMPLING
初期の圧力試験では、毛細管の中で大部分の細胞の液汁が失われてしまうために小さな細胞では用いることができなかった。(Fig 3.10)
しかし、最新の手法ではこの問題は解決された(Fig 3.11)
3.4 WATER FLOW IN SOIL AND XYLEM
3.4.1 MOVEMENT THROUGH SOIL
水はマトリックポテンシャルの勾配に沿って、土壌の湿った領域から乾いた領域へと移動する。このとき、一部は拡散で、大部分は大きな流れで移動する。土壌中を水がどれ程早く移動するかは、水ポテンシャルの勾配の急さと、土壌の水力学的伝導性に依る。
3.4.2 MOVEMENT THROUGH XYLEM:THE
ASCENT OF SAP
水は根から木部を通って高い木の頂上まで移動することができ、広く受け入れられているそのメカニズムは凝集力説と呼ばれている。
1 葉からの蒸散は水ポテンシャルの勾配を生み、木部から水を取り出す
2 葉脈木部の水ポテンシャルが下がるため静水力学的圧力が下がり、陰圧、もしくは張力が生み出され、それが蒸散流の駆動力となる。
3 葉の木部内張力は根まで伝播し、木部内で水の柱が形成され続ける。この水柱は次の項目によって成り立っている。
(a)丈夫で、木化した木部の細胞壁は張力下でもつぶれない
(b)水分子は水素結合によって強く木部導管の壁に付着している
(c)最も重要なことに、水素結合は水分子同士の凝集力を確実にし、水柱を保ち、低い圧力での水の気化を妨げる
このメカニズムは、重力や摩擦抵抗に逆らって水が動くために、木部内での-3MPa以上の水ポテンシャルの勾配を必要とする。プレッシャーチャンバ法(Fig 3.12)では、水が木部にそってカットした表面まで届くまでチャンバが加圧され、水ポテンシャルが上昇する。このとき、水がカットした表面に達したときのチャンバの圧力が元の木部張力と等しい。
プレッシャーチャンバ法では、-2MPa程度の圧力が測定され、この値は非常に高い植物の水の上昇移動を説明するのに十分低い。しかしながら、木部圧調査では、-0.6MPa以下の測定結果は得られておらず、この値は上昇移動を説明するのに十分でない。何故低い値が測定できないかは明らかではないが、木部内のキャビテーションに因るのではないかと考えられる。
XYLEM CAVITATION AND EMBOLISM
凝集力があるにもかかわらず、木部張力下の水柱は、一般的に準安定として述べられる。木部圧がかなり低くなる、もしくは地上部が傷付いた場合に、準安定な水は蒸発し、空洞は水蒸気を含み、木部導管内に空気が生ずる。この過程はキャビテーションと呼ばれ、これは溶液からさらなる空気を生じ、泡や導管を塞ぐように広がって水の流れを妨げる塞栓を生じる。(Fig 3.13)
1970年代に、生きた細胞でキャビテーションの頻度を測ることが可能になり、その頻度は考えられていたよりはるかに高かった。
1 Vulnerability
何が植物の塞栓に対するもろさを決めるのか?第一に、木部の構造が非常にじゅうようである。広い導管では、狭いものよりキャビテーションが起こりやすい。第二に、壁孔膜(Fig 3.14)の透過性と強度が塞栓に対するもろさに大きな影響を与える。木部壁中の孔は、横への移動や塞がれた導管を迂回することを可能にする。(Fig 3.15)しかし、壁孔膜はまた、空気の泡が閉塞された導管から他へと移動するのを妨げる障壁でもあり、(Fig 3.14)木部圧が非常に低い場合、この障壁は効果的でない。また、細かい泡は閉塞された導管の壁孔膜の孔を押し進み、隣接した導管でのキャビテーションのきっかけとなり、孔が大きいほど、‘空気の種’は起こりやすい。
2 Cause of cavitation and embolism
二つの状況が主に高い確率でキャビテーションに反応する。
(a)高い蒸散や低い木部圧を伴う水ストレスが空気の種をまくことを促進する。
(b)冬場に樹液が凍ることで、その樹液が溶けた際空気泡の大規模な形成が導かれる。
また、まれに病原体が塞栓を引き起こす。
3 Recovery from embolism
草本の植物にとって、成長期に塞栓を取り除く手段は生き残るために重要である。通常のメカニズムは根圧、つまり、木部のプラスの静水力学的圧力を通して行われる。根圧を通して木部の圧力は、プラスになるまで徐々にあげられる。また、効果的なことに、根の生きた細胞は、木部や土壌から切り離して、一個体のように働く。
