輪読ゼミ資料4回田中圭祐
2PHOTOSYNTHESIS
2.1INTRODUCTION
緑色植物は光合成によって全てのエネルギーを得ている。光合成は光エネルギーを化学エネルギーに変換する過程である。
光合成反応のうち、明反応は「光」の部分であり、暗反応は「合成」の部分(炭酸固定)である。
明反応と暗反応は密接に関わる。
他の好気性生物と同様、植物も光合成と逆の反応である呼吸を行う。また、呼吸は見かけの(測定される)光合成速度を下げる(光合成速度のデータを扱うときには注意が必要)
光合成の研究について
レベル |
学問領域 |
対象 |
測定するもの |
時間スケール |
|
1 |
分子 細胞小器官 細胞 |
生化学 |
単離した葉緑体 単細胞の緑藻 精製した酵素 |
O2の放出 CO2の取り込み 酵素活性 クロロフィル蛍光 |
秒(またはそれ以下)〜分 |
2 |
植物体全体 葉 |
植物生理学 |
調節可能な条件下に置いた植物または葉 |
O2の放出 CO2の取り込み |
分〜時間 |
3 |
群落 |
生態学 作物学 (作物生理学) |
()圃場で生長する植物 ()水中の植物プランクトン |
乾物重量の増加量 O2の放出 CO2の取り込み |
週〜月・年 分〜時間 |
この章では主にレベル1と2について考え、次の3つのことに重点を置く。
(1)全ての緑色植物に共通する基本的な生化学的しくみを整理・紹介する。
(光合成の明反応や炭酸固定について)
(2)明反応や炭酸固定に関して、分子レベルでの進行がどのように調節されているか。また、温度や光強度のような環境要因が分子レベルや植物体レベルで光合成にどのように影響を与えるかを説明する。
(3)分子レベルと植物体レベルの変化によって、植物が異なる環境にいかに順応するかを示す。
2.2PHOTOSYNTHETICLIGHTREACTIONS
2.2.1CHLOROPLASTSANDTHESTUDYOFTHELIGHTREACTIONS
葉緑体にはクロロフィルa以外に2つの異なるタイプの色素がある。クロロフィルbとカロテノイドである。両者はクロロフィルaよりも短い波長の光を吸収する(クロロフィルa:670nm,クロロフィルb:650nm,カロテノイド:540nm)。このため、光合成に利用できるスペクトルの範囲が広がる。
エネルギーの移動はカロテノイド→クロロフィルb→クロロフィルa→反応中心の順で起こる。このとき、漏斗のような働きをするアンテナ分子がエネルギーを反応中心に移す。
光合成における電子伝達と光リン酸化は葉緑体の膜やラメラ上で起こるが、分子の構成要素はでたらめに配置されているのではない。この、でたらめではない配列は明反応の調節と協調の上で重要できちんと調べる必要がある。
PSUは、グラナの内膜(ラメラ)の制限を受ける。グラナは接近して存在し、平たく押し付けられた膜と説明される。
PSTとATP合成酵素はストロマラメラの制限を受ける。シトクロムb6f複合体は全てのラメラ上に生じる。そのため、PSUの大半はPSTから相対的に遠い位置にある。
非循環型電子伝達系(PSU→シトクロムb6f→PST)を考慮しながら、この構造配置の機能上の関係を探ると、この経路には移動性をもった電子キャリヤーであるプラストキノンとプラストシアニンによる長距離往復輸送が含まれていることが分かる。
循環的電子伝達系はPSTによる光の吸収と、フェレドキシンを介した励起電子のプラストキノン、シトクロムb6fへの移動、さらには電子がキャリヤータンパクのプラストシアニンを介してPSTに戻ってくる経路がある。NADP.2Hは生じないが、プロトンポンプがATP合成に用いられる。
2.2.3PROTECTIONAGAINSTTOOMUCHLIGHT
植物にとって、過剰な光は障害になり得る。植物はエネルギーと資源の面でコストを最小にしつつ、この障害を防いだり小さくするようなしくみを多様化させ進化させてきた。
(1)葉の性質や構造
植物のなかには、自身の葉の方向を調節することで太陽光線と平行な位置を保ち、光の遮蔽を最小にするものがある。
(2)分子メカニズム
強い光はフリーラジカル(ROS)の生成を通して葉に障害を与え得る。ROSに対する一般的な防御反応には、キサントフィルサイクル(ROS形成を妨げる)、酵素によるROS分解、PSU内のD1タンパクの急速な分解と修復が含まれる。
reversibleな(修復メカニズムが関係する)障害は光抑制とよばれる。ireversibleな障害は光酸化とよばれる。陰葉では修復能力が制限されており、簡単に光酸化される。一方、陽葉は修復能力が高く、通常は光酸化されない。
2.3CARBONFIXATION:THEC3CYCLE
炭酸固定は、無機の炭素(CO2や炭酸水素塩HCO3-)を有機物に転換することであり、独立栄養生物の代謝活動を定義づけるものとされている。炭酸固定による炭水化物の合成反応は1つの回路を構成しており、C3回路あるいはCalvin回路とよばれる。
2.3.1REACTIONSOFTHEC3CYCLE
C3回路は葉緑体のストロマに存在する。この回路は大きく3つの過程(カルボキシル化、還元、再生)から構成される。
CO2がリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼ(Rubisco)の作用によりリブロース1,5-ビスリン酸と反応して3-ホスホグリセリン酸(PGA)2分子を生成する[カルボキシル化]。生成物の3-ホスホグリセリン酸(PGA)はNADPHのはたらきによりグリセルアルデヒド3-リン酸となる[還元過程]。グリセルアルデヒド3-リン酸の6分の1はグルコースなどヘキソースの合成に利用され、6分の5はリブロースリン酸を生じ、ATPによりリブロース二リン酸に戻る[再生過程]。
