研究紹介

論文として出版された研究を紹介します。業績リストはこちらにあります。

地球温暖化対策としての都市緑地の有効利用

京都議定書や気候変動枠組条約締約国会議では、温室効果ガスの吸収源として森林に加え、都市緑地が位置づけられている。日本では二酸化炭素削減量の5%を都市緑地による効果に期待している。しかし既に市街地化した都市部の緑地面積を大幅に増やすことは容易ではない。既存の緑地において光合成による二酸化炭素吸収効率を高めることができれば、都市緑地の二酸化炭素吸収量を大幅に増加させることが可能である。これまで温暖化対策としてどのような樹木種が有効であるのかという観点はほとんどなかった。都市域では大気汚染対策は進んで来た一方でヒートアイランド現象による高温・乾燥化の進行が著しい。都市緑地の光合成能力を最大化するためには、これまで注目されてこなかった「乾燥ストレス」を緩和することが有効である可能性がある。
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乾燥ストレスと光合成特性を都市域と郊外の街路樹で比較した。イチョウ以外の樹種については都市域の方が夏から秋にかけて炭素安定同位体分別が低い傾向を示したことから、これらの樹木は都市域で郊外よりも強い乾燥ストレスを受けていることが示唆された。
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ソメイヨシノでは都市域の方が郊外よりも気孔コンダクタンス(気孔の開度に関係する)は最大で50%低く、水利用効率はおよそ2倍であった。都市域のソメイヨシノには郊外よりも強いストレスがかかっていることが示唆された。
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管理方法を工夫することにより街路樹の夏期の乾燥ストレスによる光合成能力の低下を緩和できる可能性がある。イチョウおよびソメイヨシノの苗木に潅水あるいはマルチングを行なったところ、梅雨明け後の夏季には光合成速度が上昇した。さらに、イチョウとソメイヨシノでは乾燥ストレスに対する応答が異なり、イチョウの方が土壌の乾燥ストレスに対して葉の水分状態を保持する能力が高いことがわかった。乾燥ストレス耐性が高い樹種を選び、また適切な管理を行なうことにより、街路樹などの都市緑地の光合成による二酸化炭素吸収は大きく増加することが期待できそうである。
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葉内の二酸化炭素拡散と光合成機能

植物の葉の光合成速度を制限する最も重要な要因の1つとして炭素固定の基質となる二酸化炭素の量が挙ある。二酸化炭素の分圧は、気孔を通ってクロロプラストまで拡散していく間に半分以下にまで低下してしまう。従って、葉の内部での二酸化炭素の通りやすさ(葉肉コンダクタンス)は、葉の光合成速度に関わる重要な要因である。

シダ植物における葉肉コンダクタンスと光合成機能

日本、スペイン、エストニア、チリの4カ国の共同研究により、シダ35種の光合成機能と葉肉コンダクタンスを調査した。高等植物と同様にシダ植物でも葉肉コンダクタンスは光合成速度を決定する主な要因の1つであることが明らかになった。
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シダ植物における葉肉コンダクタンスのCO2応答

シダ植物は気孔コンダクタンスの環境応答が高等植物とは異なる点があることがわかっているが、葉肉コンダクタンスの環境応答はほとんど調べられていない。2種のシダ植物で葉肉コンダクタンスのCO2応答を調べたところ、高等植物とは異なって、大気の濃度以下にCO2濃度が低下した場合は葉肉コンダクタンスが低下することが明らかになった。
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図6
 

アクアポリンと葉の光合成機能

水輸送を担う膜タンパク質であるアクアポリンの中には二酸化炭素を透過するものがあり、二酸化炭素に対する拡散抵抗を減少させることによって光合成速度の増加に寄与している可能性がある。

アイスプラントのアクアポリンMIPBがタバコの光合成に果たす役割

アイスプラントのアクアポリンMIPBを過剰発現させたタバコの葉において、光合成速度の増加、葉内拡散抵抗の減少および成長の促進がみられた。MIPBも二酸化炭素を透過する能力を持っており、葉内拡散抵抗の減少を通じて光合成速度の増加や成長の促進をもたらしたと考えられる(Kawase et al. 2013)。
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オオムギのアクアポリンHvPIP2;1がイネの光合成に果たす役割

オオムギのアクアポリンHvPIP2;1を過剰発現させたイネを用いて、アクアポリンの葉内の拡散抵抗に対する役割を評価した。その結果、アクアポリンの増加により葉内の拡散抵抗が減少することが示され、二酸化炭素が細胞膜のアクアポリンを透過している可能性が強く示唆された。Plant Cell Physiology (2004) 45(5): 521-529
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日本国内におけるイネ科植物のC3/C4分類と分布特性

 
イネ科植物は冷温帯から亜熱帯まで広く世界中に分布し、異なる光合成型(C3型とC4型、あるいはC3-C4中間型)があることが知られている。光合成型の分類には、(1)葉の内部構造、(2)CO2補償点、(3)炭素安定同位体比 などの方法が用いられる。しかし東アジア地域に多く分布するイネ科草本植物について光合成型の分類を行った研究は少なく、特に炭素安定同位体比を使った分類はほとんどされていない。地球温暖化などの環境変化に対してC3型とC4型とは異なった応答を示すことから、光合成型の分類は植物の環境応答に関する基礎情報として重要である。
1931年から2003年までに日本を中心とした東アジア・東南アジア8カ国で収集されたイネ科野生植物のさく葉標本を用いて、6亜科、144属、429種について、炭素安定同位体比の分析を行った。炭素安定同位体比を用いてイネ科野生植物の光合成型をC3型とC4型とに分類した。イネ科植物429種のうち、237種がC3、192種がC4と判定された。
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C3とC4の比率は生育地の特徴によって異なり、C3はC4と比べると林内や湿地など比較的光が弱く湿潤な場所を好む傾向があり、また高地にはC3しかみられなかった。 C4と比べるとあまり高温・乾燥には強くないというC3植物の一般的な特性と矛盾せず、世界的な分布パターンとも一致する(Sage 1999)。 一方、標本が採取された年代と炭素安定同位体比との関係をみてみると、採取年代が新しくなるほど炭素安定同位体比が減少する傾向が認められた。文献から推定された大気中CO2の炭素安定同位体比が年代とともに減少するパターンと似ており、大気中CO2の同位体比の年代による変化が標本の炭素安定同位体比にあらわれていることが示唆された。Ecological Research (2010) 25:213-224
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