根圧は普通小さいが、木部を通して水をゆっくり押し上げ、閉塞された導管を再び満たすのに十分である。この根圧による興味深い結果はguttation現象として知られる。
樹木においては、根圧は十分に大きくない。そのかわり、幹の非運搬組織が大きな貯蔵器として働くことができ、これは日中に木部導管へ水を供給し、夜間に満水にする。しかし、木部質の多い植物では、かなりの根圧を初春の芽がひらいて生長が始まる前に発達させるものもある。木部質の多い植物における、冬の凍結による塞栓から回復する他のさらに重要な方法は、春での新しい木部細胞の成長である。
3.5 TRANSPIRATION AND STOMATAL
CONTROL
植物が蒸散を行っているとき、根から吸い上げられた水の多くは水蒸気として葉から蒸発し、蒸散の駆動力は水蒸気の水ポテンシャルの差異である。この勾配に影響を与える主な要因は、水蒸気量もしくは、大気の相対湿度である。
蒸散における水蒸気の流れ(JWV)は駆動力であるΔΨと、葉から大気への水蒸気の拡散しやすさ(g)もしくはその逆の抵抗(r)に依存する。
JWV=ΔΨ×g=ΔΨ/r (3.5)
3.5.1 RESISTANCE TO WATER LOSS
植物の地上部は、ろう状で本質的に水をはじく表皮によって覆われているため、水蒸気の拡散は主に葉の気孔を通して行われる。(Fig 3.16)
気孔抵抗;rsは気孔の直径に依存して変わる。
水の損失に対する二番目の抵抗は、葉の表面を覆う水で飽和した空気の層、境界層である。境界層抵抗;rbは、葉の幅;wに比例した境界層の厚さ;l、風速;vに依存する。
rb∝l∝ w/v
(3.6)
様々な構造や過程が植物の境界層の厚さを増す(Fig 3.17)
気孔抵抗や境界層抵抗は、連続的に働くため、水蒸気の拡散に対する抵抗は二つの総計で表される。一般に、気孔抵抗が境界層抵抗より大きく、支配要因としてみなされている。自然において空気はほとんど留まることがなく、境界層抵抗は1.7scm-1以上になることがめったにない。つまり、気孔の開閉が葉からの水の損失の割合を制御�キる支配要因である。
3.5.2 THE MECHANISM OF STOMATAL
MOVEMENT
THE STRUCTURE OF STOMATA
気孔はそれぞれ孔辺細胞と呼ばれる細胞に囲まれている(Fig 3.19)
孔辺細胞と、孔辺細胞に密接に連なって機能している隣接した表皮細胞;副細胞を合わせて、気孔複合体と呼ぶ。
孔の直径は孔辺細胞の形に依存し、孔辺細胞の形は、その細胞壁の特性と膨圧に依存する。また、孔辺細胞の鍵となる特性は以下のようである。
1 素早く可逆的に膨圧を変化させることができる。
2 高いもしくは低い膨圧での孔辺細胞の形は、細胞壁の特性に依存する。(Fig 3.20)
孔辺細胞は次の2つの点で他の表皮細胞と異なっている。
(ウ)しばしば隣接した細胞とつながっておらず、独立している
(エ)葉緑体をもち、緑一色の細胞である
CHANGE IN GUARD CELL TURGOR
気孔が開いたとき、重要な事象は孔辺細胞における溶質濃度の大幅な増加である。
浸透圧の増加は種や環境、日時に依存した溶質の変化に伴って起こる。典型的に、気孔は日ごとの開閉リズムを持ち、夜明けの開放時には、特定のイオンが孔辺細胞で急激に増加する。
気孔が開く際には、カリウムイオンが細胞壁や周りの細胞から孔辺細胞中に流れ込む。カリウムイオンの吸収を導く鍵となる事象は、膜付着H+-ATPaseの活性化である。プロトンの運搬による電気化学的な勾配は、受動的にカリウムイオンを内へと移動させる。カリウムイオンの吸収は、原形質膜上の選択性カリウムチャネルによって行われ、これは、膜上の電圧や、カルシウム濃度や細胞質中のpHのような信号に反応して開かれる。
気孔の開閉におけるイオンの動き等をFig 3.22に示す。
孔辺細胞の浸透調節のスクロース依存面は、さまざまな種において広く確認されている。スクロースは貯蔵されたデンプンや、直接孔辺細胞原形質のC3サイクルから直接得られるようであるが、周りの組織から孔辺細胞へと入っていっているという証拠もいくつかある。何がスクロースの濃度を決定やカリウムからスクロースへの切り替えを制御しているかは分かっていない。しかし、常に後者は前者に続く。
3.5.3 STOMATAL EVOLUTION AND THE
CONTROL OF STOMATAL APERTURE
気孔は水の損失を防ぐため、また一方では二酸化炭素を得るために発展してきた。つまり、決して水不足に陥らない、または大気以外の場所から二酸化炭素を得ることができる場合、植物は気孔を必要としない。