2.3.2RUBISCO-THEPREMIERENZYME
ルビスコは光合成の最初の反応でCO2を捕捉する。また、ルビスコは葉のタンパクの半分程度を占めており地球上で最も多く存在するタンパクである。ルビスコのフルネームはリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼである。
ルビスコは非常に大きな酵素で分子量は約56万である。シアノバクテリアと大部分の真核生物においては、ルビスコは8つの大サブユニットと8つの小サブユニットから成る。緑色植物では、これら2つのサブユニットはそれぞれ葉緑体と核にコードされている。
ルビスコの働きは、C3回路の最初の反応を進めることである。すなわち、CO2を利用しRuBP(リブロース1,5-ビスリン酸)をカルボキシル化してPGA(3-ホスホグリセリン酸)を生成することである。また、ルビスコはオキシゲナーゼとしても働く。オキシゲナーゼ反応ではO2はRuBPと反応してPGAとホスホグリコール酸を生じる。CO2とO2はルビスコの基質として競合する。
2.3.3CONTROLOFFIXATION
呼吸と同様、複雑で何段階もの反応があるC3回路には制御メカニズムが存在する。
レベル |
影響を受ける要素 |
結果 |
遺伝子制御・環境要因(光) |
酵素量(特にルビスコ) |
回路の最大速度を決定する |
大雑把な生化学的制御 (光および他の環境要因によるもの) |
活性化されたルビスコ および他の酵素 |
回路の停止/減速 および開始/加速 |
細かい生化学的制御 (光によるもの) |
反応速度と酵素活性 |
回路の速度の細かく制御する |
C3回路の全体制御は酵素(特にルビスコ)量によりなされる。大雑把な生化学的制御は明条件では回路を開始させ、暗条件では回路を停止させるが、これらの働きはルビスコ(Rubiscoactivaseを介して)やその他の酵素(ferredoxin-thioredoxinsystemを介して)の活性を調節することで実現される。細かい生化学的制御はpHやMg2+,ATPおよびNADP.2Hのレベルを介してなされる。
2.4THEC2CYCLE
C2回路はルビスコのオキシゲナーゼ反応の直接的な結果であり、この反応でホスホグリコール酸を生じる。この回路は長い間、光呼吸として知られていた。というのは、光呼吸は光条件下でのみ起こり、O2の吸収とCO2の放出が見られるためである。しかし、真の、言い換えれば「暗」の呼吸ではエネルギーは放出されないが、C2回路ではATPが使われる。このため、光呼吸という用語は言わないようになりつつある。そして、C2回路もoxidativephotosyntheticcarboncycleという言い方のほうがむしろ好まれている。
C2回路の反応は、葉緑体、ペルオキシソームおよびミトコンドリアで起こる。反応には、酸化、脱カルボキシル反応、アミノ化/脱アミノ化が含まれる。O2はペルオキシソームで使われ、CO2はミトコンドリアで放出される。さらに、3つの細胞小器官の間に窒素の回路が存在し、NH3がミトコンドリアから葉緑体に通り過ぎる。
C2回路の重要性は大気中のCO2とO2のつりあいを調節することである。
2.5CARBONDIOXIDE-CONCENTRATINGSYSTEMS
CO2濃縮システムはルビスコのCO2濃度を高め、オキシゲナーゼ反応とC2回路の働きを最小にするものであり、3つの型に分けられる。
(1)水生光合成生物(シアノバクテリア、藻類の一部、水生植物)では、無機の炭素(Ci)ポンプとcarbonicanhydraseが使われる。
(2)C4植物では、KranzanatomyとC4回路の組み合わせが含まれる。CO2は最初に葉肉細胞内で4-炭酸塩に固定され、維管束鞘細胞で放される。大半の牧草や熱帯環境にあるカヤツリグサ科では、CO21分子を固定するのにATPが2分子必要になる。
(3)CAM植物では初期のCO2固定とC3回路の働きに時間的隔たりがある。CO2は夜間にリンゴ酸として液胞で固定・貯蔵され、日中に放出される。分類学的にも構造学的にもCAM植物はC4植物と比較して多様性に富んでいる。また、CAM植物は日中には気孔を閉じているために蒸散の割合がとても低い(水利用効率がとても大きい)
2.6THEPHYSIOLOGYOFPHOTOSYNTHESIS
生理学的レベルでは、成長につながる正味の光合成は、光やCO2の利用のしやすさと温度に制限される。
[C3植物とC4植物の比較]
|
C3植物 |
C4植物 |
CO2の固定 |
カルビン・ベンソン回路 |
C4回路,カルビン・ベンソン回路 |
光飽和点 |
低い |
高い |
光合成の最適温度 |
低温から高温(15〜25℃) |
高温(30〜40℃) |
光合成速度とO2濃度 |
大気中のO2濃度を増すと 光合成が阻害される |
大気中のO2濃度に影響されない |
耐乾性 |
弱い |
強い |
分布 |
広く分布 |
熱帯や亜熱帯のサバンナ地域 |
[陽生植物と陰生植物の比較]
|
陽生植物 |
陰生植物 |
補償点 |
高い(1000〜2000lx) |
低い(100〜500lx) |
光飽和点 |
高い |
低い |
呼吸速度 |
大きい |
小さい |
光飽和時の光合成速度 |
大きい |
小さい |
耐陰性 |
弱い |
強い |
2.7PHOTOSYNTHESISANDTHEFUTURE
現在、地球をとりまく環境は変化しつつある。たとえばCO2濃度の上昇や平均気温の上昇があげられる。こういったことが植物の光合成にどのような影響をもたらすのかを考える必要がある。