気孔の発展における二酸化炭素の有効性の重要さは、化石植物の研究からもたらされる(Fig 3.24)気孔の密度と大気の二酸化炭素濃度の間には正反対の関係がある。
二酸化炭素濃度が低く、気孔の密度が高いときに、植物、中でも大きな木のような型のものは多大な多様性を見せる。それらは次の二点において気孔の高密度を必要とする。
(a)気孔が開いているとき:強い蒸散流を生み出し、その力で水や養分を運び上げるため
(b)気孔が閉じているとき:水不足の有害な効果対する十分な防護を提供するため
LIGHT AND CARBON DIOXIDE:LINKS TO
PHOTOSYNTHESIS
Carbon dioxide
孔辺細胞による二酸化炭素濃度の感知は、葉緑体色素のジアキサンチンの濃度に影響を与え、それはまた、光化学反応、気孔の光への反応に影響する。
Light
植物が十分に水で満たされ比較的湿った大気中にあるとき、気孔の開口は光の流れに非常に密接になる。(Fig 3.25)
光の知覚には二つの異なる系統が関わっている。
・PAR(光合成活性放射)は孔辺細胞の葉緑体のクロロフィル色素に吸収され、おそらくATPや有機溶質などの貯蔵物質を通して働くことで気孔の開口を促進する。この系統は比較的光が強いときに重要で、広い気孔開口に不可欠である。
・葉緑体中のキサントフィル色素であるジアキンサンチンによる吸収に依存した、青い光への依存系統。(Fig 3.26)夜明けにおける素早い開口を促す。
ABCSISIC ACID AND LINKS TO WATER
RELATIONS
多くの植物にとって、気孔の開口を水不足における最初の信号で減らすことは生き残りに重要である。(Fig 3.27)
水ストレスに関する気孔閉鎖の直接の信号は孔辺細胞中の生長因子であるアブシシン酸:ABAの増加である(Fig 3.28)
アブシシン酸では大まかには次のことが事実として論じられている。
1 ABA根で合成され続け、木部中を葉へ移動する。
2 葉中では、ABAはほとんど葉肉細胞に吸収され、壊れて不活性化する。
3 ABAの根の木部、葉の葉肉細胞への進入、アポプラスト区画への放出は細胞内外のpH に影響される。
anisohydricと呼ばれる植物では葉の水ポテンシャルは不変ではなく、根への水の有効性に依存している(Fig 3.29)
気孔開口の三つのパターンは三つの異なる水ポテンシャルに一致し、木部樹液中のABA濃度を変化させる。又、木部中のABA濃度が気孔コンダクタンスを統制し、葉の水ポテンシャルや大気の湿度の変化はほとんどコンダクタンスに影響しないことが確認されている。
一方、isohydricと呼ばれる植物では、日中の葉の水ポテンシャルが一定で、土壌の水供給に関わりがない。(Fig 3.30)
主な養分(N,P,Sなど)の不足はisohydric植物において気孔の開口を減少させ、これは根の水力学的伝導性;Lpの変化に関連があるようで、Lpの変化は中心柱細胞のアクアポリンの有効性の減少によってもたらされる。
3.6 SURVIVING WATER SHORTAGE
渇水の性質は二種に分類することができる。
・実際に土壌の水分が不足した場合(純粋な渇水)
・水は存在するが、塩分が高かったり、凍っていたりで利用不能な場合(生理学的渇水)
3.6.1 TRUE DROUGHT
植物は様々な方法で水不足を回避したり、抵抗したりする。(Table 3.3)
→Fig 3.31~3.34,3.36参照
AVOIDING WATER SHORTAGE
植物の水不足への適応は、その植物のライフサイクルに関係がある。
水を蓄える戦略の一つとして、土壌のほとんど湿ることのない地域にあるティランジアという植物は、霧によって地上部についた水滴を、葉の表面の特化した毛などから吸収し、生き残っている(Fig 3.35)
TOLERATING WATER
SHORTAGE:XEROPHYTES
耐乾性植物の重要な特徴として以下の点が挙げられる。
1 比較的小さく、直立した葉を持つ
2 耐乾性でない植物より、水ポテンシャルが十分に低くなるまで気孔は閉じず、気孔は水の損失を最小にすることで保護されている。
3 組織の水ポテンシャルは生きた細胞にダメージを与えたり、木部でのキャビテーションを起こすことなくかなり低い値まで下がることができる。
4 膨圧を失わない水ポテンシャルの減少は、溶質の蓄積、もしくは細胞が縮むのをかのうにする弾力のある細胞壁�揩ツことによってもたらされる。
砂漠の常緑低木は、他砂漠植物に比べ原形質分離及び最大膨圧時の浸透圧が高い(Fig 3.37)
3.6.2
PHYSIOLOGICAL DROUGHT
塩分の高い土壌では根の表面の水ポテンシャルが低くなるため、水の吸い上げが難しくなる。凍った状況でも似た問題が存在する。
細胞膜は高い溶質濃度によるダメージ効果に対し、オリゴ糖やプロリンを含む保護溶質の存在に守られているようだ。例えばキャベツでは葉がプロリンを吸収することで凍結抵抗が生まれる。しかし、全ての植物がこの方法で凍結抵抗を得られるわけではなく、これらは秋口に細胞中の化学組成に変化を受ける。これを寒硬化または、寒順応と呼ぶ。
3.7 PHLOEM STRUCTURE AND FUNCTION
木部での水の吸い上げと同様に、光合成(同化)産物や、窒素や硫黄の代謝産物、アミノ酸、グルタチオンのようなチオールなどは合成された器官や貯蔵されていた器官から使われる場所へと運ばなければならない。このような供給源から反応場への運搬は師部で起こる。つまり、木部や師部は、長い距離の転流が可能な管系統を提供しなければならない。
3.7.1
PHOLEM STRUCTURE
師部は維管束組織中に位置し、師部柔組織、篩管、伴細胞の三つの生きた細胞からなる。(Fig 3.38)
SIEVE TUBE
ELEMENT
篩管は最終的には、厚いセルロースの壁、原形質膜、しばしば大量の特別なタンパク質を含む水分の多い樹液を持つ。このPタンパク質はフィブリルとして存在し、篩部の損傷から植物を守る役割をしている。
COMPANION
CELLS
伴細胞は、細胞小器官にとって十分な補完物を持ち、篩管に自らを通してATPやタンパク質、その他の重要な分子を提供する。
伴細胞には三つのタイプがあることが現在確認されている。
・通常の伴細胞:壁が平らで、篩管以外の周りの細胞とのプラズモデスマータを介したつながりがほぼない。
・運搬細胞:プラズモデスマータと同じ性質を持つが、他の細胞に接している壁は、多くの内部生長部を持ち、それは表面積を大幅に増やす。
・中継細胞:壁は平らで、プラズモデスマータによって周りの細胞と結合。(Fig 3.39)
3.7.2 EXPERIMENTAL STUDIES AND
PHLOEM FUNCTION
師部が知られる前の初期の実験では、樹木から樹皮を輪状に取り除く(樹皮と、師部を含む柔組織を取り除く)手法が導入されていた(Fig 3.40)
1930年代の実験では師部が葉の外側の転流に関わりのある組織とし確認され、1945年には重い炭素同位体の13Cの有効性が師部輸送の方向と柔軟性を論証するのに用いられた。(Fig
3.41)
放射性の14Cが有効になった1950年代には、放射線写真術(Fig 3.42)を利用して篩間が転流に使われる管であることを証明することが可能になり、師部樹液の組成や運搬率の情報が集められ始めた。
COMPOSITION
OF PHLOEM SAP
木部の樹液は概ね薄く、若干酸性であるが、一方で師部の樹液は15~30%の溶解した固体を含み、pHは7.2~8.5である。Fig 3.44に、師部樹液の組成を示す。
RATES
OF PHLOEM TRANSPORT
溶質の流れは篩管の面積と、specific mass
transfer rateもしくはSMT(単位時間当たりに、篩管を通る溶質量)に依存する。
SMT=樹液濃度×平均速度
3.8 THE MECHANISM AND CONTROL OF
PHOLOEM TRANSPORT
3.8.1 THE PRESSURE FLOW HYPOTHESIS
圧力流仮説が、現在師部の輸送の手段として受け入れられている。この動きは、水力学的圧力の勾配によって起こるmass flow力によって起こる。(Fig 3.45)
PREDICTIONS
OF THE PRESSURE FLOW HYPOTHESIS
圧力流説の重要な予測、つまり篩管に沿った十分な圧力、取り除かれた師板、一つの篩管内に二方向性の流れがないこと、経路上の代謝抑制への輸送の鈍感さというものは、実験的研究によって支持されている。
3.8.2 PHLOEM LOADING
師部の充填には、投入のエネルギーが必要であり、また、これはアポプラスト、シンプラストのいずれかで起こる。(Fig 3.47~3.49)
アポプラスト充填は、乾いた、寒い地域でよく働く後から進化したメカニズムであると認識されている。
3.8.3 PHLOEM UNLOADING
師部の脱充填はほぼシンプラストで起こるか、またはアポプラストの段階を踏むものがある。(Fig 3.50)